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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第104話 まだ子供




「へぇ~、ルトラの背中を預けれるなんて、随分な成長じゃない」



 ベラドンナから、甘く、そして深い満足感を孕んだ声音が滑り落ちる。


 それは執務室に停滞していた気配すらも一瞬で甘美な香りで塗り替えてしまうほどに、優雅で淑やかな、至上の響きを帯びていた。


 だが、その声が響いた直後、彼女の美しい切れ長の瞳は、まるで手に入れた極上の獲物を値踏みし、検分するかのようにじっとイオの全身を真っ正面から捉えた。



 ただ座っているだけだというのに、その視線が宿す圧倒的な質量だけで、修羅場に慣れていない普通の冒険者であれば呼吸を忘れ、恐怖でその場に腰を抜かすほどの凄まじい威圧感。


 白亜の貴族街ベイレールの全権を裏で牛耳るサイレントの絶対者が、目に見えない強烈な重圧の障壁プレッシャーとなって少年の細い身体を容赦なく圧迫していく。


 しかし、その刃のように鋭く研ぎ澄まされた視線の奥底に揺らめいていたのは、他者を切り捨てる冷酷な敵意などではなく、自らの手中に収めた駒が想像以上の化け物へと育ちつつあることに対する、紛れもない最上級の『関心』と、狂おしいほどの深い愉悦に他ならなかった。



「いや! 自分はまだまだです!!」



 ベラドンナからの直々の称賛に、イオは一瞬で顔を耳まで真っ赤に染め上げ、大慌てで首と両手を横に振った。


 全身を縛り付けるようなあの圧倒的な威圧感から解放された安堵と、魂の底から憧れを抱く絶対的なボスを前にした極限の緊張。


 その二つの熱量が爆発したかのように少年の細い身体を震わせ、任務の現場で見せたであろう冷徹な顔はどこへやら、今の彼はただ憧れの大人に褒められて激しく照れまくっている、純朴な少年の姿そのものだった。



 どれほど裏社会に染まろうとも、その内面にはまだ年相応の幼さと自分たちを泥水の中から救い上げてくれた女性への純粋な慕情が、確かに息づいている。


 重厚な意匠が施されたボス執務室の中に、一瞬だけ硝煙の匂いを忘れさせるような、少年らしい平穏な温度が優しく流れるのだった。



 そんな和やかな空気の中────



「……じゃあ、一つ質問してもいいかしら?」



 ベラドンナは、ふと何か面白い悪戯でも思いついたかのように、その美しい切れ長の瞳をどこか妖しく、そして愉しげに細めた。


 向けられた視線の裏に潜む、戦いそのものに対する狂おしいほどの情熱と渇望がほんの僅かに覗くその気配に、イオの背筋にはゾワリとした特有の緊張が走る。


 しかし、それは決して冷酷に睨みつけるような凄みではなく、むしろ愛すべき有能な部下たちを前にして、これから投げかける問いかけに対する彼らの反応を心待ちにしているかのような、艶やかな佇まい。


 自らの机前に立ち尽くす配下たちの次なる躍動を楽しみにしているかのような、どこまでも優雅で、圧倒的な余裕に満ち満ちた大人の微笑みをその端正な顔立ちに浮かべていた。



「は、はい!! なんでしょう!!」



 イオは弾かれたように背筋を伸ばし、部屋の静寂を震わせるほどの大きな声を上げた。


 その優雅で上機嫌な佇まいのまま、どこまでも圧倒的な余裕に満ち満ちた大人の笑みを深めたことを。


 逃れることなど到底叶わない崇高な力が、今まさに艶やかな微笑みの奥から放たれ、自らのすべてを優しく包み込むかのように向けられている。


 大人の余裕を纏っていようとも、彼女の一挙手一投足には、ただそれだけで周囲のすべてを自らの領域へと従えてしまう圧倒的な格の高さが満ちており、少年の五感は、その隠しきれない王者の気配に強烈なまでの緊張を走らせるのだった。



「そうかしこまらなくてもいいわ。簡単な質問よ……最近、部下の育成が滞っててね」



 ベラドンナはふふ、と艶っぽく微笑み、机の上の書類を細い指先で弄んだ。

 その態度はどこまでも優雅で、淑女そのもの。


 だが、その楽しげな会話の延長として何気なく口にされた『部下の育成』という響きには、甘やかなおっとりとした余裕を纏いながらも、今まさに自らの前で直面しかけている現実の問題に対する、確かな本題の重みが静かに含まれていた。


 どれほど穏やかで気品に満ち溢れた美しい声音を響かせようとも、これから語られるであろう組織の動向に関わる、揺るぎないことわり


 悪戯っぽく瞳を細めるその言葉の奥底には、ただそれだけで周囲を従える圧倒的な格の高さと、一切の甘えを許さない裏社会の確固たる手順が、静かな質感となって淡々と脈打っているのだった。



「と、いいますと?」



 ゴクリ、と喉を鳴らすイオ。


 彼の隣で、ルトラすらも無言で表情を強張らせていた。

 部屋の内部へと再び降りてくる静寂の真ん中で、ただ静かに状況の推移を見守るように、男は一切の冗談を排してその真剣な佇まいで押し黙っている。


 ベラドンナは弄んでいた書類からゆっくりと手を離すと、組んでいた長い脚を優雅に組み替えた。



 そして、鈴を転がすような、どこまでも優雅でありながらも、言葉の芯に確かな絶対の質量を乗せた声音で、その真理を紡ぎ出す。



「まぁ早い話……力よ。弱いマフィアなんて聞いたことないでしょう?」





第105話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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