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7話

休日なんで続けて出せました。今後もできれば定期的に出せたらいいです

「ちょ、ちょっと弥生ちゃん裕太君いるなんて聞いてないよ! 」

 

 コンクリートにところどころ亀裂の入った階段に注意を払いながら降りていく弥生に愛はそう言い放った


「あれ、言ってなかったかな~ごめんね。でも愛ちゃんなんか嬉しそうにしてたじゃんか~」


 にやにやと含みのある笑みを浮かべる弥生はどうやら言葉足らずのところがあるようだ。

さっきだって弥生が説明をしっかりしていればあんなことにはならなかったのに——




 弥生の言いつけ通り愛は集合場所である女子トイレにいた。明神高校のトイレは生徒校舎と理科室の間、体育館と職員室の傍にある計三か所だけである。

 もちろん男女は別々だが全学年共同で使用していることから放課後においても利用する生徒は少なくない。それを証拠に今も鏡の前で身だしなみを整えたりおしゃべりしてる人もいる。           トイレなのだからあまり騒ぐのは好ましくないが今日の愛に限ってはずっとそのまま喋っていてほしいと思っていた。

 今から渡辺弥生が恐らく数名の女子を連れ従えて愛を粛正しにやってくるだろう。

 きっと「田辺裕太ファンクラブ」なるものが存在していてそれの会長である弥生が愛のことをハンカチを渡したことから裕太君にまとわりつく泥棒猫と判断し然るべき罰を与える手筈、そうに違いない、覚悟はできている。

 愛はどれだけ濡れてもいいように丁度間違って持ってきてしまった体操服に着替えていた。

 一対一の会話ですらままならない愛が、大勢に囲まれて穏便に事を済ませることなどできっこないので今思いつく限りこれが最善の選択だといえる。

 今喋っている女子生徒たちがいることで少しでも人の目を気にして刑が軽くなってくれればと願うが……せめて便器に顔をつっこむのは回避したいところだ、ってちょっとまって!

 心の中で懇願するがもちろんそんな愛の言葉は届かぬままトイレにたまっていた女子生徒たちは喫茶店いこーなどと話しながらトイレを後にした。そしてトイレには愛ただ一人……。


「あ、愛ちゃんごめん待ったかな~」


 ……なんというバッドタイミング。渡辺弥生は現れた。後ろには誰も引き連れていないが安心させといて後から登場するパターンなんだろうか……


「愛ちゃん、早速本題なんだけど心して聞いてほしいんだ」


「べ、便器だけはやめて……お願い……」


「え、なにいってるの? 冗談か何かかな? 」


 そうか、やっぱり便器は確定なのか……今日はいつもより多めに洗顔しよう、そして早く寝て忘れよう。


「まあ、いいや。田辺君にハンカチ渡したのは愛ちゃんで間違いないよね? 愛ちゃんは田辺君のことを見てたってことだよね? 」


「は、はいそうです! 私のような虫けら以下の人間があなた方が神と崇めるお方に図々しくも好意を寄せてしまい、挙句ハンカチで彼の至高なるお顔を汚すようなことをしてしまい誠に、誠に申し訳ございませんでした! 」


 精一杯の誠意は見せた。頭の角度もしっかり直角九十度。これで少しでも刑が軽くなってくれるのを切に願う。


「……えっとごめん、話が見えないんだけど……いまのところ愛ちゃんが田辺君のこと好きってこと以外意味わかんないよ」


「え? 」


「え? 」


 意味が分からないとはどういうことだろうか……弥生は心配そうに愛を見るとゆっくりと口を開いた——



「いや~ごめんごめん! そんな誤解させちゃってたとはね~」


 弥生は目に涙を浮かべながら必死に笑いをこらえている。一方の愛は勘違いして恥ずかしいわクラスの名字のせいで裕太君がいじめられいる事態に驚くわで自分が今どんな顔をしているのかもわからない。

 弥生はここ一か月でクラスに起きていたことをよくわからないメモを交えながらではあったが丁寧に教えてくれた。

 苗字が違うだけで差別を受けてしまうなんて考えられないが無視されて悲しんでいる裕太君を見た愛は納得せざるを得ないだろう。

 弥生が旧姓に執着していてお互いの問題を解決する為に裕太君とたった二人だけで協力し合っているというのはどこか胸を締め付けられるような気持ちになるが……。


「そ、その……じゃあ教室で裕太君のことを見えてたのは愛と弥生ちゃんの二人だけってこと? 」


「そうなんだよ~、だからみんな無視したくて無視してたわけじゃないんんだ~それだけはわかってほしいんだ」


「じゃあその、教室にいるとやけにみんなの目がキラキラしてるのもそのわ、わ、ワタナベーションのせいなのかな? 」


 ワタナベーションってダサすぎるよ弥生ちゃん……恥ずかしい……。


「そうだと思う。たぶん同じ名字の人がいればいるほど光るようになってるんじゃないかな~」


 じゃあ教室でやけにキラキラとした目で親しげに話し掛けてきてくれるみんなもワタナベーションのお陰ってことなんだ……ちょっと、寂しいな……。


「ちなみにだけど渡部先生も被害者のうちのひとりなんだよ~。まあ先生だから無視まではいかないけどみんなに冷たくされてるよね~」


「あ、てっきり普通に嫌われてるのかと思ってた」


「愛ちゃん意外と辛辣だね~」


 絡まった糸を一本ずつひも解くように愛の頭の中では状況が整理されていった。

 しかし愛がワタナベーションの影響を受けないのはどういうことなんだろうか。弥生曰く、旧姓に強い執着を持っていることが被害を受けない条件らしいのだが……。

 確かに「姓限定一貫法」が施行されたことで愛の名字は変更され今の渡辺になったが執着はおろか前の苗字はとても嫌いだったのだ。なんなら苗字のせいでいじめられることもあったほどだ。苗字が渡辺になってとてもよかったと思っているし後悔も何もない。


