第3話 隊長
楽しそうな浅見に連れてこられたのは、隊長の執務室だった。
「隊長〜、千鶴を連れてきました〜!」
浅見は敬語ではあるが、フランクに話しかける。
室内には軍服を着た40代の男性、それより少し若いメガネの兵士と、ショートヘアの女性がいた。
「おー、ご苦労。私がここの隊長カナモリだ」
男性が名乗った。
「で、こっちのメガネが副隊長のシノダ」
優しそうな副隊長がヒラヒラと手を振っている。
「そこの女性は管理者のタイラ。彼女は警備隊の者ではないが、一応紹介しておく」
「タイラです。普段は中央にいるんだけどね。たまに隔離地区の様子を見に来るの。よろしくね」
タイラは愛想の良いおばちゃんだった。
「千鶴です、よろしくお願いします!」
敬礼すると、隊長は満足そうに頷く。
「ここのことは浅見に教えてもらうように。浅見、あとは頼んだ」
「は〜い。千鶴行くよー」
俺は間延びした返事を残した浅見と一緒に執務室を出た。
◇◇◇
「んー、じゃあ、今日はとりあえず、建物案内かなー」
浅見は独り言のように話し始める。
「1階は勤務中に使う場所」
先程の隊長室、ミーティングルーム、勤務時間帯の控室、食堂と順番に巡る。
「外から見たより広いな」
「いい所に気付いたね」
俺が言うと、浅見は嬉しそうにする。
「隊長が魔法で拡張してくれたんだ。前は隊長の部屋と食堂しかなかったよ。あ、食堂は勤務時間外も使って良いから」
「わかった。……隊長はすごい魔法使いなのか?」
建物の拡張魔法は、それを仕事にする者もいるくらい難しいものだ。
「そうなんだ!隊長も副隊長もすごいんだよ。外には訓練場があるから、今度、隊長たちの指導を受けるといいよ。」
(それは、少し楽しみだな)
少年兵として訓練を受けた以外、魔法を学ぶ機会はなかった。あとは戦場で見よう見まねで攻撃魔法を覚える程度だったから。
「2階はー、リラックスルームと、風呂と、武器庫。3階より上が寮ね」
はい終わりーと浅見はあっさりと案内を終えた。
「まぁ、しばらくは俺と一緒に行動したらいいよ」
人懐っこい笑みを見せる浅見に、素直に礼を言う。
「助かる。気を付けることはあるか?」
「んー?特には。若い奴らばっかりだし、みんな仲がいいよ。千鶴は何歳?」
「17」
「あ、俺のがお兄さん。19歳。ここはベテランって言っても20代後半だし。そんなに上下関係もないよ。」
「隊長も?」
「隊長は40代だよ!」
「違ぇよ」
誰があんなおっさん20代と間違えるんだ。
「隊長は上下関係、厳しいか?」
「あ、そっち?まあ、敬語は使えって言われるけどー、そんなにかなぁ?あ、でもルールには厳しい」
「ルール?」
「うん。集団生活だから、ルールは守れって。あと、俺たちの仕事は隔離地区の周りの警備だけど、中の奴らとは接触禁止。それくらいかな」
「接触禁止?」
「そう。話しかけるのもダメ。そもそも中の奴らも外との接触禁止らしいから、話しかけてこないけどね」
浅見は大したことないだろ?と笑っているが、俺には初耳なことばかりだ。
そう言えば、さっき紹介された管理者。あの人は何なんだろう。
「管理者は?中の様子を見に来るってことは、あの人は隔離地区に入るのか?」
「ああ、タイラさん?あの人は隔離地区と外を繋ぐのが仕事だからね。中にも入るし、吸血鬼とも話すよ」
隔離地区に入れる。警備隊は接触すら禁止なのに?
「…タイラさんは、吸血鬼なのか?」
思い浮かんだ可能性を口にする。
すると、浅見は首を横に振った。
「あの人は魔法使いだよ。吸血鬼は人間や魔法使いを見ると、吸血衝動が起きるんだ。個体差が大きいらしいけどね。管理者は吸血鬼と接触するから、自衛できる魔法使いか、他種族への吸血衝動を抑えられる吸血鬼がなるんだ」
「…吸血鬼も管理者になれるのか?」
「あー、俺もタイラさんに聞いただけだけど。制度上は可能らしいよ。でも、なかなか条件を満たす吸血鬼がいないんだって」
「条件…」
「そ。吸血衝動が抑えられて、魔法を使えて、外の常識を身に着けてて、成績も良くて…って。求めるものが多すぎだよなぁ。ほとんどの吸血鬼が一生、外に出られないよ」
呆れたように、浅見は息を吐いた。




