VS潜水艦5 / ミッキの新兵器 / 対魚雷防御散弾
増速して陸から離れるように右へ面舵。
10秒後にアクティブソナーのピンを打つ。
初動はこちらが不意を取って先制。
しかし、ピン音はまず敵艦に衝突して相手の方が先に情報を得る。
そして水中は空中より早く音が進むが、反射で返ってくるのに倍の時間がかかる。
『コレッジオAが浮上を開始。コレッジオBより魚雷発射管注水音』
副長は作戦開始前に定位置に戻っている。
「想定より早いですね。すでに攻撃態勢だったようです」
「でもコレッジオBを発見したわ。ソナーもすぐ返ってくる」
相手潜水艦たちの行動は想定内。
コレッジオAは、潜航してこちらを4時方向から追っていたおとりの潜水艦。
コレッジオBがもう一隻の、位置が不明だったほうの潜水艦。
いちばん甘い予想は、機関を停止して無音潜行しているコレッジオBが即応できない深い深度にいるか、まだあらぬ方向を向いているというもの。
その場合は最初の攻撃までに、さらに時間がかかる。
イリスヨナを追っていたコレッジオAは深度40mにいて、深度20mまで上がってきて攻撃可能になるまでには時間がかかる。
『17番の垂直発射管を開放』
発射管注水音を受けて、弾体発射までは、あくまで警戒行動。
『コレッジオBより魚雷発射音が2つ。接触まで60秒。コレッジオAおよびBを敵艦と識別』
先制攻撃を確認。こちらも反撃へうつる。
コレッジオA・Bと魚雷の位置の精度を上げるため、少し時間を開けて、連続でピンを打つ。
「掌砲長、イリスヨナは敵魚雷に接触タイミングでちょうど横腹を向けているわ。まるで大きなマトよ。対応よろしく」
「了解してます」
掌砲長はコンソールを見たまま答える。
『ソナー感あり』
「コレッジオAの位置を捕捉しました」
『対潜攻撃開始。対象はコレッジオA。17番垂直発射管より対潜爆雷を射出』
古代戦艦イリスヨナの艦首甲板から飛翔体が煙の尾を引く。
「この時間差が勝負どころね」
コレッジオAは対潜攻撃を受けたと気づけば回避を優先するし、攻撃を諦めて潜航してくれるかもしれない。
しかし潜行しており今まさに浮上中のコレッジオAが、空中の飛翔体に気づくのは難しい。
魚雷攻撃は水中でもわかりやすいが、前方魚雷発射管はコレッジオAとまったく別方向に向いており、旋回式魚雷発射管は使用中だ。
コレッジオAが回避に移れず攻撃に入ってしまえば、コレッジオAを対潜爆雷で撃破できたとしても、イリスヨナは2撃目を受けてしまう。
「旋回式魚雷発射管を回転。新型魚雷は問題なし。発射体勢よし」
掌砲長が告げる。発射タイミングは最初に移譲してある。
ミッキの作った新型魚雷。
「ミッキ、ありがとう」
「どういたしまして?」
なぜ疑問系。
まあ確かに、こういう時どう答えればいいのかは私にもわかりかねる。
感謝の言葉を言うタイミングでもなかった。終わったあとの方がよい。
『魚雷の接触まであと40秒』
「新型魚雷、発射」
掌砲長がトリガを入れる。
ふつう魚雷発射管は前方に配置されており、船体から前方に発射される。
しかしイリスヨナの旋回式魚雷発射管は船体後方の海面上にあって、船体の横方向へ撃つことができる。
海中では、あらぬ方向から魚雷が突然降って湧いたようにも見えるだろう。
フーカが戦闘中であることも忘れて興奮する。
「すごい! すごすぎる! まさか旋回式魚雷発射管が動いてるところを見られるなんて!」
第二発令所からも船体の真後ろにある旋回式魚雷発射管は見えないので、第一発令所からVUHDのカメラ映像で我慢(?)してもらっている。
奇しくもフーカが発見されたカメラアングルで、しかしフーカはそのことを知らなかった。
それにしてもフーカ、艤装とか好きなタイプだったのか。
あるいは、観艦式などで停泊している船を見学するより、実際に動いているところを見る方が好きなのかもしれない。
戦闘中なのでフーカの様子は横目でチラ見する程度にして、海中状況へ意識を集中する。
コレッジオBが撃った魚雷はわかりやすい。最短時間で真っ直ぐに進んでくる。
あわよくば命中。だがまずはイリスヨナの選択肢を奪うことが目的で、コレッジオAが攻撃に参加するまで時間をかせぐ。
その魚雷に横腹を見せようとしているイリスヨナから、突然あらわれた魚雷。
進行方向はコレッジオBへまっすぐ進むコースだが、目的はコレッジオBではなく、その手前で疾走中の敵魚雷。
この初撃をいなした後のことは、すでに決めてある。それほど不安はない。
だから、なんだかんだ言って、この新型魚雷が発動する瞬間がいちばん綱渡りだ。
思わず視線がミッキへ向く。
ミッキは特にいつもと変わらない様子。特に緊張などはなく、ただ興味深そうに自分の作った新型魚雷の疾走経路を見ている。
まあ根っからの技術者であるミッキの性格的に、新型魚雷が不発に終わったとして、イリスヨナに魚雷が命中する瞬間も、いつもと同じように平然としているのかもしれないが。
掌砲長はVUHDの時間標示には目をやらない。腕時計を見ながらカウントする。
「5、4、3。発動します」
ミッキの新型魚雷、艦対雷の防御システムは定時で炸裂し、疾走体から無数の弾体を撒き散らす。
そのようすは海中を水平に伸びた黒い花火が炸裂するようで。
弾体が作った球状のキルゾーン。水中の散弾による防御壁。
直進していた敵魚雷2本が、吸い込まれるようにキルゾーンに飛び込む。
魚雷のうちの1本が、側面から弾体の直撃を受けてひしゃげる。
速度を失った魚雷が2,3撃目を受け、直後に衝突信管で弾体が弾けて魚雷を完全に破砕する。
想定通りの結果ではあるものの、まだ未成熟な防御システムは散弾の弾幕だけに頼ってはいない。
弾体が遅延信管で炸裂して、周囲に破片と、小さな重りのついた『糸』をばらまく。
糸は蜘蛛人による強糸。魚雷をからめとる、レイン謹製の罠だった。
古代戦艦が艤装している魚雷は、確かに超科学と魔術の産物であり、火力と制御の性能は現代科学の最先端を凌駕する。
だが、そうは言っても結局は魚雷。後端のスクリューで海水をかいて進む。
だから魚雷を絡め取るのに、糸を網のように組む必要はない。
魚雷自身がスクリューに巻き込むからだ。
海中の破片をまともに受けてスクリューと舵が歪み、さらに糸を巻き込んで、2本目の敵魚雷が操舵と推力を失う。
イリスヨナへの衝突コースをソレてあらぬ方向へ流れ、海中で慣性力を失って立ち往生。
しばらく海中を漂ったあと、衝撃信管を補助するためにセットされていた時限信管が作動して自爆。
新型魚雷は予定通りの性能を発揮し、敵魚雷2本を無力化して、敵艦の初撃を文字通り打ち砕いた。
つづく
9月の更新はお休みします。
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<Iris*Yonah in the ark>
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