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第12話 千歳がやったんじゃない?

「ちー、なんで分かったの?」

朝から何度も聞かれました。

「分かったわけじゃない。」

「でも当てたじゃん。」

「推定しただけ。」

「何から?」

そこでイワナガは答えませんでした。

正確には、まだ説明できるところまで届いていません。

でも、聞いている側には関係ありませんでした。


昼休み。

少し離れた席から、声が聞こえます。

「千歳って前から、たまに変なこと言ってたよね。」

「見える、とか?」

「そう、それ。何が見えるのか聞いても、よく分かんなかったやつ。」

「でも前の千歳って、こんな感じじゃなかったよ。」

「むしろ逆じゃない? 何か言っても、すぐ『私もそう思う』って。」

「合わせてたよね。」

そこで一人が言いました。

「小さい頃は、千歳っていつも真ん中にいたじゃん。」

少しだけ間が空きます。

「ああ……」

その一言で、昔を知っている何人かの中に同じ景色が浮かんだようでした。


「修学旅行の前もさ。咲良の女神コレクション、千歳が最後だったよね。」

「最後に声かけられたってやつ?」

「うん。」

「それで修学旅行で倒れた。」

誰かが、笑うでもなく言いました。

「……あの時、ずっと千歳の話だったよね。」

今度は、誰もすぐには返しませんでした。


しばらくして。

「昔みたいに、またみんなの真ん中に戻りたかったとか?」

「まさか。」

「いや、倒れるのまでわざとってのは無理でしょ。」

「でも結果はそうなったじゃん。」


結果。

その言葉だけが残りました。

修学旅行で倒れた千歳。

病院に運ばれた千歳。

学校へ戻ってきた千歳。

復学した直後は、廊下でも教室でも、誰かが千歳を見ていました。

前と話し方が違う。

一人称まで違う。

先生にも平気で言い返す。

周りへ合わせることもしない。


「なんかさ。」

別の子が声を落としました。

「戻ってきてから、ちょっと天狗になってない?」

「分かる。」


「最初はみんな千歳のこと気にしてたけど、もう普通になってきたじゃん。」

「復学しただけで、いつまでも騒がないでしょ。」

「だからじゃない?」

「何が?」

「また、みんなに見てほしくなったとか。」

今度の沈黙は、さっきより長く続きました。

誰かが否定すると思ったのかもしれません。

でも。

誰も、すぐには否定しませんでした。


その日の放課後。

職員室の前で、数学の先生がイワナガを呼び止めました。

「千歳、ちょっといいか。」

「何?」

「ここじゃなくて。」

先生に促され、イワナガが職員室の奥へ入っていく。

その背中を、廊下の角から見ていた生徒がいました。

事情を知らない目には、ただ「先生と二人で人目を避けた」ように見えたのでしょう。

翌日には、

「千歳、先生とこそこそ話してたらしいよ。」

という話へ変わっていました。


さらに数日後。

校門近くに、見慣れない作業服の人がいました。

胸元には、校内放送を入れ替えた会社の名前。

イワナガヒメは、その人を見つけると自分から声をかけました。

作業員が端末を取り出すと、その画面を覗き込みながら何度も質問を重ねます。

調べものをしているだけの光景でしたが、たまたま通りかかった生徒には、放送設備の業者と千歳が何か相談しているように見えました。


「放送の業者とも話してたって。」

「チャイムの?」

「たぶん。」

「先生とも話してたよね。」

最初は別々だった話が。

少しずつ、同じ話になり始めました。


そこへ。

もう一つ加わります。


校舎の裏で。

学校で少し怖がられている上級生が、イワナガヒメの前にいました。


香乃が遠くから見つけて、走ってきます。

「千歳!」

でも。

近づく前に、その上級生の方が先に言いました。

「分かった。そうする。」

イワナガは頷きました。

「ならいい。」

上級生は、それ以上何も言わずに去りました。


香乃が立ち尽くします。

「……何したの?」

「話しただけ。」

「何を?」

「言わない。」

「なんで!?」

「本人の話だから。」


その日の教室では。

もう、噂は最初の形ではありませんでした。

「先生。」

「放送の業者。」

「先輩。」

「チャイムの時間。」

一つずつなら、何でもないかもしれない。

でも。

その真ん中には、全部、千歳がいました。

「やっぱり、千歳が何かやってるんじゃない?」

「何かって?」

「チャイム。」

「でも、そんなことする理由ないじゃん。」


その言葉を待っていたように。

別の声が返しました。

「あるじゃん。」

「何?」

「注目されたいんでしょ。」

教室が静かになりました。


「小さい頃みたいに、また真ん中にいたい。修学旅行でも千歳が倒れて、みんな千歳の話になった。復学した時もそう。でも、もう誰も騒がなくなった。」

「だからチャイム?」

「だって、千歳だけ鳴る時間知ってたじゃん。」

誰かが言いました。


「先生ともつながってる。」

「業者とも。」

「先輩まで言うこと聞いてた。」

事実が、一つずつ置かれていきます。

そこへ、理由が置かれました。

すると。

さっきまで別々だったものが、急に一本につながって見えました。


咲良が立ち上がりました。


「ちーがそんなことするわけないじゃん。」

「……なんで咲良が分かるの?」

「え?」

「修学旅行の前、最後に千歳を誘ったの、咲良でしょ。」

咲良の顔から、言葉が消えました。

「最近も千歳とよく話してるし。」

「それは――」

「咲良も知ってるんじゃないの?」

庇ったはずの咲良まで。

今度は、千歳側の人間として噂の中へ入りました。


香乃がイワナガの机まで来ました。

「ねえ、千歳。」

「何?」

いつもの香乃より、声が低い。

「夜のチャイム。千歳がやってるの?」

イワナガヒメは顔を上げました。

「違うよ。」

「じゃあ、なんで時間が分かったの?」

「まだ分からない。」

「先生とは?」

「話した。」

「業者とも?」

「話した。」

「先輩は?」

「話したよ。」

全部、否定しない。

香乃の後ろで、誰かが小さく言いました。

「ほら。」

イワナガがそちらを見ます。

「何?」

誰も答えません。


その夜も。

誰もいない校舎で、始業チャイムが鳴りました。


翌朝。

イワナガが教室へ入ると、話し声が一度止まりました。

机へ向かう背中を、何人もの目が追います。


もう。

「千歳は何か知っている」ではありませんでした。

誰かが、小さな声で言いました。

「……やっぱり、千歳が黒幕なんじゃん。」


今度は。

誰も笑いませんでした。


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