↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/20

第5話 プロヒビテッド

「パソコンです。」

「ぱそこん。」


イワナガヒメは、音の形を確かめるようにもう一度言いました。


ベッドの背を起こし、膝の上へ台を置いてノートパソコンを載せました。

画面に目が行くと思ったのに、イワナガヒメが最初に確かめたのは蝶番でした。

二枚の板がどうつながっているのか、指先で境目をなぞっています。


「板が二枚つながってる。」

「そこからですか。」

「知らない物は、形から見るだろう。」

反論できません。


私はマウスを渡しました。

「これを動かすと、画面の矢印が動きます。」

イワナガヒメは恐る恐る右へ滑らせました。

力加減を知らないので、矢印は一気に画面の端まで飛んでいきます。

「……行きすぎた。」

「そうですね。」

二度目は半分。

三度目は指先だけ。

五分後には、私が触るより慎重にカーソルを合わせています。


「文字は?」

「読めない。」

即答でした。

そこは少し安心しました。


「これはログ。記録です。」

「なら記録って言えばいい。」

「こっちではログと言います。」

「同じものに別の名を付けるの、好きだね。」

五千年前の人に言われました。


黒曜石のログを三つ並べます。

イワナガヒメは画面へ顔を近づけ、一番左の同じ位置に並ぶ文字を指しました。

「これは?」

「subject。主体。」

「さぶじぇくと。」


次の行。

「これは?」

「object_contact。触れた物。」

「長い。」

「私もそう思います。」

私が三件を読み上げる間、イワナガヒメは画面を見ていました。


一件目。

自分が黒曜石へ触れた。

二件目。

千歳が黒曜石を持った。

三件目。

五色石盤に黒曜石が使われた。


読み終わると、イワナガヒメは一件目を指で叩きました。

「同じ石だから、同じ働きだと思ってる?」

「……少し。」

「今分かってるのは?」

「材質が同じ。」

「それだけ?」

私はメモ欄へ入力します。


── SYSTEM LOG ──

same_function_assumption(同一機能仮定): prohibited(禁止)

────────────


「最後のは?」

「プロヒビテッド。禁止。」

「何が。」

「同じ材質だから同じ機能だと決めつけるのは禁止。」

「なら覚える。」


少しして、別の行を指しました。

「unknownは?」

「不明。」

「これは覚えた。」

「一番よく出ますからね。」

「それは誇るところじゃないよ。」


その後、イワナガヒメはログの順番を変えさせました。

「時間順じゃなくて、同じ結果が出たものを並べて。」

「文字は読めないんですよね?」

「読めない。だからお前が読めばいい。」

私は教えているはずでした。

気づけば、私が操作係になっていました。

「このunknownは消さないで。」

「消してません。」


「前は?」

「……たまに。」

イワナガヒメが私を見ました。

「それは雑だね。」

反論できませんでした。


病室へ看護師さんが来た時だけ、少し困りました。

目を覚ました千歳が、ベッドの上でノートパソコンを操作している。

外から見れば、そう見えます。


「……目が覚めたんですね。もうパソコンまで……大丈夫なんですか?」


私が答えるより先に、イワナガヒメが言いました。

「問題ないよ。」

声は千歳です。

態度は全然千歳ではありません。


看護師さんが少し止まりました。

「……元気そうですね。」

「元気だよ。」

「そう……みたいですね。」

看護師さんは私を見ました。

私は笑うしかありませんでした。

説明すると、たぶん長くなります。


看護師さんが病室の入り口を閉めた瞬間。

廊下の向こうから、何かを叫ぶ声と、走り去る足音が聞こえました。

いや、でしょうね。

その反応が正解です。

病室の中で冷静を装っていた看護師さんに、申し訳なくなりました。

私は、目の前のイワナガヒメの反応があまりにも冷静すぎて、起きた現象を少しスルーしすぎていました。

ごめんなさい、看護師さん。


そんな私をよそ目に、イワナガヒメはすぐ画面へ戻りました。

「次。」

「休まなくていいんですか。」

「僕からすれば、五千年寝てたようなものだよ。」

「時間の流れはそう単純じゃないです。」

「じゃあ、どれくらい?」

「一週間?分かりません。」

「未解決ばかりだね。」

「さっきも聞きました。」

イワナガヒメが笑いました。


* * *


私は、消さずに残した項目を見直しました。


── SYSTEM LOG ──

obsidian_function(黒曜石機能): unresolved(未解決)

obsidian_source(黒曜石入手元): unresolved(未解決)

────────────


その作業が一段落したところで、別のイベント通知が上がりました。


── SYSTEM LOG ──

new_event_detected(新規イベント): true(真)

location(場所): GODDESS_ACADEMY(女神アカデミー)

activity(活動): BATHING(入浴)

participants(参加者): MULTIPLE(複数)

────────────


「……入浴?」


父親としては見ない方がいい。

開発者としても、必要なログだけでいい。


管理画面を開こうとすると、先にシステムが止めました。


── SYSTEM MESSAGE ──

このコンテンツは、

利用規約または使用ポリシーに

違反している可能性があります。

────────────


「……ですよね。」


今度は素直に閉じました。


千歳が向こうで誰と何を話すのか。

父親だからといって、全部を知る権利があるわけではありません。


イワナガヒメが冷たい目でこっちを見ています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。