第19話 囲い
カエがここへ来てから、2週間が経った。
久しぶりの再会で、まだぎこちない時もあるが、順調に暮らせている。
カエは、新しい仕事に慣れるのに四苦八苦しているようだけど。
寮じゃなくて、このアパートにしておいてよかった……
俺は心底そう思った。中央に戻るとき、当然軍の寮に入れると思っていたが、配属された部は小さい部署で、寮はないと言われた。
別の部署の寮を借りられるよう手配してもいいと部長は言ってくれたが、手間を掛けさせたくなくて結局一人暮らしを始めた。
最初は身の回りのものを整えることも大変で、一人の寂しさもあったが、今はこうして家に帰れば、カエがいてくれる。
「ただいまー」
「おかえり」
そのやり取りだけで、涙が出そうになる。
「はぁ、カエがいる」
幸せをかみしめていると、カエは不思議そうな顔をしていた。
「それより、明日は仕事が休みだから、部屋探しをしようと思うんだけど」
カエはカレンダーを見ながら俺に話しかける。
「あー……」
俺が言い淀んでいると、カエは言った。
「どこで部屋借りられる?」
うーん。まぁ、仲介業者とか、国の借り上げ住宅とか、寮とか。
選択肢はいろいろあるんだろうけど、まだ外に出たばかりのカエにはきっと難しいだろう。俺が付き添って手伝ってもいいけど……
「……もう少し仕事が落ち着いてからでいいんじゃない?」
悩んだ末に、引き留めてしまった。カエはびっくりしたように目を見開いた。
「いいの?」
「カエがいいなら、いいよ」
そう言うと、カエはしばらく考え、
「ありがとう。正直、体力的にもキツイと思ってた。もう少し、慣れてから探すね」
そう微笑んだ。
その笑顔に少し罪悪感を覚えたが、まぁ、もう少し、この幸せに浸かったって許されるだろう。
◇◇◇
それからさらに時間は進み、季節が変わるころ。
「もうそろそろ仕事も慣れてきたし、家を探してきたの」
仕事だけではなく、外の生活にもすっかり慣れたカエは、仲介業者へ行き、引っ越し先の資料をいくつももらってきた。
事前相談もなしに家を探してくるのは想定外だったが。
「どれがいいと思う?場所によって治安とか違うんでしょう?」
「えー…」
俺は物件資料を眺めながら、何気なく尋ねた。
「この家になんか不便あった?」
カエは少し驚いたようにこちらを向いた。
「特に、ないけど…」
「ならここにいれば?」
「え、いいの?迷惑じゃない?」
「迷惑じゃないよ!!俺も一人暮らしだと寂しいし」
「…じゃあ、まだやめておく」
少し間があったが、カエは困ったようにそう言って、資料を片付けた。
◇◇◇
そして1年後。2人で暮らす生活が当たり前になった頃。
「このままずっとお世話になるのは良くないと思って!」
仕事から帰ると、カエがすごい勢いで俺に物件資料を突きつけてきた。
「ここに引っ越そうと思う」
「え!?」
思わぬ行動力に俺は頭を抱えた。
「もう契約したのか?」
「契約はもう少し先。申し込んできた」
胸を張るカエ。
くっ、かわいいのに憎らしいとはこのことか。
俺はカエの手を取り、真剣に見つめる。
柄じゃないが、やるしかねぇ。
「カエ、俺は……、俺が嫌なんだ。誰もいない家に帰るのは」
「……」
ポカンとカエは口を開けて俺を見上げている。
「カエが家を借りたら、今みたいには一緒にいられないだろ?」
カエはしばらく難しい顔をして考え込んでいる。あまりに反応がなく、不安に思い始めた頃。
「じゃあ、ずっとここにいる」
カエはポツリとつぶやいた。
俺はホッとして、思わずカエの額にキスを落とす。カエは驚いたように額に手を当てていた。




