酒は飲んでも飲まれるな
「オイ琴葉ー。しっかりしろー。帰るぞー。せめて自分で立てー。」
「ちょっとむりぃ…」
「ちょっ吐くなよ!?絶対吐くなよ!?」
あー、うん。やらかしたなぁ…ははは。
どうして俺がへべれけの琴葉を担いでいるのか。というかなんで高校生の俺達が酒飲んでるのか。順を追って説明することにしよう。あっ待てオイオイオイ!
☆☆☆☆三日前☆☆☆☆
「六花組に潜入するぅ!?」
「そんな驚くこと無いじゃないですか、一晴さん。」
「まぁいい、どうやって?」
「六花組が犯罪の根城にしているクラブがあるらしいので、俺達の情報をどこから聞いたのか辿ります。どうやらもう闇サイトで賞金首になっているようなので。」
「私の能力で一時的に身体を大人にするのでバレません。変装も完璧ですよ。」
「…お願いとやらはどうした?」
「あれでは情報元までは教えてくれなかったのでね。」
「君たちが行く必要は?」
「どこに裏切り者がいるか、わからないのでね。伝えているのは今のところ貴方だけです。」
「何故俺に。」
「クラブなんて行ったこと無いので、自然に溶け込めるよう軽くレクチャーを…」
「琴葉さん?君は俺を何だと思ってるのかな?」
次の日。
「あの店はカップルが多い。よって、ガラの悪いカップルっぽい服を考えたぞ。」
「おお~いかにもですねぇ。ファーコートにミニスカってのがそれっぽい。」
「颯真も、その悪趣味な色眼鏡とネックレスがお似合いで。」
「それにしても不思議なもんだなぁ。どこからどう見ても成人に見える。」
「私の『エスクラップ』で一発ですよ。練習と勉強は必要ですけれどね。」
『エスクラップ』。ボーダー・ガーディアンズに登場する「ドイツ」のオーラ。
下半身は蛇、上半身は人間の形をしていて、人体を弄って治癒や変装を行うことができる。
こいつで俺達の肉体を25歳くらいまで引き上げた。
「どうもあの肉体が描き換わる感じは嫌だな。ムズムズする。」
「他人の体だからイマイチ感覚が掴みづらいの。我慢して?」
次の日の夜。つまり今日。
「紹介状は?」
「これで。」
もちろん偽造だ。
「楽しんで。」
「…話にゃ聞いてたが、うるせぇな」
「ダンスホールとバー、低いテーブルとイス。こんなベタベタなクラブまだあるのね…。」
「やぁ、見ねぇ顔だな。今日が初めてか?」
「はい。」
「そんじゃ一つここでのルールを教えてやる。自分の女とは手ぇ繋ぐなり腕組むなりしとけ。」
「ありがとうございます。だとよ。」
これも溶け込むためだ。
琴葉の手を握る。…恋人繋ぎの方が良いのか?
…大人のカップルならそっちの方が良いかもな。そうしよう。
「とりあえずどっかに座ろう。あそこなんてどうだ?」
「しょれが良いね。」
「今噛んだろ。もしや照れてる?なぁ照れてるのか?」
「うっさい!照れてないわよ!」
「初めてお酒飲むわ…。」
「そこまで強い酒ではないが、チビチビ飲みつつ聞き耳立てよう。」
体の仕組みを多少弄っているので、俺達はよほどガブ飲みしない限り酔わない。ただ、規定量を越えると一気に酔いが回るらしい。
「よう、新入り。ここに来たってことは、金が欲しいんだろ?」
さっそく来た。ワイン色のスーツを着崩したガタイのいい男。
「やっぱりバレてますか。ここなら良い仕事紹介して貰えるって聞いたんでね。」
「なら、丁度良いのがあるぞ。てめーらみてぇな若いのにお誂え向きのがな。」
「へぇ、それってどんな?」
「その前に、だ。一つ賭けをしようぜ。」
「賭け?」
そう言うと、その男はもう一人の男を呼んだ。
「コイツは俺のダチなんだが、ザルだ。コイツと飲み比べ勝負して勝ったら仕事をやるよ。」
ゴニョゴニョ...
「だとよ…どうする?」
「やるわよ。一般人よりキャパは大きいし、上振れはあっても下振れはしないもの。」
「どーするんだ?やるのか?」
「やってやるよ!」
これが失敗だったのは言うまでもない。
「ルールは簡単、同じタイミングで一杯づつ飲んで、最後まで立ってた奴の勝ちだ!そんじゃスタート!」
一杯目。ずいぶん強い酒を用意したものだ。喉が熱い。これテキーラってやつじゃないの?
五杯目。相手の顔が目に見えて真っ赤になっている。俺と琴葉はまだシラフと変わらない。
七杯目。周囲から歓声が上がり始める。もしこれがテキーラならこのオッサン相当酒強いぞ。
九杯目。あと一押しだろう。てかそろそろ常人は急性アルコール中毒でぶっ倒れてもおかしくないぞ。
十一杯目。まだ耐えるのかよ。もう目の焦点合ってねぇぞ。
「颯真…私そろそろマズいかも…」
「マジか。リタイアした方がいいんじゃないか?」
「いや。具体的な規定量を調べるのも兼ねて続けるわ。それに、ここまで来ればもう少しよ。」
「気が進まねぇなぁ…」
「さぁ十二杯目だ、耐えきれるかぁ?」
ショットグラスの中身を一気に飲み干す。アルコールの熱い感じにも慣れた。
バタッ。
「おおっ」
「あのザルが負けたぞ!」
「マジかよあの新入り…」
一際大きな歓声が上がる。
「さぁ、俺達の勝ちだ。仕事を紹介して貰うぞ。」
「気が早いぞ、ザル坊主。まだ決勝戦が残ってんだろ。」
「…それってまさか!」
十六杯目。体のバランスを取れなくなった琴葉がコケた。
「さぁ、今度こそ仕事を紹介して貰うぞ。」
「あんだけ飲んでまだピンピンしてるとは、最早底の抜けた枡だな、坊主。名前を聞こうじゃないか。」
こっちも割とギリギリだよ。
「斉賀遥正です。」
「そうか。遥正、そんだけ飲んでたら仕事どころじゃないだろ。彼女もベロベロだし、また明日来い。今日の会計は手付金だと思え。」
「…ハァ。わかりました。」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
こういうことだ。明日が土曜日で心底良かった。俺は止めたんだからな?
「やぁ、これまたしっかり酔ってるね。」
「一晴さん!車回してくれてありがとうございます。」
「いやいや。俺も高校生のときはやんちゃしてたからね。懐かしくなったよ。」
「高校生のときから飲んでたんですかぁ?」
「昭和ってのはそう言うもんさ。ほれ、乗った乗った。」
「ありがとうございました~。琴葉、宿舎着いたぞ。」
「…んにゃ…」
…起こすより抱えてベッドにポイした方が楽だなこりゃ。今回ばかりは部屋に入っても怒らんだろ。
今回颯真と琴葉は偽名で潜入しました。(当然)
颯真の偽名は名字「浅儀」のアナグラム「斉賀」と「颯真」の漢字を同じ意味に置き換えた「遥正」です。
琴葉の偽名はそのうち考えます。




