現実×限界=次なる目標
~side山本監督~
ミーティングもそこそこに、私は晴翔に「身体は大丈夫か?」と確認した。
晴翔は「大丈夫です」と答える。だが、既に満身創痍なのは誰の目にも明らかだった。彼だけじゃない、D2のメンバー全員がもうクタクタになっている。(無理もない、八人で頑張ったんだから)。
私は選手たちに向かって言葉をかけた。「みんな、本当にお疲れ様。もう今日は限界だと思う。だから、トーナメント方式の試合は辞退しようと思う。午後からは少しゆっくり休んでいようか」。
その言葉に、悔しそうに俯く選手たち。彼らの気持ちも痛いほどわかる。しかし、これ以上無理をさせるわけにはいかない。
私は言葉を続けた。「このD2チームができて、まだ一ヶ月も経っていないのに、君たちは本当によくやったと思う」。
私の言葉に、木村コーチ、鈴木コーチ、そしてD1の選手たちも大きく頷いている。
「今日は練習試合だ。怪我のリスクを冒してまで無理をして試合をする必要はない」。
(後で大町と己斐の監督には謝っておかないとな)。
そんなことを思いながら、私はD2の選手たちに語りかけた。
「次の目標は、ペイサーズ杯、ハッスルの部優勝にしよう」。
「次は、もっと楽しんで、そこに結果がついてくるように練習しよう。だから、今日は休もう」。
私はそう告げた。
選手たちの顔に、少しずつ安堵の色が浮かんでくる。悔しさは残っているだろうが、私の言葉を受け入れてくれたようだ。
(よし、これで良かったな)。
私は内心ホッとしていた。選手たちの身体と心を第一に考えること。それが私の役目だ。
すると、ミーティングが終わったD1の選手たちが、D2のメンバーに声をかけ始めた。
「ナイスキャッチ!」「すげーよ、晴翔!」「お前ら、本当によく頑張ったな!」
ハヤトやコウタ、そしてタケシも、D2のメンバーを称えている。その光景を見て、私は再び胸が熱くなった。
「監督!」
そこへ、大町の監督がこちらに歩いてきた。私は「申し訳ない」と頭を下げる。「午後からの試合、辞退させていただこうかと……」。
「いやいや、構いませんよ」と大町の監督は笑顔で言った。「君たちのチームの頑張りには、本当に感心しました。特に、あのちびっ子……いや、失礼。あのキャッチャー君には度肝を抜かれましたよ。開成も、あんなに嬉しそうに試合をしていたのは初めて見ました」。
「彼は、開成にとって最高のライバルになるかもしれませんね」
その言葉に、私も自然と笑みがこぼれた。
「はい。本当にそう思います。彼らの将来が、今から楽しみでなりません」
大町の監督と私は、しばらくの間、言葉を交わした。ドッジボールへの情熱、選手たちの成長について語り合う時間は、私にとってかけがえのないものだった。
ミーティング後、選手たちはそれぞれの保護者の元へと向かっていった。私は、木村コーチと鈴木コーチと共に、今日の試合を振り返る。
「健太君のあのプレーには、驚かされましたね」と鈴木コーチが言った。「まさか、開成君の弱点を見抜くとは」。
「そうですね。彼らの洞察力は、私たちが思っている以上かもしれません」と私も頷く。
「そして、晴翔君のキャッチですよ」と木村コーチが続けた。「あのアタックを、あの至近距離で、ですよ。まるで、ボールが吸い込まれるようでした」。
「ええ。彼の才能は、私たちの想像を遥かに超えていますね」
私たちは、改めて選手たちの可能性を再認識した。そして、この才能を、どうやって伸ばしていくべきか、真剣に話し合った。
「次は、もっと彼らに任せてみましょうか」と私は提案した。「私たちは、彼らの成長をサポートする。それで十分かもしれません」。
木村コーチと鈴木コーチは、私の言葉に同意してくれた。
午後、体育館ではD1のメンバーたちが、午後からの試合に向けてウォーミングアップを始めている。D2のメンバーは、各自が保護者と談笑したり、他チームのD2選手達と雑談したりと、リラックスしていた。
そんな中、晴翔は一人、体育館の隅で膝を抱えて座っていた。
私は、そっと彼に近づき、隣に腰を下ろした。「晴翔、大丈夫か?無理しなくてもいいんだぞ」。
彼は顔を上げ、私を見て少し微笑んだ。「大丈夫です、監督。少し疲れただけです」。
「そうか。今日の試合、本当にすごかったな」。
私の言葉に、晴翔は少し照れたように俯いた。
「僕……勝てなくて、悔しいです」。
彼の小さな声に、私は胸が締め付けられる思いだった。
「でも、僕、楽しかったです。開成君の投げたボール、すごく重くて、でも、ちゃんと取れたから。また、あんなすごいボール、キャッチしてみたいです」
彼の言葉を聞いて、私は心の底から嬉しくなった。勝ち負け以上に、彼はドッジボールの楽しさを見つけてくれたのだ。そして、その先には、もっと大きな目標が生まれている。
「そうか。じゃあ、次のペイサーズ杯、ハッスルの部で優勝しよう。もっともっと、楽しい試合をしよう」。
「はい!」
彼は、力強く頷いた。
私は、彼の肩にそっと手を置いた。このチームは、まだまだ強くなる。今日の敗北は、きっと彼らの大きな糧となるだろう。
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