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出会い

目の前には私を守ってくれるはずの騎士が、抜き身の剣を持って佇んでいる。


「その剣を下ろしなさい。誰に向かって剣を構えているの。」


本当は怖くて震えているのに、相手に悟らせたら負けだと思い。

出来るだけ強い声で相手に立ち向かう。


「リリア王女。貴方が誰かのものになるぐらいなら、私のこの手で殺してさしあげましょう。」


目の前の男は狂っていた。

幼いころから傍で守ってくれて、誰にもいえない悩みを聞いてくれたり

2人で城を抜け出して探検にも出かけた。

確かに彼への恋心を私も持っていたが、私は王女だ。

好きな人と一緒になれるとは物心ついたときから期待などしていない。


だけど、今この場で知ったが、目の前の男はそうとは考えていなかったらしく。

私が婚約したと知ると、夜中に部屋まで忍び込んできて

一緒に逃げようとまで言ってきた。


王女でなければ、国の状況が悪くなければ、いくつも条件があるが

私が何にも縛られる身でなければ、迷わずついて行ったであろう。


それほど、確かに私は目の前の男に惚れている。


だけど。


私を縛るものは多く。

それらを放って、この男のものになった場合

国はこの国の民は大変な事態になるだろう。

それほど、この婚約は大切なものなのだ。

逃げたと知れたら、どうなることか。


そして、その事を理解してもらおうと必死になって目の前の男に語りかけたのだが

出てきた答えは、死。


部屋の中を必死に逃げ回ったが、壁際にやすやすと追い込まれ。

気づいたときには、床に押し倒され身動きできない状態にされていた。


「や、やめて!」


私の制止の言葉には答えず。男は悲しそうに微笑んだ。


「愛してます。リリア王女。すぐに私もいきますから。」


そう言うと。頭を下げて、私の唇にキスをした後、一気に胸へ剣をつきたてた。




**************


これが私の前世。


今は別の国の王女として生を受けました。

魔法国家である王女として生まれ、しかも結構な魔力があったので前世の記憶が時々夢に出てきていた。


他の兄弟も同じように前世を見ると言っていたけど、誰も前世の夢は口にしない。

人には色々ありますからね。


だけど、今の私は前世とは違い。あまり縛られるものはない。

王女だけど、兄弟が多く、上から10番目なのでそこまで目をかけられるでもなく、かといって完全に放っておかれるわけでもなく

そこそこに大切にされ、そこそこに自由がある。

次の王も決まっていて、次代の王をめぐる争いはほぼ収束しているし

先日結婚された上から3番目の姉なんか吟遊詩人と結婚している。

まあ、3番目の姉は魔力が少ないからという理由もあるけど。

国の規模も大きくなく、民との距離も遠くない。

周りの国とも良好な関係を築けているし、王も上手く政治を行って国をまとめている。


前世の記憶を思いだすと悲しくなるが

現世をありがたく思わせるためのものだと思うことにする。



「リオーナ様。そろそろお昼の時間ですから、戻ってください。」

少し遠くのほうから侍女が私を呼ぶ声が聞こえた。


今、私は中庭にある庭園で自分の部屋を飾るための花を摘んでいた。

確かにそろそろお腹もすいてきたから戻ろうかと、足元に置いていた花を抱え、顔を上げる。


人が横に立っていることに気づく。


急に人が視界に入ったことと、見慣れない人であることにビックリして体が跳ねる。

背が高い人らしく、視界に入ったのは相手の胸部分。

ゆっくりと目線を上に移動すると、相手と目が合った。


金色のサラサラした髪に晴れた空のような青い瞳。

普段の私なら、目の前に現れたこの男の人の整っている顔を見て、まず最初に”かっこいいな”という感想を持つだろう。


だけど、今の私は違った。

今というより、この男の人を見た私は普段のお気楽な自分になどなれなかった。


この青い目を持つ男の人は、・・・夢で見た騎士、前世で殺された、あの男だった。


容姿がそのままだった訳ではなく、ただの直感だけど、頭の中で警報が鳴り響くから間違いないはず。


知らず体が一歩、後ろに下がってしまった。

