表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
103/110

第94話 勘違い




 なぜ、この男はこれほどまでに理不尽に強いのか。


 なぜ、その隣にいる女は世界の裏側の悪夢を覗かれながらも、これほどまでにあっけらかんと普通に笑っていられるのか。



 目の前で並んで佇む二人の姿を見つめながら、ミカの脳裏には、ある一つの切実な予感が静かに浮かび上がっていた。




 ────自分と同じだ。




 この男もまた、その底知れない暴威の裏側に、自分やリンカと同じような、他人に言えない暗い足跡や過酷な重荷を引きずって生きているのではないか。


 そうでなければ、こんな光の届かない地獄の底で、これほどまでに達観した冷徹な瞳をしていられるはずがない。



 この男の中にも、自分と同じ暗闇きずあとがあってほしい────そんな、どこか縋るような波長をその瞳に宿しながら、彼女の視線は、血の海の真ん中でどっしりと不遜に腰掛けているアロンのその瞳を、真っ直ぐに捉えた。



「あなたもリンカさん同様に、何か暗い過去を背負っているんですか?」



 そうでなければ、ミカにとっては絶対に論理的な説明がつかない現実だった。


 人間の常識では到底計り知れないこれほどの理不尽なまでの圧倒的な強さ……


 あの理解をはるかに超えた強大な恐怖をその身に抱えるリンカが、わざわざこんな締まりのない男の隣に従い、平然と歩調を合わせている本当の理由。



 この男の背後には、一体どれほど深く、血塗られた『暗い過去』と、二度と這い上がれないほどの過酷な絶望が隠されているというのか────


 傷つき、重荷を背負う『本物の冒険者』としての壮絶な足跡を暴き出すために、ミカは松明の橙色の不気味な炎を震わせながら、目の前の男のその冷酷な瞳を真っ直ぐに睨みつけて答えを乞うた。




 ────だが、しかし。




 そんなミカの胸の奥底にある切実な予感のすべてを、目の前の男はまともに受け止めようとはしない。


 張り詰めた銀の糸を容赦なく両断するような、決定的な『一言』が、奈落の静寂を無慈悲に引き裂いて投げ落とされる。


 















































「別にないが(何言ってんだ、こいつ)」


 















































 アロンは、何の躊躇すらなく、ただ息を吸って吐くかのように自然に即答した。

 あまりにも、あまりにもあっけらかんとした、その場を誤魔化すための嘘偽りも邪念も一切交じっていない、曇りのない答え。


 同じ傷を持つ同類であるはずだという彼女の淡い期待に対する、あまりにも無慈悲で、あまりにも理不尽なまでの圧倒的な拒絶。


 無慈悲にぶち壊すアロンのその顔は、相変わらず、戦場の緊張感とは完全に無縁の脱力しきったものだった。


 百を超す魔物の細切れにされた肉片が積み上がり、濃厚な血の匂いが重苦しく停滞する地下第七階層の大穴の底だというのに、アロンの表情には息の乱れも高揚感も欠片ほどすら存在していなかった。



「え……で、でも……」



 ミカは完全に言葉を失い、パニックで引き攣った喉の奥から、間の抜けた掠れた声を漏らすことしかできなかった。


 あまりの理解不能さに心臓が破裂しそうなほどの勢いで激しく脈打ち、頭の芯が真っ白に完全にフリーズして、次の言葉の手順を組み立てることすらできなくなってしまう。



 松明を握るその細い指先が激しく揺れ動き、橙色の弱々しい炎が暗闇の中で不気味に歪むなかで、彼女の五感はただ圧倒的な無力感と強烈な虚脱感の前に押しつぶされていた。




 国家を揺るがすようなドス黒い暗部なのか。


 はたまた、血塗られた凄惨な過去なのか。




 それらのすべてを背負った上で、この人間の理解を遥かに超えた理不尽な暴力を振るっているに違いない────そう自らのなかで確信していた彼女の推測のすべては、アロンの放ったその気の抜けた一言によって、音を立てて粉々に砕け散った。



 いくら頭を動かして理由を探ろうとしても、自分の辿り着いた絶対の結論のどこをどうひっくり返したって、目の前の理不尽な答えを説明する言葉なんてどこにも見当たらなかった。


 

 その言葉のあまりの軽さ、その場を誤魔化すための嘘偽りも邪念も一切交じっていない脱力した空気の前に、ミカが胸の奥に溜め込んでいた熱量のすべては、ただ虚しく消え去っていくのだった。



「なんだ……急に近づいてきて何を言うかと思えば、そんなくだらない話なんて……君は何を考えているか分からないやつだな」



 アロンは、本当に困惑しているといった様子でその首を横に振ると、ふにゃりといつもの弛みきった表情へと戻った。


 アロンとっては、自分がこれほどの圧倒的な力を振るっていることも、世界の裏側の悪夢を従えていることも、何一つの暗い動機など必要のない、ただ生まれ持った「SSSランク」だからというだけの、当たり前の日常の出来事でしかないのだ。


 その理解の範疇を完全に置き去りにした男の不遜な佇まいが、彼女の五感をただ圧倒的な無力感の中に押しつぶしていく。


 その隣で、アロンの強固な片腕の傍らに立つリンカもまた、組んでいた自らの細い脚を優雅に組み替える。


 アロンをただの口だけ野郎だと勘違いして自滅していった地上の他の者たちと同じように、またしてもこの占い師の少女が、勝手にアロンの背後に勝手な妄執を重ね合わせて一人でパニックを起こしているその無様な様子に、冷ややかな視線を向けながら。



内心では、この男のことを真面目に考えないほうがいい…こっちの頭が痛くなるぞ、とでも言いたげな、いつもの冷淡なツッコミの響きをその美しい顔に漂わせている。



「全くだ」



 ふん、と鼻を鳴らして、リンカは抑揚のない声音で同意するようにそう容赦なく言い放った。





第95話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