日常×次なる目標=人数不足
~side晴翔~
昨日の試合の余韻はまだ心の中に残っていたけれど、今日からまた学校だ。
日差しはまぶしく、アスファルトの照り返しが熱い。まだ夏の入り口なのに、もう真夏のような暑さだった。僕は昨日の疲れが残る身体にムチ打ってランドセルを背負い、玄関のドアを開けた。
山本監督はドッジボールも大切にしているけれど、それ以上に学校生活、ひいては勉強や宿題に関してとても厳しい。入部を決めた際に話があったのだが、宿題や提出物をちゃんと出さない選手は、たとえ県大会のような大事な試合でも絶対に起用しない、と言っていた。
これは、山本監督がプロ野球選手だった頃、怪我で野球ができなくなった時に、本当に苦労したからだという説明と共に話されたことだ。小学四年生になったばかりの僕には、山本監督の言っていたことの本当の意味は未だによく分からなかった。ただ、「学校生活あってのドッジボール」という、その一点だけは理解できたので、三年の時以上に宿題や提出物を忘れないように意識している。
(まあ……宿題を忘れようものなら、美桜がとても恐ろしいので、絶対に無いんだけど……)。
僕は思い出して身震いする。
健太が三年の時、一度だけ宿題を忘れてきたことがあった。あの時の美桜は本当に怖かった。普段はニコニコして、みんなを笑顔にしてくれる優しい美桜が、まるで鬼のような形相で「ねえ健太?何故、宿題を忘れるの?」と淡々と言うのだ。健太は泣きそうな顔で平謝りしていた。それ以来、健太も絶対に宿題を忘れないようにしている。
僕は、美桜のそんな恐ろしい姿を思い出し、ランドセルの中の宿題と提出物を再確認する。よし、ちゃんと入っている。
玄関を出ると、もう二人が待っていた。美桜はいつものようにニコニコと僕たちに手を振っているし、健太もいつものように少し気だるそうに立っていた。
「おはよう、晴翔!早くしないと遅刻しちゃうよ!」
美桜が僕に駆け寄ってくる。
「ごめんごめん!ちゃんと宿題入ってるか確認してたんだ」
僕がそう答えると、健太が少し呆れたように言った。
「お前もまだ美桜の恐怖に怯えてるのかよ。俺はもう慣れたぞ」
「慣れたって……健太、あの時のこと、忘れたのか?」
僕がそう言うと、健太は少し顔を赤くして「うるせぇ!」と叫んだ。
僕たちは三人で他愛もない話をしながら学校に向かう。昨日の試合の話、美桜が立てた新たな作戦の話、そして、給食のメニューの話。たった一日しか経っていないのに、昨日の出来事がまるで遠い昔のことのように感じられた。
でも、僕たちの心の中には、確かに昨日の試合の興奮と、悔しさ、そして新しい決意が刻み込まれている。
「次のペイサーズ杯、絶対優勝しようね!」
美桜が元気よく言った。
「ああ、もちろん!」
「おう!」
僕と健太は、美桜の言葉に力強く頷いた。
僕たちの目標は、もう漠然としたものではない。ペイサーズ杯のハッスルの部で優勝すること。開成君と公式戦で戦うこと。そして、もっともっと、ドッジボールを楽しむこと。
(山本監督、安心して下さい。僕たち、ドッジボールも、勉強も、どっちも頑張るから!)。
僕の胸は、新たな目標に向かって、期待でいっぱいだった。
そして、僕たちは、いつもの通学路を歩きながら、今日も笑い声が絶えなかった。
昼休みになり、僕たちは教室の窓から校庭を眺めながら、今日の給食の話題で盛り上がっていた。すると、ガラッと扉が開き、そこに立っていたのは琉惺君だった。
「晴翔、美桜、健太。ちょっといいか?廊下で話したいことがあるんだ」
琉惺君の真剣な顔に、僕たちは話を中断して、言われるがままに廊下に出た。
「昨日の試合のことなんだけどさ」
琉惺君はそう切り出すと、少し深刻そうな顔で続けた。
「昨日の練習試合でも改めて痛感したんだけど俺たちのチーム、やっぱり人数が足りてないと思うんだ」
その言葉に、僕たち三人は黙り込んだ。言われてみれば、確かにそうだ。昨日の試合でも、人数が少ないことで不利になる場面があった。
「いくら俺たちが頑張っても、このままじゃペイサーズ杯もだけど、その先で必ず行き詰まる。どうにかして、もっと部員を増やさないと……」
琉惺君は、悔しそうに拳を握りしめた。僕も、健太も、美桜も、その言葉に反論できなかった。
ドッジボールという楽しいスポーツが、人数不足という現実の壁にぶつかったのだ。僕たちはそれぞれ、どうすればこの問題を解決できるのか、考え始めた。
「そうだね……どうすればいいんだろう?」美桜が静かに言った。
「うーん……」健太も腕を組んで考え込んでいる。
僕もどうすればいいのか分からなかった。でも、せっかく見つけたドッジボールという楽しいスポーツを、このまま人数不足のせいで諦めるなんて嫌だ。
僕たちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
いつも読んでくださる皆様ありがとうございます、文字の乱れはご容赦ください。




