本物×本物=終了の合図
~side晴翔~
琉惺君と二人になってしまったけど、僕たちは何とか食らいついていた。
開成君の動きも、剛君の揺さぶりも、蓮君の司令塔としてのパス回しも、全てが高いレベルだった。でも、僕たちのチームには、それに負けない才能と、何よりチームワークで大町に必死で食らいついていた。
琉惺君の素早い動きと巧みなパス回し。健太の予想外の作戦。美桜の冷静な指示。そして、僕のキャッチ。
僕たちはそれぞれが自分の役割を完璧にこなして、どうにかこうにか持ちこたえていた。持ちこたえられていると思っていた、それでも、本気で勝ちに来た開成君は圧倒的だった。あっという間に追い詰められ、気づけば試合終了まで残りわずか。
そして、その時が来た。
タイマーが残り10秒を指した瞬間、剛君が放ったパスを、蓮君が完璧なタイミングでハンドキャッチ。そのまま一気に琉惺君めがけてアタックを放つ。
「ぐっ……!」
琉惺君も必死でキャッチを試みるが、アウトになってしまった、その衝撃に耐えきれず、ボールはコートの端へと弾かれた。
「1番アウト!」
主審の無情なコールが体育館に響き渡る。
これで、内野に残っているのは、僕一人。
ボールデッドとなり、転がったボールを拾いに行った大町の選手たちが内野に戻ってくる。ボールを持つのはもちろん開成君。
大町の選手たちが、それぞれの持ち場に戻っていく。開成君の隣に蓮君。剛君は外野で僕の後ろに構えている。
「ふぅ……」
僕は大きく息を吸い込む。膝の上に手を乗せ、重心を低く構える。先ほど開成君のアタックを受けた腕がジンジンと痺れている。それでも、心の中は不思議なほど穏やかだった。
(大丈夫。僕には、みんながいる)。
僕はそう思って顔を上げた。外野で僕を見守る美桜と健太、そして今アウトになって、悔しそうにしながらも僕を信じてくれている琉惺君。
ここから試合をひっくり返すのは不可能だろう、僕達の負けだ、けど全員アウトで試合終了にはさせない!!
僕を信じてくれている、彼らの期待を裏切るわけにはいかない。
「晴翔!頑張れ!」
「絶対キャッチだ!」
外野からみんなの声が聞こえる。その声援が、僕の身体に再び力を満たしていく。
「絶対に取る!!」
主審の笛が響き、ボールを高く掲げた開成君が動き始めた。
その瞬間、僕と開成君の視線が交差する。彼はニッと笑い、その目はまるで獲物を追い詰める捕食者のようだった。
「さあ、取れるかな?晴翔君」
彼の口がそう動いたように見えた。
僕は、大きく息を吸い込み、最後の力を振り絞る。
(来るぞ……!)
開成君が助走を始める。その一歩一歩が、体育館の床を揺らすかのように躍動する。そして、彼の身体がまるでバネのようにしなり、ボールが彼の腕から放たれる。
「んん”!!! 」
彼の低い声と共に放たれたボールは、凄まじいスピードで僕に向かって飛んでくる。
(速い……!)。
これまでのどんなボールよりも速い。その軌道は、まるで真っ直ぐな線を描いているかのようだった。
単純に考えればわかる話だ、先程の外野のアタックは距離は近かったが、助走は殆どなかった。しかし内野で更に単発で狙いに来た正真正銘開成君の本気の球だ、
「ぐっ!」
僕は、しっかりと身体をボールの真正面に構える。ボールが、僕の腕に、胸に、腹に、まともに突き刺さる。今日1番の衝撃が身体を突き抜ける。
もう痛みなんて感じない。ただ、このボールを、絶対に離してはいけない。
僕は、ボールの衝撃を吸収しようと必死に耐えている。体育館中に、ボールが身体にぶつかる鈍い音が響き渡る。
「……ッ、ラァ!」
僕は、両腕でしっかりとボールを抱え込み、叫んだ。
試合終了を告げるブザーが、静かになった体育館に鳴り響く。
僕のキャッチと同時に、試合が終わった。
「す、すごい……」
外野から、誰かの声が聞こえた。
僕は、その場に崩れ落ち、ぜいぜいと息をしていた。(ボールを返しに、、、)けれど身体が上手く動いてくれない、腕が痛い。身体中が痛い。でも、心の中は、達成感で満たされていた。
何とか審判にボールを返して内野に座り待機する。
チームは負けたが全員当てられて終わり、なんて事にはならなかった。
僕は、みんなの顔を見渡す。美桜、健太、琉惺君、木村コーチ、そして山本監督。みんな顔を合わせると喜んでくれている。
主審の「報告します!!庚午1、大町8、それでは立ちましょう!」と言ってたお互いに礼をして待機場所に引き上げていく、待機場所に着くとみんなに囲まれる。
「晴翔!大丈夫か!」
「すごい、晴翔!本当にすごいよ!」
みんなの顔は、安堵と、僕への賞賛で満ちていた。
僕は、みんなに支えられながら、ゆっくりと椅子に座らせて貰う、身体はもはや限界のようで本当に試合が終わって身体がもう動かない。そして、向かい側の待機場所に目を向ける。そこには、開成君が、僕をじっと見つめていた。彼の表情は、先ほどの捕食者のそれではなく、純粋な驚きと、喜び、そして敬意に満ちていた。
彼は大町の監督に一言言ってから、ゆっくりと僕の方に歩み寄ってきた。
「君は……本当にすごいね」
開成君は、一言そう言って、元に戻っていく、僕はその背中を眺め続けていた。
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