脱水魔術を引き上げよう
「もちろん、何年も見ているから知ってると思うけど、また明日のぼくは家を心配して、物流を、黒魔術師を心配するウリエル・モルテくんに戻るだろうけど」
ガブリエラは嫌な表情をした。
「その考え方が変だって。自分は自分なのに他の人のような言い方」
「なぁに。デュラはみんなこうなのだ。元々自分にコツコツ貯めたナニカ……知識、常識、法律と条例……地理とものの種類などを頭に入れることと、エーテルを扱うことは全然違う。多少の分離はあるしかないから」
「そんなに難しくないですよ。あたまの中は繋いでるの」
「それは貴女がアクアだから」
しょうもない雑談をしていたら、そう言えば仕事中なのに時間を奪っていた。
「あ、これは大丈夫」
「そう?」
「戻って堂の資料で確認することがいっぱい残っているだけ、理論は一応立ってる。聞いてます?」
「脱水魔術ですか。いいだろう」
つまり、アクアたちも馬車の準備に合わせて司令部のテントを解体して戻る段階だ。ならそれを準備するギルドの職員たちの仕事を待ちながらやることが全くない。
「えーとね、概要は知ってるの?うわ、なんも考えてない」
「何回言う気だ。そうだな。基本は平凡の素材の制御権を得る過程そのものを魔術にしたものだ」
「その通り。あたしたちは平凡の10才の子供というイドを持ってると同時に、周りの相性がいいものを感じて関わることができるスフィアを張ります。その周りの感覚を一回廻るから廻だ」
「うむ」
本当にガブリエラはなんも考えてないからって、元素魔術の基本から言い出した。
「あとのオーディナリー学文の人がどのような言い訳を付けるかはわからないけど、一旦イドは魔術師や闘士どっちも結局エーテルを感じて触れる主体となるものが固有であるあたしたちそれぞれであるしかないから之であり我だ。自分中心ね。
その定義がないと魔術も闘技も難しい」
「そう」
「そしてアクア。元素魔術の水は四元素の『冷たい』に基づいてスフィアの水分を取りますが、だからって常温や高熱のお水が触れないわけではない。でも基本は冷水です」
「ブリナせんせい、なんで四元素の『濡れたもの』は土なんですか」
ぼくのボケぶりにガブリエラは「馬鹿なの」と言った表情で、でもちょっと笑いながら言った。
「それは同然、濡れたものだからでしょう、モルテくん」
「そうなんだ」
いや、その部分意外と悪名高いから。ちなみに一言で終わっちゃったけど、冷たいものはお水、濡れたものは土……だという理屈がアリストテレス自然哲学の四元素だ。これはこの反対に置かれた「だから熱いものである火と、水は反対になるもの」「だから乾いてふかふかでふさふさてふわふわであるものは風で、その反対の土は濡れて落ちてるものだ」なのを見るとちょっとは納得ができる。そして、それを伸ばしたのが魔術史の四属性だ。
「……うん。アクアは冷水。その感覚を感じ取って自分の中の一致する感じそのものを伸ばしてスフィアの中で触れれるお水を掴みます。これが基本的なエーテル操作。
でもこれだけじゃ足りないの。何故なら世界のものは色々混ざっているものが多いから」
「そこで『こっちに来てよ』と平凡のものを支配する過程が必要となるな」
「そう。使えるものを取り出す過程。そのプロセスで、例えると熱いスープから冷水を取り出すこともできるの」
「そんな惜しいことを」
ガブリエラはクールに無視した。
「それは求める元素の起点、オリジンがあるからだ。起点として指定した水にあってない部分は取り除いて使う水を掴みます」
「うむ」
「そして、霊魂。イドとスフィアのように、平凡の命を持つものはちょっとエーテルの相殺のようなことが行われます。これはスコラ学でトマス・アクィナス氏が整理しているからその部分を参考してください。とりあえず草木みたいなものから動物、人になるとその『持っていくとする抵抗』が強くなるの」
「そうですね」
「元素魔術は普通その場合『まあ、仕方ないからその部分は諦めます』と取らない仕組みになってるけど、この脱水魔術はその『どうしてもお水を取りたい』そのものをそのまんま攻撃魔術にしたものです。攻撃魔術としては完成されています」
「うむ、素晴らしい活躍でしたよ。素材もちょっと収集できたと思うけど」
「内緒」
「そう」
「その素晴らしい活躍を見てもわかるように、今は人間の霊魂……よりも比べものにならない『魔法生物のイド』を貫いて平凡の冷水を取り出すような魔術になってます。これは今回のような特殊な場合以外は使えない魔術になってます。わたくしガブリエル・ブリナは水の大魔術師として今まで結構多様な固有魔術を作ったけど、いつも感じるのが、1人だけの魔術はあまり喜ばしくないものです」
「同感です」
「あ、ちょっと知性が戻ってる。
で、別に平凡の社会の中でこの術を使っても、『雑巾が早く乾く』くらいなんですが」
「それもすごい術だと思いますよ」
「なんと、それすらも満足にできない魔術だったのが判明されまして」
「なに!?」
それは初耳だった。




