試合×流れ=それぞれの実践
僕の元に真っ直ぐ飛んできたボールを、教えられた通りにしっかりとキャッチする。
落ち着いて、確実に、丁寧に。己斐の選手が投げたボールは、普段僕が受けていた琉惺君やD1の選手たちのボールよりは遅かったので、キャッチ自体は難しくなかった。ボールが手の中に収まった瞬間、お腹に来る衝撃と、両腕に感じる重みが、キャッチがしっかりできたことを僕に教えてくれる。その直後、周りから「ナイスキャッチ!」という声が聞こえ、嬉しくなる。だけど、すぐに頭を切り替える。今は試合中だ。外野からすぐに健太が「晴翔!こっちだ!」と、大きな声でボールを呼んでくれる。僕は取られないように、丁寧に、かつ素早くパスを出す。しっかりと健太はキャッチしてくれた。ここからはアタッカーと外野の仕事だ。僕は僕にできることをする。次の守備機会に備えるため、定位置に戻って声を出すのだった。
~side 健太~
晴翔を狙ったアタックが放たれた時、俺はすぐに晴翔がパスを投げやすい場所に動き出す。
キャッチできるかなんて確認しなくてもいい。あいつは取る。それは、これまで何度も見てきた光景だからだ。だから俺は、俺のやるべきことをする。
カットされることを警戒し、ジャンプボールをしていた、おそらくカットマンと思われる龍太郎って子がいる反対側の後方へ移動しておく。そして、晴翔がボールをキャッチしたと同時に、「晴翔!こっちだ!」と声をかけ、手を上げてアピールする。
(釣れるか?)
こればかりは木村コーチも「運だ」と言っていたから、釣れなければそれはそれでいい。それでも、1%でも可能性が有るなら、やる価値がある。
晴翔が投げたパスは、お世辞にも速くはない。カットマンなら簡単にキャッチする程度のボールだ。(いいボールだ!これなら!)そう思っていると、俺の予想通り、龍太郎って子がカットマンだったのだろう。猛然とこちらに走り、パスカットに来るが、真反対なのだ。いくら球が遅いとはいえ、さすがに届かない。
(釣れた!)
俺は晴翔が投げたパスをしっかりキャッチして、こちらに走り込んできた龍太郎に思い切りアタックを放つ。ほぼゼロ距離のそのアタックは、さすがに取れず、「1番OUT!」という主審のコールと共に、ボールはこちらに転がってくる。俺はボールに身体が絶対に当たらないように見送る。(こうすることで、自チームの内野から始められる)
しっかりとボールデッドになり、笛がなると同時にボールを取りに行き、モッ君に渡す。「健太、ナイス!」と木村コーチも言っている。晴翔と美桜は、こちらを見てグッドサインを出している。俺も笑顔でグッドサインを返す。
だが、まだまだ。俺は気合を入れ直す。カットマンをアウトにしたとはいえ、まだ人数で負けているのだ。試合前に琉惺と話したが、「全滅にする気で攻撃をする」と言われている。俺は俺にできる全力を尽くすため、次のプレーに備えるのだった。
~side 木村コーチ~
目の前で、少し前まで本当に数回しか外野を経験していない健太が、龍太郎君を、あの己斐の次世代ツインエースの一角をいとも簡単にアウトにしてみせた。
もちろん、晴翔のキャッチから生まれた流れだ。だが、彼は晴翔がキャッチする前から動き始めていた。龍太郎君をカットマンだと仮定し、反対側に動いておく。それは私が教えた「カットマンの釣り方」だった。
本来、カットマンの役割は、外野とアタッカーのパスコースを邪魔して、ボールのコースを限定することにある。しかし、パスの球が遅ければ、カットマンは稀にパスカットをチャレンジしてくることがある。今回、晴翔のパスならカットできると龍太郎君は判断したのだろう。だが、ジャンプボールを終えたばかりで、まだ距離感をしっかり掴めていなかったのだろう。パスカットに走った結果、目の前でアタックを受けることになった。
そのチャンスを、健太は見逃さなかった。彼はしっかりとアウトを取り、その後のボールデッドも利用して、庚午の内野から攻撃をスタートさせた。
教えたことをしっかりと実行してくれていることに、私は嬉しくなった。「健太、ナイス!」と声をかけておく。
隣で試合を見ている山本監督がぽつりと「外野のピースは埋まったね」と言った。私は「そうですね」と返す。彼は近い未来、庚午の外野と言えば彼、と呼ばれる選手になるだろう。
そんな未来を想像しつつ、私は目の前の試合に意識を戻すのだった。
~美桜 side~
隣にいる晴翔に向かってボールが飛んでくる。最初は私を狙ったボールになるかなと思っていた。しかし、琉惺君が身体を使ってコースを限定してくれたおかげで、ボールはセンター寄りの私ではなく、隣の晴翔を狙ったようだ。私も取れるように準備をするが、やはりギリギリになる。
しかし、晴翔なら大丈夫だろう。そんな確信がある。外野の健太に至っては、もう動き始めていた。(まあ私も、ボールから目を切って健太を見てしまっているんだけどね)。ドッジボールのセオリーとしては、本来してはならないことだ。だが、隣の彼なら絶対に大丈夫だという揺るぎない自信があるから、今回だけは許してもらおう。そう思いながら晴翔を見ると、彼はしっかりとボールをキャッチしていた。
「ナイスキャッチ!」
そう声をかけるが、晴翔は私の声には目もくれず、すぐに健太の声に反応して行動を起こす。健太もしっかりと準備をしていたため、動きに無駄がない。そして、相手のエースの一人である龍太郎君を、いとも簡単にアウトにしてみせた。
私と晴翔はグッドサインを健太に送る。望月君がボールを持ち、庚午の攻撃が始まる。
(さあ、ここからだ。次、己斐さんはどう攻めてくる?考えろ、考えろ!)
私は味方が攻撃をしている間も、必死に思考を巡らせる。0.1%でも勝率を上げるため、自分にできることを精一杯する、私は目の前の試合に、さらに集中するのだった。
視点変更多め、そして普段の倍を意識して作って見ました、時間がやはりかかりますが、これくらいの方が読む分には丁度いいかも?分かりかねますが、どうぞ文字の乱れはご容赦ください。




