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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第4章:暗い過去と強さは必ずしも比例しないと知るまで ~真相編~
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第92話 深紅




「“神の巫女”だったリンカさんが、なぜアロンさんみたいな男を信頼しているんですか…?」


 















































「「…………」」



 その言葉が地下第七階層の暗闇の空間に放たれた、まさにその瞬間だった。


 それまで二人の間に漂っていたはずの軽妙なやり取りのすべてが、世界の音という音が、すべてが一瞬にして消え去ったかのような、圧倒的な『静寂』が辺りを完全に支配した。



 じちじちと燃える松明の橙色の不気味な火光だけが、その不自然な無音の真ん中で歪に揺れ動いている。


 つい先ほどまで、魔物の細切れにされた死体の山を前にして、まるで街の広場にでもいるかのようにに気楽にふざけ合っていたはずのアロンとリンカ。



 だが、その二人の顔から、一瞬にして一切の生温かい冗談の温度のすべてが完全に消失する。


 ミカに向けられたのは、出会ってから一度だって見せたことのない、冷徹そのものの『真面目な顔』だった。



 その瞳の奥底に静かに宿る、自らの領分を害する標的を一瞬で屠り尽くすかのような、凄まじい絶対の眼光。



「(あ、……まずい…)」



 触れてはならない地雷のような失言を、自らの唇から今まさに滑り落としてしまった。


 その事実を肉体的な戦慄として理解した瞬間、ミカの背筋を、凍りつくような冷たい汗が音もなくずるずると伝っていった。



 喉の奥がカラカラに干からび、心臓が破裂しそうなほどの質量でドクドクと不快に脈打つ。

 何を言っても笑って受け流し、ふざけあっていた二人の、その表情の真実のキレ味を前にして、彼女の頭の中は真っ白に完全にフリーズしていく。



「リンカ……ミカにあのこと言ったの?」



 アロンの声は、驚くほどにいつもの調子のまま、ただ面倒そうにため息を吐き出すかのように、リンカに向かってそう問いかけた。


 声色にトゲがあるわけでも、大層に激怒しているわけでもない。

 ただの、いつもの日常の会話と地続きのような、あまりにも軽いその声音。


 けれど、だからこそ、その不信感の全く見当たらない自然な響きそのものが、逆に目の前の男の底知れなさを物語っていた。



「言うわけないだろう……誰彼構わず話はしない」



 リンカの口から滑り落ちた声音もまた、怒り狂って周囲を威圧するようなものではなく、どこかアロンの的外れな疑いに呆れ果てたような、いつもの冷淡な響きを帯びていた。


 自分の最も深い秘部であり、誰も知るはずのないその正体を、完璧に暴かれたというのに、彼女の美しい表情はピクリとも動くことはない。


 慌てることも、取り乱すこともなく、ただ淡々と『私がそんな不用意に過去を漏らすような間抜けに見えるのか?』とでも言いたげな、相棒に対する容赦のない一蹴。



 その一切の動揺を見せない硬質な佇まいこそが、逆に、彼女がこの迷宮の底であっても決して揺らぐことのない絶対的な強者の格を備えているのだという事実を、冷酷に物語っていた。


 怒ることも、慌てることもなく、ただ淡々と、当たり前の日常の動作をこなすかのような圧倒的な余裕が、その静かな佇まいから重重しく満ち溢れている。



「考えられるのはひとつ……か……」


 アロンが、低く落ち着いた声音でそうポツリと独り言を漏らした。

 彼の視線は、ミカのその細い『手』の指先へと真っ直ぐに向けられている。



 ミカが持つあの『心理魔法』が自らの目の前で使用されたのだと、即座に判断していた。


 かれこれミカとは十日もの間、ともにこの無明の層を探索してきたのだ。

 

 自分ならともかく、リンカに気づかれることなくその身体に触れることなど、何の警戒も抱かせることなく造作もないことだろう。


 アロンはその事実を、この一瞬で正確に見抜いた。



「そう警戒しないでください、別に他言はしませんよ……」



 二人のどこまでも平常運転な佇まいに困惑しながらも、ミカのその口から漏れ出た声音の芯には、どこか奇妙なほどの静かな重みが宿っていた。


 それは、あまりにも異質で底知れない記憶の断片────その秘められた過去の圧倒的な重みをその身で知ってしまったからこそ、他人の不可侵の領域に土足で踏み込んでしまったことへの、人としての嘘偽りのない誠実な本音に他ならなかった。



 誰かに言い触らすつもりなど最初からない。

 他人の秘密を暴き立てるほど、彼女の心はまだ腐りきってはいなかった。



 その言葉が口を突いて出た直後、彼女の胸の奥からは、今度はその覗き見てしまったもののあまりの底知れなさに対する、情景が再び蘇る。



「まぁ興味本位でリンカさん……あなたの過去を読み取った事は謝ります」



 そうどこか力なく言って、ミカは自らの持つ松明の火光を床の赤土へと向けながら、深く、深々とその頭を下げた。


 その頭を低く下げた無防備な姿勢の真ん中で、彼女の脳裏には、あのおぞましい光景の残像が、人間の常識では到底計り知れないあの『根源的恐怖』の一端として、消えない焼き印のように生々しくこびり付いたまま、彼女の五感をただ静かに戦慄させ続けていたのだった。





第93話は、【 17時10分 】に投稿いたします。


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、次の更新でお会いしましょう。

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