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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第105話 深刻な問題




「まぁ早い話……力よ。弱いマフィアなんて聞いたことないでしょう?」



 ベラドンナは、まるで今日の天気でも語るかのような軽い口調を崩さない。


 しかし、その穏やかな仮面の裏側で、極めて深刻な問題に直面しているのは紛れもない事実だった。


 最近、組織に加入してくる人間の質が、一様に、あまりにも悪すぎるのだ。



 特に致命的なのは、その魔力の練度の低さだった。



 実戦の場に駆り出すには程遠いほどに細く、澱んだその魔力の巡りは、裏社会の苛烈な抗争を生き残れるような代物では決してない。


 人員補充は、確かな腕前を持つ者を外から引き抜く『スカウト』が主流ではあるが、一応、自ら組織の門を叩く者たちも少なくはない。


 かつては、己の腕っぷしだけを頼りにのし上がろうとする、本物の命知らずが次々とやってきたものだった。


 生傷を誇らしげに晒し、法も秩序も恐れぬ剥き出しの凶暴さを手土産にしてやってくる異能の徒。


 実力が本物であるか、あるいは見ていて面白そうか────そう判断した者を、彼女は貪欲に組織へと引き入れてきた。



 だが、最近はどうか。



 やってくるのは、どこまでも中途半端な実力、中途半端な覚悟の輩ばかり。


 最初から「強い」と呼べるような、即戦力の輝きを持った逸材はめっきり減ってしまった。



 他人の敷いたレールの上をただ器用に歩いてきただけの、尖った部分が何一つ存在しない退屈な有象無象の群れ。


 故に、最近は新人の『育成』にかなりの力を入れるようにしている。


 素材としての拙さを組織の管理によって補い、実戦で通用するだけの最低限の戦力へと叩き上げようという、かつては必要のなかったはずの手順。


 しかし、いかんせんその成長速度が、ベラドンナの想定を遥かに下回るほどに著しく遅いのだ。


 どれほど膨大な訓練の時間を費やし、実戦の場を踏ませて刺激を与えようとも、その歩みは遅々として進まない。


 いつまで経っても前線を任せるに足る確かな実を結ばないその絶望的な停滞の理由。



 その理由は、いたって単純。

 そして、この世界の誰もが抗うことのできない、残酷な規約に起因していた。




 魔力────




 それは、人間が生まれたときから魂に刻まれた絶対の器。


 その許容量とも言うべき器の大きさや、純度を高めるための練度の限界は、まだ瑞々しい精神を保っている若い時期───具体的に言えば、『18歳』という境界線を迎えるまでにほぼほぼすべてが決まってしまうのだ。


 成人前の未熟な時期にのみ許された魂の急激な膨張は、その年齢を境にして文字通りピタリと停止し、強固な殻のように冷たく凝固してしまう。


 どんなに血の滲むような努力を重ねようとも、自らの身を削る過酷な戦場に身を投じようとも、一度18歳を過ぎて固まった器を後から広げることは極めれ困難である。


 それまでに積み上げた上限こそが、その者が一生をかけて行使できる力の絶対的な総量であり、その天井を力技で押し広げるような手順など、限りなく少ない。



 だからこそ、目の前で緊張しているイオが、半年という短い期間でどれほどの異常な成長を遂げたのか────



 ベラドンナが彼に向ける視線の温度は、穏やかな淑女のそれでありながら、同時に極上の兵器を見つめるかのような、昏い光を帯びていた。


 すでにその臨界点を突破し、限界の先へと手を伸ばしている少年の存在。


 人間の可能性という器の天井を内側から力技でぶち破り、世界の前提そのものを根底から覆しかねないほどに膨張を続ける、その計り知れない異質な価値。


 それまで誰も成し得なかった奇跡の結晶を目の前にして、彼女の胸の奥深くにある知的欲求と、血を求める冷徹なまでの思惑が、静かな熱を帯びて混ざり合っていく。


 そのあまりにも稀有な現実を前にして、彼女の脳内にある戦略の歯車は、世界をさらに深く染め上げるための新たなる手順を、静かに、そして確実に導き出そうとしていた。



「で、あなたに聞きたいのよ。どうすればいいかって?」



 ベラドンナは、組んでいた長い脚を優雅に解くと、今度はイオの瞳を真っ正面から覗き込んだ。


 鈴を転がすような声音。だが、そこから放たれる圧倒的な質量の前に、部屋の空気は鋭く張り詰めていく。


 まさか組織の幹部すら頭を悩ませる深刻な人員問題を、自分のような新人に直接投げかけられるとは、イオは夢にも思っていなかった。



「俺にそんな大それた話を……」



 イオは完全に気圧され、額からタラリと冷たい汗をにじませた。


 いつものおっとりとした大人の余裕を纏う彼女の言葉だからこそ、その手順の裏に隠された意味を測りかねて、ただただ圧倒されるしかない。


 だが、ベラドンナはそんな少年の緊張を優しく解きほぐすように、ふふ、と妖艶に微笑む。


 机の上の書類を細い指先で弄びながら、まるで面白い悪戯の結末を心待ちにしているかのような、どこまでも優雅な佇まい。



「さっきも言ったけど、簡単な質問よ……若い人間の意見も参照しようかとね」





第106話は、土曜日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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