夜の礼拝
夜の特別礼拝。
亡くなったアリフレート皇帝を偲び、葬礼の前に王族と国中の有力貴族を集めて行われる会合のようなものらしい。
会場は宮殿内の聖堂で、既に参列者の貴族は全員揃っているみたいだ。
聖堂の扉が開かれる。
イリーナが会場に足を踏み入れた瞬間、会場は静まり返る。
会場内の貴族たちの視線がイリーナに集まる。
貴族たちがイリーナに向ける視線は様々だった。
好奇、懐疑、不審、忌避……
(視線が痛い……)
会場内の空気にイリーナは萎縮するが、それを気取られないように必死で平常心を装う。
女官に席へ案内される。
聖堂には通常の教会のような参列者用の席と、主祭壇近くに(おそらくイリーナのような王族のために用意された)特別席があり、案内されたのはその特別席だった。
特別席の椅子は二つ。
もう一つの椅子にはルイが座るのだろう。
『あなたの弟の命が狙われている』
ジルからの手紙の内容を反芻する。
具体的にどうすればいいのだろうか。
この特別礼拝で、一体何が行われるかすらわからないのに……
そう考えを巡らせていると、会場の扉が開く。
ルイだ。
ルイの背後にはライ・カーンもいる。
ライ・カーンは目を伏せ、長いあご髭で口元が覆われているため表情が窺い知れない。
ルイと目が合う。
ルイはイリーナからすぐに目を逸らし、俯く。
表情は窺い知れないが、口は固く結ばれ噛み締められている。
ルイが隣の座席に座るが、俯いたままこちらを見ようともしない。
よく見ると小刻みに震えている様子だった。
(怯えてる……)
ライ・カーンは主祭壇に立ち、説教を始める。
私がライ・カーンだったら、どうやってルイを殺す。
『ルイよりもあなたのほうが支配しやすいと判断したからだ』
ルイが殺されるようなことがあったら、おそらくその嫌疑は真っ先にイリーナへ向かうだろう。
なぜならイリーナは一度、貴族たちと手を組んでルイを殺そうとしたから。
ルイを殺した後、姉のイリーナを傀儡にしたいのなら、絶対に姉のイリーナに嫌疑がかかるようなことはしないはずだ。
行動を起こすとしたら、目撃者が多い状況で、イリーナに絶対的なアリバイがなければならない。
「それでは、主の導きがあらんことを共に祈り、葡萄酒を拝領いたしましょう」
ライ・カーンが説教をそう締めくくると、僧服の人間たちがグラスに入れられたワインを配り始める。
イリーナとルイにもワインが渡される。
二人にワインを渡したのは僧服の人間ではなく、おそらく宮殿で働く官司の人間だった。
貴族たちへ配られたグラスとは異なり、二人のワインは金属製の、装飾の施された杯に注がれていた。
よく見るとイリーナとルイの杯にも明確な違いがあり、イリーナのものは銀製で、ルイのものは金でできている。
皇女と、次期皇帝という関係を考えれば素材の違いなど何もおかしいことではない。
(聞いたことがある、銀はヒ素みたいな毒と接触すると変色するって……)
一つの疑念。
イリーナに渡された銀の杯は変色していない。
磨き立てで、くすみ一つなく、輝きを放っている。
——毒殺。
例えば、もし今日、この場でルイのグラスに毒が盛られていたら……?
ルイの杯は金でできている。
金では毒の有無はわからない。
金の杯がルイへ使われるとわかっているのなら、あらかじめ毒を仕込むことは簡単なはずだ。
そして彼が死んだら、その杯を用意した者、そこへワインを注いだ者、それを配った者を処罰する。
そうすればルイを殺害したとしても、イリーナは嫌疑をかけられずに済むのではないか。
もちろん全てイリーナの憶測だ。
取り越し苦労かもしれない。
だがその憶測が正解してしまったら……
『あなたがホロミア塔でどのような扱いを受けていたのか……何をされていたのか……僕はずっとずっと、不安でした』
『本物の姉上は、一体どこにいるんですか……!?』
姉のために涙を流す、優しい少年。
もし彼の身に何かあったら……
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