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第13話 それとこれは別

翌朝。

教室へ入った瞬間、昨日までとは空気が違いました。

誰も露骨には避けません。

でも、視線だけが集まる。


席へ着く前に、香乃が立ちました。

「千歳。」

イワナガが振り返ります。

「何。」

「もう、知ってることあるなら言ってよ。」


教室が静かになりました。

「昨日も時間、当てたよね。」

別の子が続けます。

「先生とも話してたし。」

「業者の人とも。」

「先輩たちともつながってるって。」

「咲良も庇ってたし。」

最後に、誰かが小さく言いました。

「……本当に、千歳がやってるんじゃないの?」


イワナガは、しばらく全員を見ました。

怒りません。

言い返しもしません。

先生の方を向きました。


「先生、黒板使っていい?」

「え? あ、はい。」

イワナガはチョークを一本取りました。

でも、まだ何も書きません。


「先生。校内放送のチャイムは、どうなると鳴る?」

「どうなると、ですか?」

「普通に使ってる時。」

先生は少し戸惑ってから答えました。


「学校の授業などに合わせて、時刻を設定しています。その時刻以外には鳴りません。」

「じゃあ、夜中に鳴るのは普通じゃない。」

「そうですね。ですから、導入業者にも何度か調べてもらいました。でも、学校へ来てもらった時には異常が出なくて……」

「業者は、異常があるたびに学校まで来るしかないの?」

「いえ。」

先生は首を振りました。

「簡単な調整なら、電話回線を使って外からできます。よほどのことがない限り、わざわざ出張しなくてもメンテナンスできる製品なので、学校でも導入したんです。」

教室の何人かが顔を上げました。


イワナガが、そこで初めて黒板へ向きます。

「外部から校内放送を起動するための番号は?」

先生が資料を開きました。


「これです。」

イワナガは、その番号を黒板へ書きました。

外部から校内放送を起動するための番号

0120-XXX-781


「この番号を使うと、外部から校内放送を起動する経路へ入れる。」

先生が頷きます。


「はい。もちろん、そこから先は保守用の操作が必要ですけど。」


イワナガは、その下へもう一つ番号を書きました。

ヨークネール注文時に扱った番号列

0120-XXX-780


書いた瞬間。

教室の後ろで、誰かが声を出しました。


「あ。」

別の子も黒板を見ます。

「それ、ヨークネール?」

「知ってる。」

「夜中の通販のやつでしょ。」

「最後、ゼロだよね。」

テレビショッピングを見たことがある人は、思ったより多いようでした。


何度も繰り返される商品名。

覚えやすい電話番号。

画面の下へ大きく出る数字。


イワナガは、二つの番号を指しました。

0120-XXX-781

0120-XXX-780

「違うのは?」


香乃が答えました。

「最後の一個だけ……」

「そう。」

教室が静かになりました。


イワナガは、黒板の左側へ、これまで夜中にチャイムが鳴った時刻を書きました。

その横へ。

ヨークネールのテレビショッピングが放送された時刻を書きます。

一つ。

二つ。

三つ。

並べるほど、教室の空気が変わりました。


「ヨークネールの放送が終わった後に、チャイムが鳴ってる……?」

「全部じゃない。」

イワナガが言いました。

「でも、重なってる。」

先生も黒板を見ています。


イワナガは、ヨークネールの番号を指しました。

「テレビを見た人が、これに電話する。」

次に、外部から校内放送を起動するための番号。

「でも、最後の一個を押し間違える。」

指が、780から781へ移ります。

「すると、学校の放送設備の保守回線につながる。」


「でも。」

先生が言いました。

「電話がつながっただけで、普通はチャイムまでは……」


「だから、僕は設備業者に電話での遠隔保守の操作方法を聞いた。」

イワナガは、黒板に英数字を書き出しました。


8#1#2#


そして説明します。

この英数字は、保守が完了した後に動作確認をするためのコード。


「そして、ヨークネールに電話をして、購入してみる。」

イワナガはスマホを出して、先ほどの番号にかけ、音声をスピーカー出力にしました。