それを見た男は一瞬目を細め。私から警戒心を解こうと、うっすらと微笑んだ。


落ち着くんだ私。

この男と前世とかかわりがあったとしても、今の世では何も関係などない。

今の私は誰だ。この国の王女、リオーナだ。


一つ息をついて気持ちを整えた後、私は口を開いた。

「誰か!怪しいものがおります。誰か!」


私の呼ぶ声が多くの人に聞こえたのだろう、数秒後には数十人の騎士と魔術師が私の周りにずらりと並んでいた。


その様子をあせるでもなく見ていた男の人は両手を上げる。


「申し訳ありません。驚かせてしまいました。

まさか、王女様とは思わず。失礼しました。

私はギルナ国、騎士団第1隊長ロアンと申します。

昨日からこの国へ使者として参ったのですが、散策途中に迷ってしまいまして、道を尋ねようとしたのです。」


申し訳ありません。と再度謝る男を見て、私は安堵のため息をつく。

そう、前世は前世。現世は現世だ。


私は笑って男を許し。騎士に彼の案内をまかせた。


花を抱えた私は上機嫌で部屋に戻る。

先ほどあった男の人の容姿を思い浮かべ、今思うともっと見ておけばよかった、眼福だったな。と現金なことまで思えてきた。

前世の事がなく、出会えていたならきっと惚れていたに違いないと思うほど、彼の容姿は自分好みだった。


そして次の日。

なぜか王に呼ばれた私は、なぜかいつもより派手に服と頭を飾られて、謁見の間に向かった。


部屋にはすでに誰か客が居たようで、そろそろと入ると目がその人とあってしまった。

その人とは昨日、中庭であったロアンという人だった。


王は面白そうに私を近くに呼ぶと、衝撃的なことを口にした。

「リオーナ。彼が、お前を望んでいるんだが、どうだ。」


!!!???


いきなりの事に返事が出来ず、身が凍ったように固まっていると、王がさらに続ける。


「お前もそろそろ良い年だ。ギルナ国はわが国より大きく、安心できるだろう。

さらに、この青年は剣の腕もいい。国をこえても、その腕前の噂は伝わってくぞ。

お前の為にならこの剣を使って奪ってもいいなどと冗談も言えるほどだ。」


冗談!?

それ本当に冗談かしら!?


ロアンのほうを見ると、熱に浮かされたような眼でこちらを見つめていた。

やばい。

夢で見たあの眼だ。


この場で断ると、私の命が危ないような気がする。


「お父様。ロアン様と、少し2人でお話してもよろしいでしょうか。」


王は微笑みながら立ち上がる。


「好きにしなさい。返事は明日まで、彼が戻ってしまう前に。」


「分かりました。」


男に近寄ると、手を差し出してきたので、少し考えてしまったが、結局その手の上に右手を添えた。


「庭園に行きましょう。」


「はい。」


私の提案に即座に頷いてくれた。

2人でゆっくりと庭園に向かいながら、私はその間に彼を説得するための材料を探す。

顔が好みでないと言うか。いや、ばっちり好みだ。嘘は慣れていない。

身分差、は我が国ではそこまで重視されないし、そこまで離れているようにも思えない。

彼は噂になるほど良い腕を持つ剣士らしいし、王にも気に入られている。

あとは・・・。


「リオーナ様。」

「はい?」


考えに没頭していたため、少し上ずったような声になってしまった。


「私はきっと、貴方に会うために生きてきたのだと思います。」


重い!!


「き、きっとそれは何か誤解です。ロアン様は悩みを抱えているのでは?私でよければお聞きしますわ。」


これは、良い切り返しではないだろうか。


「悩みなど・・・。いや、そうですね。ずっと、生まれてからずっと、何かが足りないと思っていました。」


ああ、墓穴を掘った気がする。


「でも、貴方を一目見たとき、その思いは無くなりました。私が探していたのは」

「わーーーーー!綺麗な花!」


ちょうど庭園に着いたので、眼に留まった鮮やかな花を指差し、彼の言葉をさえぎる。

だけど、私のそのとっぴな行動に怒るでもなく呆れるでもなく、ただ穏やかに微笑んで。


「そうですね。」


と同意してくれた。

その穏やかな笑顔に、キュンとしてしまった私は、自分自身に落ち着け落ち着け、と呪文のように繰り返す。


「ロアン様はギルナ国では身分あるお方なのでしょう?

