VS潜水艦6 / 海を這う潜水艦コレッジオ
コレッジオ・ウヌは胸を水圧で押しつぶされているかのように、苦しい息をしていた。
コレッジオAの艦内。
艦長席はインタフェースが固くて狭かった。
古代戦艦であるコレッジオは、潜水艦でありながら清潔で空気も清く。
ヨナの知っている現代艦船の潜水艦は、例外なく狭くて臭い。
原子力潜水艦はそうでもないと言われるが、少なくともディーゼルの通常動力潜水艦はひといきれで息が詰まる。
『お姉さま、敵艦がまた進路を微調整しましたわ』
コレッジオBから共振で妹の声が届く。
『懲りずに私たちの包囲網を抜けようとするつもりでしょう。コレッジオBは阻止進路をとりますわ』
『お願い。あなたのほうが近いわ』
2隻対1隻。
私たちは敵艦『イリスヨナ』を包囲している。
そう、連携に慣れている2隻の潜水艦で、水面をのろのろ進む1隻の周囲を旋回しながら包囲している。
――包囲している、はずだった。
こちらのコレッジオ1隻を、見せ球のおとりにして挟み込む奇襲作戦。
状況が狂ったのは、ありえない方向へ発射管開放の音もなく発射された未知の魚雷。
イリスヨナの体勢を崩すはずだった先制攻撃をあっさり砕かれ、予定が崩壊した。
無音潜行も追撃も、次の行動に移る判断が遅れたコレッジオAに、イリスヨナが船首を向けて。
それから一週間。
イリスヨナによる休憩なし24時間の転進に、2隻の潜水艦は休む暇もなく対応に追われていた。
古代戦艦は強大な力を持ち、艦の寿命は戦没と整備不良以外では無限に思える。
だが、操艦するだけでも巫女に苦痛を強いる。
操艦途中からひどくなっていく、頭痛、吐き気、手足のしびれに熱感や冷感、胸の痛みに呼吸困難。
脳内をかき混ぜられるような不快感。
巫女により船により、また戦闘状況にもよって、その日ごとに異なる症状が巫女を消耗させていく。
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巫女が戦闘中は、戦闘艦橋からヒトを排除する。
視界にちらつくヒトの存在が、古代戦艦の制御から巫女を消耗させるから。
確かに集中したほうが長く戦闘を続けられ、戦闘中の苦痛も軽い。
しかし孤独が精神を蝕む。
コレッジオは巫女同士で交感して会話ができるから、孤独についてはマシなほうだが。
出港からすでに1ヶ月。
魔槍の輸送計画のリークを受けて、輸送中を襲撃するはずが、コレッジオA、Bは初戦闘に望むというストレスにより巫女に由来する機関不調。
間に合わせるため仕方なく先行した戦艦『アンジェ・リコ』は合流予定の海域に現れず、イリスヨナはここに健在。
巫女への負荷が大きい戦艦である『アンジェ・リコ』が、コレッジオをおいて先行できたのは乗艦する巫女の才能ゆえだった。
そして先行したきり、ここまで参戦の様子はない。
戦闘があったとは限らない。
機関不調で立ち往生しているだけかもしれない。
仮に戦闘があったとしても、戦艦『アンジェ・リコ』は、私たちの中でも特に才能ある巫女と強力な戦艦の組み合わせ。
せめて敵国でも岸辺にたどり着いていれば良いと考え、その心配の裏にある暗い予感に、コレッジオ・ウヌはせり上がっていた胃が震えるのを知覚した。
艦長席の隣には、優美さなど欠片もない小さな金属製のたらい。
黄色とピンクの混じった透明な胃液を見つめて、とうに限界を越えた肉体と精神をあらためて見せつけられる。
未消化の固形物は混じっていなかった。もう3日も食べ物を口に入れていない。
思い返してみれば、初回攻撃が失敗した時点で奇襲という優位は失われていた。
あそこが最初の分岐点。そして今こそが2つ目、たぶん最後の判断のしどころだった。




