ルイの危機
「イリーナ様、軽率な行動は慎まれるようにお願い致します。
この件は女官にも不手際がありましたので、事故として処理致しましたが……
過ぎた行動はあなた様の今後の処遇にも関わります」
役人らしき男が懇々と述べ、部屋から出ていく。
イリーナは俯き、黙り込んでいる。
先ほど遭遇したライ・カーンの衝撃がいまだ冷めやらぬ様子だった。
女官の一人がイリーナに声を掛ける。
「今晩はライ・カーン様の主催する特別礼拝がございます、準備を致しましょう」
イリーナは泥のついたドレスを脱がされ、再び身体を洗われる。
乱れていた髪もセットし直され、あっという間に着替えが終わる。
「それでは、しばらくお待ちください……」
女官たちが去った後、イリーナは手近な椅子に座る。
(またあの男に会わないといけないの……? 怖すぎるよ……)
イリーナがライ・カーンに抱いた恐怖、それは理屈で説明ができるものではなかった、
『自分』を見透かすような瞳、通じているようで実は噛み合っていない会話。
(体調が悪いとか言えば、なんとか参加せずに済まないかな……)
ドアの前に立っている女官に駄目元で聞いてみよう。
イリーナが立ち上がろうとしたその瞬間、頭上から矢のような速さで何かが降り落とされ、足元に刺さる。
「!?!??」
驚きのあまり声も出ない。
床に刺さっているのは、穿孔の衝撃でブルブルと揺れる果物ナイフ。
(し、刺客……!? ていうかどこから)
部屋の中の女官たちはまだ床に刺さっている果物ナイフには気付いていない。
よく見ると果物ナイフと床の間に紙切れが挟まっている。
イリーナは恐る恐る果物ナイフを引き抜き、その紙を手に取る。
紙切れには何かが書かれている。
「!?」
『ライ・カーンが計画を変更した。
イリーナ、あなたの弟の命が狙われている。
ルイよりもあなたのほうが支配しやすいと判断したからだ。
自分もできる限りのことはする。
夜の特別礼拝はとくに注意をしてほしい。ジルカント』
(近くにジルがいる!?)
部屋の中や窓の外などに視線を巡らせるが、ジルがいる様子はない。
どこかに隠れているのだろうか。
いや、それよりもこの紙に書かれている内容だ。
ライ・カーンが計画を変更? あのルイが危険にさらされている?
先ほどのライ・カーンの発言の数々と、ジルからのメッセージ……
イリーナの中でパズルのピースがはまっていく。
「イリーナ様?」
女官に背後から話しかけられ、急いで手に持っていた紙を隠す。
「間も無く礼拝が始まります、聖堂へ向かいましょう」
どうやら礼拝に参加しないという選択は、許されないようだ。
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