「ご購入の際は、番組でお知らせした特別割引番号がご利用いただけます。特別割引番号を入力して、#を押してください。」

イワナガは8#を押して黒板8#を書きました。


「特別割引価格が適用されます。ご購入をされますか?ご購入を決定する場合は、1#を、ご購入をキャンセルする場合は2#を押してください。」

1#を押し1#を書きました。


「ご購入ありがとうございます。続けてお買い物をする場合は、#1を、お買い物を終了する場合は、2#を押してください。」

2#を押し2#を書きました。

「なお、お客様の地域は、当日配送特別サービスの対象地域です。本日中にお届けいたします。」


8#1#2#


黒板を見ていた皆が一斉に息を呑みました。


咲良が叫びました。

「ピッタリ同じじゃん。」


イワナガは、先生を見ました。


「新しく入れた設備は外部からの保守用番号に着信した時に、保守操作モードが起動する。特定の番号を入力することで作業が進められる。保守完了後の動作確認を起動する番号がこっちで、ヨークネールを購入するために順番に押す番号がこっち。毎回じゃないのは、間違えても途中で電話を切る人がいるから。何度も注文してる人なら、音声案内を聞かなくても操作できる。転売目的で繰り返し買ってる人もいるだろうし。」


先生が息を飲みました。

「だから、業者が学校へ来た時には再現しなかった……?」

「業者は、ヨークネールを購入したことはなかったし、購入用の番号を暗記してなかったよ。」


香乃が黒板を見たまま聞きました。

「じゃあ……昨日、千歳が時間を知ってたのは?」

イワナガは、ヨークネールの放送時刻を指しました。

「次のテレビショッピングの時間を見た。」


「何で?」

「ヨークネールが欲しかったから。今日届くのはうれしい誤算だよ。」

教室が止まりました。

「……え?」


イワナガは普通に続けます。

「地域ごとに放送時間が違うから、放送予定を調べた。そしたら、夜中のチャイムと近い時間が何度もあった。」

「それで先生に聞いた?」

「うん。」

「業者の人と話してたのは?」

「学校の放送設備が、外から電話で調整できるかと操作方法を確認した。」


誰も、すぐには喋りませんでした。

咲良が小さく息を吐きました。

「だから言ったじゃん。」


香乃がまだ少し納得しきれない顔で言います。

「じゃあ、不良の先輩たちと話してたのも、これの調査だったの?」

イワナガは即答しました。

「違う。」

教室がまた止まります。

「え?」

「他校との抗争を止めるように、僕が指示した。」


一拍。

「……指示?」

「あいつらは、僕の命令には歯向かわない。」

今度は、誰も何も言いませんでした。


しばらくして。

教室の後ろから声がしました。

「そこは思った通りじゃん……」

何人かが吹き出しました。

別の誰かも笑います。


「チャイムの黒幕じゃないけど、不良の黒幕ではあるんだ。」

「黒幕って言うな。」

「言ってること同じじゃん。」

教室の空気が、ようやくほどけました。


* * *


その日の夜。


自宅。


私は、学校の保守回線への着信記録をツクヨミに照合させていました。


── AIツクヨミ 応答 ──

誤発信と思われる着信を複数回確認しました。夜間チャイムの異常時刻とも、高い一致があります。

────────────


イワナガヒメはヨークネールのテレビショッピングを見ながら言いました。

「学校でも、みんな分かったよ。」

「それは良かったです。」


その時。

玄関のチャイムが鳴りました。

宅配便でした。

大きな箱です。

伝票の商品名を見た瞬間、私は箱からイワナガへ、そしてもう一度箱へ視線を往復させました。


ヨークネール。


推理が当たったことより、こっちの方が理解できません。

「……え?」

「何。」

「買ったの?」

「買ったよ。」

「事件を調べるために、放送時間を調べてたんじゃないんですか?」


イワナガは真顔でした。

「それとこれは別だよ。」

「……本当に欲しかったんですね。」

「最初からそう言ってる。」


箱を抱えます。

「惰眠は最上の甘美では?」


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