家の事を考えると、こんな小国の王女を相手にするより、自国で力ある貴族を相手にしたほうが宜しいのでは?」


というか、普通そうだろう。


「家とかそんなことはどうでもいいのです。」


ああ、確かに夢の貴方も国も国民もどうなろうが知ったことではないって感じでしたものね。


「でも、でも・・・。」


ネタが切れた。他になんていおう。


「リオーナ様は私と結婚するのがお嫌なのですね。」


次の言葉を捜していたら、横から悲しそうな声でそうロアンが言った。


「いえ。え、うんと、えと。」


ここで”そうだ”と言って突き放してもいいものか。どうか。

侍女は庭園に入る前に要らぬ気を利かせて、見えない位置まで下がっていた。

つまり、今は誰も助けてくれる人が居ない状態だ。

言いにくそうにしていると、ロアンはリオーナの手を引く。


あれ。と思うまもなく景色が変わり。

壁に貼り付けられ、目の前には冷たい眼をしたロアンの顔があった。


「手に入れられないとしたら、いったい私はどうしたらいいのでしょう。」


これは、危ない!危ない!!

私の左手は彼の右手に絡められているが、右手は自由なままだ。

切りつけられては堪らないと、とっさに彼の腰にある剣に手を触れる。

と、ロアンははっとした顔になった。


「そうですね。一緒に死ぬのも良い。」


早まったーーー!!

周りを見渡しても、やはりここからでは侍女も騎士の姿も見えない。

叫んだら、来てくれるだろうかと、口を開こうとすると、ロアンの左手が覆いかぶさってきて止められた。


「呼んでもいいですが、その場合、私は躊躇しません。」


人はそれを脅迫と言う。

ロアンは私の体を壁に押し付けるほど身を近づけ、私の耳元でささやく。


「結婚してください。」


体に少し当たる剣の感触。ロアンの冷たい目と私のおびえた目が合う。

悩んだのは一瞬。拒否すればきっと死がまっているだろう。

私は観念して、ゆっくりと首を縦に振る。

それを見たロアンは満面の笑みをうかべ、頬を染めた。


不覚にも、心臓が跳ねてしまったが、これはつり橋効果なのかなんなのか。

どちらにせよ、好みの顔と、前世と同じなら好みの性格をしているのだ。暗い部分を除けば、彼の事は好きになれると思う。・・・たぶん。


そう考えると、この結婚に障害はないし、して困ることなど何もない。・・・かもしれない。

なんとか自分を落ち着けようと、未来に希望を見出そうとする私にロアンが優しく語りかける。


「王に報告へ行ってもよいでしょうか。」


嬉しそうに手を私の頬にあててきた。


「・・・はい。」


「では、庭園の傍に騎士が控えているでしょうから、その方に伝言でもう一度合っていただけるように話してみます。」


「・・・いえ、自国なのですから、私が行きます。」


傍に控えている者を探そうと駆け出そうとしたところ

手を引かれて、戻されてしまう。


「私が話してきます。」


「え。でも。」


私がいったほうが。といおうとしたところ、またあの冷たい眼で見られてしまった。

怖い。


「貴方は私のものです。むやみに異性と眼を合わせるのは避けてください。」


え。


「でないと。私はその者を殺してしまうかもしれません。」


え。


と混乱していると、ぎゅうぎゅうと少し痛いほど抱きしめらる。


「貴方は一生私のものです。逃げられると思わないでくださいね。」


こ、怖い!


私が引きつった顔をすると、それに気づいたロアンは安心させるようにふわりと微笑む。

その顔とゆっくりとなでられる背中に、なぜか恐怖などなかったかのように顔が赤くなる。


間近で見る綺麗に整った、にっこりと笑う私好みの男の顔。

これを見ると恐怖を一瞬忘れてしまうから不思議だ。


だけど、男が身に着けている剣が不意に体に当たった感触で

これからこの嫉妬が強い男と死と隣りあわせで生きていくはめになるのでは、と思い。

背中がぞくりとした。

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