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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第99話 どうした(どうした)




「触れて記憶を読めば、俺の過去がどれだけ崇高であり、雲一つないか……お前にも一発で分かるだろう」



 そんな傲慢なまでの自負を込めて、ミカの目の前に無防備に伸ばされたアロンの右手。


 歪んだフィルターで自らを悲劇の聖者へと仕立て上げようとする占い師に対し、ただ一点の曇りもない絶対の真実を突きつけるために差し出された手のひら。




 ────だが、その瞬間。




 アロンのすぐ隣から、ゾクッとするほど冷ややかな、物理的な『圧力』を持ったような視線がミカに向けて容赦なく突き刺さった。



「…………」



 リンカだった。


 彼女は、アロンがミカに向かってまっすぐに伸ばしたその手を、じっと、そして露骨に『ムッとした表情』で見つめていた。



 普段のミステリアスで飄々とした雰囲気はどこへやら、その美しい眉根は不機嫌そうにきつく寄せられ、静かな瞳の奥には、明確な不満と────そして隠しきれない激しい『嫉妬』の炎が、ゆらりと静かに灯っている。


 さっきまではミカの妄想に乗っかり、上機嫌にアロンをからかい倒し、自身の優位性を満喫していたはずの女が、別の女の手がアロンの肌に直接触れようとしたその一瞬で、表情の温度を完全に失っていた。


 目の前で堂々と差し出された無防備な手のひら、そこへ伸ばされようとしている他人の指先、そのすべてが気に入らないと言わんばかりに、いつもの涼しげな顔立ちを急速に不機嫌な色で塗りつぶしていく。



 まるでそれは私のものだ……というように見つめるリンカ。



 アロンの隣という唯一無二の特等席も、すべては自分だけに独占することが許された絶対の不可侵領域なのだ。


 そこに他の誰かが指先を伸ばし、彼の肌に直接触れることなど、たとえ記憶を読み解いて無実を証明するという大義名分が目の前にあろうとも、リンカが許すはずもなかった。



「おい、なんでまたお前は機嫌損ねてるんだ?」



 アロンは、隣から放たれるあからさまな絶対零度のオーラに、呆れたように口を開く。

 先ほどまで楽しそうに自分のことを弄り倒し、上からお姉さんぶっていた相棒が、本当に一瞬のうちに、手のひらを返したように張り詰めた無言の圧を放ち始めているのだ。


 アロンからしたら、これほど頑なに他人の話を聞かない占い師を前にしたときと同じように、目の前の彼女がなぜ突然へそを曲げて絶対零度のオーラを放ち始めているのか、その理由が完全に意味不明であった。



「これが私の普通だが?」



 リンカは、ぷいっと露骨にアロンから顔を背けると、ツンと尖らせた唇から酷く冷淡な声音を絞り出した。


 どのような感情の揺らぎも含まれていないと言わんばかりの平坦な声音であるが、それは傍らで聴くアロン達にとっては、どこまでも他愛のない強がりの響きにしか聞こえない。


 完全に横を向いてしまったその美しい横顔の輪郭、そして他者を一切拒絶するように頑なに結ばれたその唇の様は、どう見ても、大切な彼氏がほかの女に直接触られそうになったその瞬間、胸の奥底から激しい独占欲と不満が沸き上がって制御できなくなっている、恋する彼女のそれだった。



 表面上は誰をも寄せ付けず、他人の行動など気にしていないかのように完璧に澄ましてみせている。


 だが、アロンが自らの意思で、目の前の他の女に対して何一つ躊躇うことなく直接その肌を触れさせようとしたその明確な事実に、自らの最も深い秘部を侵されたかのように胸の奥を激しく逆撫でされているのだ。


 どれほど無関心を装おうとも、自らの意志でアロンから視線を逸らし、その大きな背中に対して絶対零度の冷たい圧を放ち続けているその頑なで不機嫌な態度こそが、彼女の内面にある強い執着を、何よりも物語っていた。



「嘘をつくな嘘をつくな、さっきまで上機嫌だったよね?」



 アロンは、自らの言葉を一切崩すことなく、リンカに向かって言葉を返した。


 どれほど彼女がいつも通りの普通を装って冷淡に言い張ろうとも、そのあまりにも分かりやすすぎる態度の変化の前に、アロンはただただ呆れ果てるしかなかった。



「知らん……ぜいぜいミカに触れられて鼻の下伸ばせばいいのさ」



 リンカは抑揚のない声音のまま、さらに突き放すようにしてそう容赦なく言い放った。


 アロンへの特別な情と、他人に彼を触れさせたくないという剥き出しの不満。



 そんな言葉の裏側にある、隠そうともされずに漏れ出た最高に甘やかで愉しげな素顔が、そのへそを曲げた言葉の端々にこれでもかと漂っていた。



 アロンが一切のアクションを起こさないからこそ、自分のアプローチが日々ひそかに過激さを増しているというのに、当の本人が他の女に対して無防備に手を差し出しているという現実が、彼女にとってはたまらなく不快で、面白くないことだった。


 















































「どうした」


 















































 アロンが、これまで自分が生きてきた中で一番の、心の底から出た混じり気のない「どうした」であった。


 大切な相棒が突然見せたその尋常ではない豹変振りを前にしては、状況に困惑するより先に、ただ純粋にその身が心配になってしまったのだ。



 アロンの視点からすれば、つい先ほどまで何一つ変わらない日常の延長として、普通に言葉を交わして笑い合っていたはずだった……


 それが本当に一瞬のうちに、手のひらを返したようにおかしなことを口走っている。



 前々から、リンカは少々情緒の波が激しく危うい部分があるのではないかとは思っていたが、ついに頭が完全にイかれてしまったのではないかと、アロンは本気で彼女の精神の安否を心配し始めるのだった。


 もしかして、自分に隠れて他人の知らない深刻な二重人格にでもなっちまったのかと、本気でその状態を疑ってしまうレベルの変わりよう。



 目の前には自分を傷物にしたがる女に、横には頭がイかれてしまった女……


 アロンは、自らの頭を抱えるしかなかった。




第100話は、明日の【 12時40分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。

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