流れ×流れ=瀬戸際の攻防
健太が外野でボールを受け取った後、琉惺君がいるサイド方向へ走り込んでいく。(あれ?あの位置はもっ君の場所じゃ?)。そんなことを思っていたが、直前に美桜が「センター!」と指示を出していたことを思い出す。
(まだ何か作戦があったのかな?)。最近、美桜は練習中に鈴木コーチの元に行き、様々な作戦を一緒に考えていたようだ。色々と指示を教えてもらっている。ただ、僕たちは美桜のように賢くはない。なので美桜は、作戦を実行する選手それぞれに一つずつ掛け声を決めたようだった。(僕も二つほど、キャッチで決めてもらった)。
健太は外野になることが決まってからが悲惨だった。美桜に練習前にノートを取らされながら、必死に作戦を覚えていた。俺は関係ないと、言わんばかりに壁当てをしようとしていた琉惺君も、もちろんセットだ。あの時の悲壮感漂う二人の姿は忘れられない。
意外だったのが、もっ君だ。もっ君は美桜から全ての作戦を聞いており、理解もしている。美桜曰く、「もっ君は多分このドッジボール部で一番賢いよ」と言っていた。さすが将来の夢が官僚というだけある。(その職業がすごいのかどうかは知らないけど、きっとすごいのだろう)。
そんな回想をしていた一瞬、健太はサイドまでしっかり動いて、アタックに見えるくらい速い球を琉惺君に向けて思い切り投げた。
~side健太~
「もっ君、センター!」
そう美桜の声が聞こえてきたため、俺はすぐに琉惺の位置を確認する。琉惺もしっかりと動いて、カットから外れたサイドに移動してくれている。(相変わらず早いな、琉惺は)。俺は感心する。しかし、すぐに頭を切り替えて、琉惺の方のサイドへ移動していき、己斐のラインを動かしていく。
「もっ君、センター」の指示は、もっ君にパスを回すわけではない。むしろ俺と琉惺でアウトを取れ、という指示だ。晴翔がキャッチで止めてくれた試合の流れを、また庚午に引き戻すため、美桜が考えた作戦の中でも非常に攻撃的な作戦の一つだ。実際この指示が出た時は、相手にボールを取られるまで俺と琉惺でアタックを続けて構わないとまで言われている。
負けているこの場面、時間も二分半を切った。美桜もこのチャンスを逃さないように必死なのだろう。安心しろ、俺だって同じ気持ちだ。一緒にドッジボール部に入ってから初めての試合。晴翔も美桜も、自分の出来ることを必死に頑張っている。もちろん、みんなだって必死だ。先ほどアウトになってしまったリンちゃんも、俺の邪魔をしないように必死で場所を考えてくれているし、大きな声でカウントを一生懸命してくれている。だったら俺も、出来ることを必死にやるだけだ。
己斐のサイドの選手が少しラインからずれ、リズムも合っていなかった。狙うなら、ここだ!俺は思い切り踏ん張ってボールを投げた。俺の狙った通りの場所に飛んでいき、己斐の選手の膝にあたりボールが落ちる。「6番、アウト!」主審のコールが響く。そして、一人ずれていたからボールは外に出ていき、ボールデッドとなる。
俺は木村コーチの方を見て、内野に復帰するかをアイコンタクトで確認する。木村コーチは両手をクロスしてバツ印を出している。「外野にいなさい」の指示なので、俺は外野に戻る。
スコア的には7-6。まだ負けているが、時間は二分ちょっとある。十分ひっくり返せる。俺は再び気合を入れ直すと、美桜から「琉惺、センター!もっ君は右!」と指示が出た。俺は相手の守備ラインを確認して、琉惺に手を振る。これは美桜の右からの攻撃の指示は難しい、ということを伝えるサインだ。(覚えること多すぎて泣きそうだったな、本当に)。美桜は勉強や覚えることに関して妥協は許さないし、俺たちは覚えるまで許してもらえなかった。
俺のサインを見て琉惺は肩を回した。(了解のサイン)。そこですかさず、内野の琉惺と同じように、ボールを上げるフリをする。これで伝わったはずだ。さあ、琉惺。ここからは俺たちで全滅させてやろうぜ!俺はそんな風に思いながら、主審のホイッスルを待っていた。
~side琉惺~
健太が見事に己斐の選手をアウトにして、ボールデッドで再び庚午の攻撃からだ。
美桜の作戦では右側らしいが、健太がそれを止めてくる。(龍太郎を警戒してのことだろうな)。いい判断だ。俺は大きく肩を回して了解と伝え、ボールを頭上に掲げて健太にパスをどう渡すか考えていると、健太も同じように手を上に掲げた後、左手を振った。
了解だ。
俺は主審のホイッスルと共に全力で走り込んで、必殺の無回転を左サイドに投げ込んだ。
どうやら数名の方が1話から全話追いかけて下さった事による閲覧数の増加だったようです、50話超えてまだ練習試合終わってませんが、お付き合い頂ければ幸いです。文字の乱れはご容赦ください。




