コツコツ潜む影
「ツートラック?」
「目的性を並立させることだ。以前言った『同時に何種類のことができる』どうぐを言ったのを覚えてるか?」
「はい」
「それと似て非なるものだ。わたくしとしては、狼としてこの子を乗せる、マントの影として潜む。この二つに集中することだ。これ以外のなんか特殊な技も慣れるとできるかもしれないけれど、それよりは今できることに絞った方がいい」
「そうですね。一つの道具で何種類の物事を同時にやろうとすると、羽のペンで掃除をしようとしてインクが付くような結果になりやすい。半端物になるのです。
その話題はおれもずっと思っていることです。機能が四種類もあるマギアくんです」
「そうなんだな。
力量ができること、互いを補う事が大事だ。わたくしの場合、もともとはマントの影にもっと近い。でも、この世界に来て強制的に狼になった。そしてその狼は、けっこう大きくて立派な姿だらしい」
「そうなんです」
「ふん。この子と君は以前『深紅の悪魔と戦う時に手伝うとだめですか』とも言ってたけど……そんなことは難しい。もともとそういう概念がわたくしは少ないからだ。狼は、ただカタチだからだ。影の狼としてのわたくしは例を言うと、物を掘るためのスコップが、ちょうどものを上に乗せることもできる……そんな感じだ」
「どんな感じですか」
ドルイドさんが中々へんな例えにツッコミを入れた。
「もともとの機能とはぜんぜん違うけど、物性がちょっとそれっぽいこともあるということだ。
そうだな、ドルイドの呪術の為の杖だったはずのわたくしたちの杖も、かんぜんに鈍器じゃないか」
「それは棒が近接武器のなかで一番だからです」
「やれやれ」
「はは」
どうやらドルイドさんは「ステラ・ロサさん」になってからの初期は、深紅の悪魔を倒すための目的自体は受け入れたけど、それを遂行するための鍛錬が厳しくて辛くてしょうがなかったらしい。だからその時の杖に関して、今とは違う思いをしていると思うけど……今の彼女は杖道のことがけっこう好きらしい。
「そのカタチだけの狼であるわたくしも……土地として、星としてできそうな『星の狼として人を乗せて走る』ことはできる。そして、狼として困る時は、星の亡霊として影に潜ることもできる。こういうのが互い相反せずに働いているから矛盾してなくて、だから他のことはやろうとするとできないわけでもないけれど、今の姿で居た方がいいということだ。例を言うとステラ・ロサさんが戦ってる間、わたくしが影を伸ばして深紅の悪魔をなにか邪魔するとかをしても、そういうわたくしの普段のキャラが変になるからよくないのだ」
「χαρακτήρですか?」
「そう。印象のこと。印象こそがその個体のイマジナリアを決めて、型物理性の中の存在を証明する。そこでわたくしが薄い影の力量を使っていろいろやろうとしても、わたくしとこの子の『座標』の物語性というものが揺れて、偉さを侵すことになるのだ」
「そうですか。それは大変だ」
「まあ、わたしも今は納得しているよ。そしてブイオさまも困るから、本当に大変な時はわたしの事を何かの方法を使って守ってくれるはずだ」
「それはいいことですね」
「わたくしはそういうの一言も言ってないが」
ドルイドさんはブイオさまの冷たい反応をスルーする。
「もちろん、わたしがこういうのを保険と思って普段気を抜くことは許されない事だ。でも逆に、だからこそ!こう頑張る理由が分かったからこそ毎日朝練して普段準備して万全の体勢を整える必要があると言える」
「ドルイドさんの『深紅の悪魔を討伐する』という裏の仕事は、人の前に出る事だけど、それが表の仕事ではないからですね。最大限鍛錬して安全に討伐した方がいいですね」
「そうだね。
うん、それくらいはまあ『ドルイドというものが認められないかも知れない』今よりも以前から、ずっと思ってたからね。別に気にしないよ。もともとわたしは深紅の悪魔としてそんなに人間たちに知られたくなくて、クララの『白い子』としてそんなには有名になりたくない」
「そうですか」
確かにそういうのがドルイドさんの「森の姫様」というターゲットだと、聞いた覚えがある。
「自然に。凄く自然で遅く、ゆっくりと『白神女のような』次にはなりたいと思うけどね。それはわたしがあえて主張してできるものでもないし、主張しちゃって、むしろ逆効果になると思うのだ」
「はい、おれもそう思います。特に、アストラさんの話のような噂が一般に流行る事になると……『白神女がいなくなったと聞く……なら、あのステラとやらは何処のどいつだ???何者だ!』になるかもしれないのです。そういうのは別においしい状況ではないですから」
「うん。最悪だね。だからわたしはなるべくコツコツに人たちの印象に残るつもりだ」
「なるほど」
確かに人たちの印象は大事だ。おれは凄く些細なことだけどこれからはすごくなるであろう……またの大魔術師やそれに等しい人になりたいと思うけど……それは「おれは四属性の天才ですから!」で叶うことではないだろうな。絶対。




