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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第98話 独特な自尊心




「イチャイチャしないでください!!!」



 遮るもののない広大な暗闇の空間に、ミカの限界を迎えた絶叫が再び激しく響き渡った。

 両拳をぎゅっと力任せに握り締め、顔を真っ赤に染め上げながら、床の硬い石床を激しく踏みつける彼女のその佇まい。


 目の前で繰り広げられる、あまりにも距離の近い二人の掛け合い。


 先ほど交わされたリンカの言葉をそのまま言葉通りに受け止めるのであれば、彼女はすでにアロンの母親から正式に認められ、その実家側からの強固な結託によって、外堀のすべてを完璧に埋め尽くされている状況だということになる。


 それはミカの目から見れば、どのような角度からどうひっくり返して観察したところで、他人が立ち入る隙など最初から一ミリも存在しない、ただの甘ったるい『イチャイチャ』にしか見えなかった。



 この過酷な処刑場の真ん中だというのに、先ほど一度ならず二度までも『イチャイチャするな』と限界の絶叫をぶつけたばかりであるにもかかわらず、その数分後にはまたしてもこの始末なのだ。


 いや、言っても無駄なことはあらかじめ分かりきっていたことでもあった。


 そもそもこの二人は、道中の宿場町での寝泊まりにおいてすら、何の躊躇もなく同じ一つの部屋を割り当てて共に過ごしているというのだ。


 これほど強固な外堀を埋められ、これほど露骨にリンカの側から一方的なアプローチをかけられ続けているというのに、なぜこの男は、男として何一つ次のアクションを起こそうとはしないのか。



 もしも自分がアロンの立場であったなら、これほど美しく凛とした女性を前にして、とっくの昔に力ずくで押し倒して、その関係をもっと抜き差しならない深さへと進めているだろうにと、ミカは自らの脳内でそんな他愛のない邪推を重ねるのだった。




「いや、だからイチャイチャなど……」



 しかしアロンという男は、心底心外だとばかりに、引きつった笑みをその顔に浮かべながら、両手を大きく振ってその不純な誤解を否定した。


 彼からすれば、これはただの他愛のないいつもの日常の会話を交わしているだけに過ぎないのだ。


 普段と何も変わらない、ごく当たり前のやり取りなのだから、自分がリンカとイチャイチャしているという自覚すら、今の彼には微塵も存在してはいなかった。



 彼からしたならば、すべては自然なスキンシップの延長とでもいうのだろうか。


 ゆえに、アロンが一切のアクションを起こさないからこそ、リンカの側からのアプローチが日々密かに過激さを増しているのだという事については、リンカ以外誰も知らない。



「それももういいですから!……でも、そうですか、辛い過去を持つ二人のバディー……いいですね」



 ミカは、ふぅーっと胸の奥に溜まっていた熱い空気を深く深く吐き出して、自身のリンカとの間に繰り広げていた生々しい妄想をも頭の中から完全に払い飛ばし、どうにか感情を落ち着かせた。


 すると、また壮大な物語の美しい結末を特等席で見届けたかのように、胸の底から深く満たされた慈愛の笑みをその顔に浮かべた。


 目の前に佇む二人は、過酷な運命に抗い、お互いに他人に言えない深い心の傷を必死に隠しながら、相棒として絶対の信頼の元に背中を預け合って生きる孤高の戦士なのだ。


 どれほどアロンが『何も無い』と真実をありのままに叩きつけようとも、リンカが呆れていつも通り淡々と一蹴してみせようとも、彼女の脳内にある『アロンとリンカの物語』は、もはや涙なしには語れない、美しくも切ない最高級の群像劇の真実として、完全な形で完成を迎えていたのだった。



 他人に余計な心配をかけまいとして、どこまでもいつも通りの気の抜けた仮面を被り続けている不遜な男と、その彼の孤独な歩みをすべて理解した上で、実家公認の軽妙なやり取りでその背中を静かに支え続けている女。


 その二人が織りなすどこまでも美しく、どこまでも尊い絆の完成形を前にして、ミカの張り詰めていた脳内フィルターは、これ以上ないほどの深い感動と熱い崇拝の念によって完全に満たされ尽くしていくのだった。



 勝手な思い込みの領域にまで達した彼女の瞳からは、深い崇拝の熱だけが静かに満ち満ちていた。


 これほどまでに達観した冷徹な瞳をしていられる理由を、自分自身の手で完璧に暴き、その傷跡に寄り添うことができたのだという、どこか救われたかのような歪んだ母性。


 その瞳は完全に潤み、世界を救うために自らを犠牲にした崇高な聖者の背中を見るかのような崇高な輝きを帯びている。



「お前もしつこいな……ならほら、俺に心理魔法を使って調べてみろ」



 彼は人から尊敬されたり、崇拝されたりすること自体は決して嫌いではないし、むしろ大いに好む性質の男だった。


 だが、それはあくまで自分の本物の実力や圧倒的な優秀さをありのままに知らしめた上での話であり、今回のように勝手な悲劇のドラマを妄想されて、的外れな理由で「すごい人だ」と勘違いされて拝まれることは、彼の独特な自尊心が何より嫌う。


 歪んだフィルターを通した崇拝などではなく、自身の凄さを何一つ嘘偽りなく正確に理解してもらったうえで、その絶対的な格の違いに平伏してもらうことにこそ、彼は何よりも重きを置いているのだ。



 故に、彼女が勝手に涙ぐんでいるような悲しい過去など最初からどこを探したって本当に無いのだという、その一点の曇りもない絶対の現実を真っ正面から証明しようと、心底やれやれというようにその強固な肩をすくめた。


 これ以上くだらない感傷に付き合うのは時間の無駄だとばかりに首を横に振りながら、ミカに向かって自らの右手をすっと迷いなく差し出した。



 生肌に直接触れることでしか発動しない、彼女がこの暗闇の中で研ぎ澄ませてきた『心理魔法』。

 リンカの脳内を覗き見たその特殊な能力の手順を、今度は自分に対して使ってみろと言わんばかりに、それを自らの意思で受け入れるために、差し出したのだ。



 彼にとっては、これまでの歩みも、その底知れない暴威の源も、すべては超優秀な自分にふさわしい、どこまでも格式高くて堂々とした自負があるからこそ、その手のひらを差し出す動作には微塵の躊躇いも存在してはいなかった。



「触れて記憶を読めば、俺の過去がどれだけ崇高であり、雲一つないか……お前にも一発で分かるだろう」





第99話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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