「あ、あの弥生ちゃん……私別に前の名字そんなに好きじゃないっていうか……だからなんでワタナベーションが効いてないないのかわかんないんだけど……」


「ええ、おかしいな~。でもそれ以外考えられないんだけどな~ちなみにその前の苗字って教えてもらえたりはできるかな~」


「だ、誰にもいわないなら……いい、よ……」

 

 本当は誰一人にだって言いたくないが弥生はクラスで起きている状況を事細かに教えてくれた。愛の命の恩人である裕太君の危機をいち早く気付いて助けてくれたのだ。弥生には愛の秘密を話すだけの十分な貸しがある。


「うん、絶対誰にも言わないよ~」


「……『かなめ』って苗字だったんだあと名前は『あい』じゃなくて『まな』」


「『要(かなめ) 愛(まな)』? 確かに珍しいかもだけど——まあ人それぞれだよね。ありがとう教えてくれて」


「う、うん弥生ちゃんその『かなめ』っていうのは……重要の『要』じゃなくてその……恋愛の『愛』二つで『かなめ』なんだよね……」


「え、どういうこと? 」


 まあそういわれるのも無理はないだろう。今までなんど聞き返されたことか……。


「その、昔の読み方で愛は『愛(かな)しい』っていうのがあって……あと『愛(め)でる』って読み方もあって——だから『愛』が二つで『愛愛(かなめ)』って読むの……」


「え、じゃあ愛ちゃん昔は『愛愛(かなめ)愛(まな)』って名前だったってこと、かな? 」


「……うん」


「そっか。それは——今の方がいいって気持ちもわかるよ。教えてくれてありがとう。辛いこと聞いちゃったよねごめん」


 さっきの話の中で弥生は旧姓を取り戻したいと言っていた。愛のように名前のせいででいじめられていたわけではないにしても愛の気持ちは少しばかり理解できるのだろう。

 

「で、愛ちゃんにはこれから田辺君を助けるために今から新しく創る部活に入ってほしいんだよね! 」

 

 愛を元気づけるように弥生はそう切り出した。


「ぶ、部活ってどんな? 」

 

そういえば裕太君を飛び級させて今の状況から脱却させるためには部活に入る必要があるとさっき言っていた気がする。


「まあ人助けみたいな部活! 」


「人助け……で、でも私部活とかあんまり、その人見知りだし……」


「大丈夫、私たちしかいないしさ。それに大好きな裕太君の為なんだよ~」


「…………」


 そうだった! さっき思わず口走ってしまったのだ、裕太君のことが好きだと……。


 背中をバシバシ叩く弥生に抵抗することもしないまま恥ずかしさのあまり頭がクラクラしてしまう。女友達にもほとんど言っていないのにまさか今日初めて話したばかりの女子に知られてしまうとは……。


 だけどそうだ、裕太君の為なのだ。

 

 小学校でいじめから救ってもらったあの日から愛はなにも恩を返せてはいない、返したのはせいぜいさっきのハンカチくらいだろう。

 裕太君は愛のことなど忘れてしまっただろうが少しでも力になりたいという気持ちに偽りはない。


「……わかった、弥生ちゃん裕太君の為に頑張ってみるよ


「お~ありがとう! そう言ってもらえると思ってたよ~」


 弥生は愛を抱きしめよかったありがとうとはしゃぎまくっているがそんな愛の顔にはやけに弾力ある季節外れのスイカが押し付けられとても苦しい。物理的にも精神的にも……。


「よしじゃあいこっか。部室に案内するよ~」


 やっと離れてくれた弥生は満足げな顔で部室へと足を向けた。愛はその後ろにぴったりとついていく。

 にしても裕太君の為に創る部活と弥生はいったが二人だけで大丈夫なんだろうか。そもそも創部するのに二人で足りるのか……。

 



——と、いうことがあったのだ。弥生はマイペースすぎる。裕太君もなにも聞いてないみたいだったし……。


「そういえば愛ちゃんがワタナベーションが効かない理由、私何となくわかった気がするよ」


「え、なに? 教えて」


「教えてもいいけど、知らない方がいいと思うな~。どうしてもっていうなら教えてあげるけどさ」

どういうことだ。知らない方がいい? 


「……じゃ、じゃあいいです」


「うん、わかった」

 

 弥生はまたもニヤニヤしながら嬉しそうにそう言った。愛はとりあえず今後秘密事などは極力弥生に打ち明けないようにしようと心に決めたのだった。



つじつまが合わない部分など指摘していただければ幸いです。

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