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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第103話 アットホームな職場




「ふふふ、からかうのも大概にね……」


「すいません、ボス……でも、知っての通り、さっきまでの依頼の時の雰囲気がまるで違いましてね」



 ルトラは、隣で未だに緊張してカチコチになっている少年へと視線を向け、感心したようにそう言葉を続けた。


 先ほどまでの血生臭い依頼の現場で見せていたあの他者を一切拒絶するような冷徹な眼差しはどこへやら、ボスの前に出た瞬間に借りてきた猫のように硬直しているその少年のギャップ。


 他愛のないからかいを交えながらも、その言葉の裏には、戦場で少年の見せたあまりにも凄まじい実力に対する、本物の戦士としての深い敬意が隠しようもなく滲み出ていた。


 一歩この要塞ビルの外に出て任務の引き金に指をかければ、特権階級の貴族たちが支配する白亜の街の裏側で、どんな過酷な障害であろうとも容赦もなく排除してみせる冷酷な牙。


 そんな裏社会の戦場を幾度となく最前線で潜り抜けてきたルトラだからこそ、目の前のボスのためだけにすべての殺気を綺麗に消し去り、ただの線の細い十代の姿に戻って立ち尽くしているイオのその異質な佇まいが、たまらなく頼もしく、そして同時に焦れったいほどに微笑ましく思えて仕方がなかったのだった。



「今の緊張してるこいつ見ると、まだ子供なんだと思ってついついね」


「ルトラさん!! また俺をガキ扱いして!!」



 イオは顔を真っ赤にしながら、今度こそ本気で憤慨したように声を上げた。


 どれだけ実力を認められ、どれだけ裏の任務において感情を交えずに冷徹に引き金を引こうとも、こうして私生活の場に戻れば、ルトラにとってはただの「拾ったガキ」のままなのだ。


 その不満げな少年の様子が、重厚な意匠が施されたボス執務室の内部に漂っていた張り詰めた緊張感を、さらに綺麗に霧散させていく。



「面白いけど、勘弁してやってくれない? ルトラ」



 ベラドンナは、高級な革椅子に深く腰掛けたまま優雅に頬杖をつき、困った子供たちをあやす母親のような優しい声音でクスリと笑った。


 その言葉は酷く穏やかで、部屋の内部を優しく包み込むような本物の慈愛に満ち溢れている。


 だが、その声のトーン一つ、指先一つ動かすだけで、ルトラは一切の冗談をその身から排し、即座に深く頭を下げた。



「はい、ボス」



 ボスの絶対の命令であり、逆らうことなどミリ単位すら許されぬ絶対の規律。


 ルトラは短い平伏とともに、静かにイオの線の細い肩からその大きな手を離した。

 執務室の中に、どこか心地よく、温かい陽だまりのような緩んだ空気が、ただ滑らかに満ち溢れていく。


 イオは嬉しそうに胸を撫で下ろし、ルトラもまた顔にある無骨な戦傷を少しだけ緩め、その顔に穏やかな笑みを浮かべていた。



 側から見れば。

 それは、上司と部下の深い信頼関係がとても行き届いた、絵に描いたような『アットホームな職場』そのものの光景だった。



 ────この組織が、汚れなき白亜の石造りの建物が並ぶ貴族街ベイレールを裏から完全に支配し、時に手段を選ばずすべての利権と敵を蹂躙する、最凶のマフィア『サイレント』であるという職種を除けば……だが。



 地下の秘密倉庫から数多の客室に至るまで全館を完全武装の要塞として機能させているその組織の真ん中で、彼らはその血生臭い本質を一切感じさせないほど、あまりにも美しく平穏な調和をそこに保っていた。



「にしても、そんなに強くなってるの?」



 ベラドンナは、細くしなやかな指先で自らの端正な唇の端から美しい顎のラインをなぞりながら、興味深そうにその瞳を細めた。


 他者の有能さを一瞬で見定める冷徹な戦略家であると同時に、彼女自身が圧倒的な『戦闘マニア』の本性をその服の下に隠し持つ、戦闘の申し子。


 配下の戦闘力がどこまでも肥大化していくその手順は何よりも心地よい報告であり、彼女の胸の奥底にある戦いへの渇望を、最高にご機嫌な形で満たす特上のごちそうに他ならなかった。


 その妖艶な視線を正面から受け、ルトラは誇らしげにその強靭な胸を張った。



「はい、出会ったころも中々の強さでしたが、今はさらに強くなって……生意気にも今日の仕事は、私の背中を預ける形になりまして」



 ルトラは、顔の傷を緩めるようにして、どこか不器用な笑みをその無骨な顔に浮かべた。


 数多の凄惨な戦場を最前線で潜り抜けてきたルトラが、自分の背後────すなわち、自らの命のすべてをその少年に委ねて戦ったという、揺るぎない現実。


 それは、まだ十代の線の細い少年イオが、すでにこの裏社会を震撼させる『一人前の戦力』として、完全な形で完成を迎えつつあるという、何よりの証明だった。



「ルトラの背中を預けれるなんて、随分な成長じゃない」



 ベラドンナは、自らのすぐ隣という絶対的な特等席の優位性から、街を一望する窓の夜景へと視線を向け、その言葉の裏にある確かな満足感を唇から滑らせた。


 イオがどれほど真剣に頭を下げていようとも、彼女の壊れた知性と冷徹な計算は、すでにこの少年のもたらす新たなる『使い道』のすべてを、裏社会で美しく組み立て始めているのだった。





第104話は、木曜日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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