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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第102話 救われる者




「ふふふ……マフィアの私に感謝とはね……」



 ベラドンナは、イオのあまりにも純粋な忠誠心に、可笑しそうにクスリと喉を鳴らした。


 高級な革椅子に深く腰掛け、卓上を照らす光の真ん中で頬杖をつく彼女の微笑みは、どこまでも美しく、名誉ある貴族たちの社交場に佇む淑女のようであり、気品に満ち溢れている。


 だが、その淑やかな微笑みの下には、その気になりさえすれば選び抜かれた特権階級の集うこの絢爛たる白亜の街すら一瞬で焦土に変える、冷酷な本性が隠されている。。


 あの地獄のような日々から救い出されたあの日、彼女の放った圧倒的なまでの異次元の力を身を以て知っているからこそ、この少年は、その底知れない暴威の主に畏怖と崇拝の念を抱いているのだった。



「お前の知り合いに知られたら、白い目を向けられるんじゃない?」


「いえ!! 私と妹をあの地獄の日々から救ってくれたのは、ボスがいたからです!!」



 イオは、ベラドンナの言葉を途中で遮るほどの強い調子で、必死に、そして狂信的とも言える熱を帯びた瞳でそう言い放った。



 思い出すだけでも反吐が出る、あの暗く冷たい貧民街の地獄。


 その血生臭い奈落の底で、飢えと暴力に怯え、いつどこで野垂れ死んでもおかしくなかったイオと妹の運命。


 他者からはただの使い捨てのゴミのように扱われ、誰一人として救いの手を差し伸べてはくれなかったあの終わりのない暗闇の中から、自分たちの手を優しく引いて救い出してくれたのは、神でも国でもなく、目の前のマフィアのボスだった。


 だが、その過酷な日々の記憶を引きずっているのは、決してイオたちだけの話ではない。



 彼の傍らに立つ巨漢──ルトラもまた、かつては法も秩序も届かない凄惨な戦場の最前線で、ただ力と暴力だけを頼りに今日を生き延びることしか許されない、文字通りの地獄の底を這いずり回っていた過去を持っていた。


 全身に刻まれた無骨な戦傷の数々は、信じられる仲間すら持てず、ただ他者を切り捨て、自らの血を流し続けてきた暗い日々の足跡。


 そんな終わりのない殺戮の螺旋の真ん中で、彼に戦うための真の目的を与え、マフィアの盾としてその強靭な牙を拾い上げてくれたのもまた、ベラドンナという絶対者だった。


 だからこそ、傷だらけの顔を歪めて少年の肩を叩く彼のその手つきには、同じ奈落から這い上がってきた者同士の、言葉にせぬ確かな共感と、ボスへの絶対的な忠誠の念が静かに宿っているのだった。



 そのルトラのからかいを交えた仕草に対し、イオは自らの内にあった重苦しい記憶の澱を吐き出すかのように、さらに言葉を続けた。



「他の者達は私たちをゴミのように扱うだけで、誰も救ってはくれませんでした……今話しかけてくる奴らも、私たちの羽振りがよくなったから近づいただけです」



 吐き捨てるような言葉。


 まだ幼さの残る十代の少年のものとは思えないほど、彼の言葉の裏側には、裏社会の現実を嫌というほど見てきた冷徹な諦念が混じっていた。


 富と名誉を満喫する貴族たちの誰もが自分たちをゴミのように無視していたからこそ、自分たちを『利用価値のある駒』として、しかし人間としての最低限の生活を与えてくれた組織への忠誠は、何よりも硬く、絶対に揺らぐことはない。



「おいおい、ボスがいたからって……俺はどうなんだ?」



 重苦しくなりかけた部屋の停滞した空気を払拭するように、ルトラがその顔にある無骨な戦傷を歪めて、意地悪くニヤニヤと笑いながらイオの線の細い肩を背後から叩いた。


 この巨大な要塞ビルの全館を日夜処理する裏社会の凄惨な戦場を、常に最前線で潜り抜けてきた風格を漂わせる巨漢からの、他愛のないからかい。



 普段は地上の誰をも寄せ付けない冷徹な殺気を放つルトラであるが、今ばかりはその強靭な巨体を少しだけ弛ませ、線の細い少年の焦る様子をどこか楽しげに、そして嬉しそうに煽り立てていた。


 いつもは無骨なその表情に、拾い上げた部下への大好きな気持ちといたずらっぽい優越感をいっぱいに浮かべながら、嬉しそうに首を傾げて彼の困惑顔を覗き込み、ご機嫌な笑顔で彼を追い詰める。


 どんな修羅場でも敵を圧倒してきたあの有能なルトラが、自分の手のひらの下で大慌てになっている少年を、最高峰の愉悦をその全身からこれでもかと放ちながら、楽しそうにからかい倒すのだった。



「も! もちろん!! ルトラさんも……!! いや、サイレントの皆様全員のおかげでして!!」



 ルトラの不意のからかいに、イオは一瞬でさっきまでの冷徹なシリアスな顔を崩し、少々焦りながら大慌てで両手を振ってその不純な誤解を弁明する。


 その必死に頭を下げる無防備な少年の様子を、高級な革椅子に腰掛けたベラドンナは、まるでお気に入りのチェスの駒を愛でるかのような、穏やかで美しい微笑みを浮かべながら見つめていた。



「ふふふ、からかうのも大概にね……」



 鈴を転がすような、どこか可笑しそうにクスリと笑う気配を含んだベラドンナの声。


 腰掛けたまま、ルトラのからかいに大慌てで手を振っているイオの必死な様子を、彼女はまだおもしろそうに見つめながら、その端正な唇の端を優しく緩めていた。





第103話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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