第10話 浅見の忠告
巡回を終え、部屋に戻ると、浅見がいつもより低い声で俺の名を呼んだ。
「ちづ」
「なに?」
俺は着替えようとした手を止めた。
「さっき吸血鬼と話してたよね」
浅見は静かに口を開いた。
「話してねぇよ。見間違いだろ」
しらを切ると、浅見は悲しそうな顔をする。
「ずっと、知ってたんだ。ちづがあの子と接触していること」
俺に質問しているわけではないと気付く。
「……いつから」
「たぶん最初から。でもまぁ、話しているのは短時間だし。あっちも害のなさそうな子だったし。ちづも楽しそうだから、見て見ぬふりしてたんだけど」
想定外の話に、俺は動揺する。
初めてカエと話した頃からずっとバレてた?あんなに気をつけていたのに?
「そうなのか」
「うん。でも、隊長が、ちづにルールを守らせろって。どこまで知ってるのか分からないけど、俺は隊長が気付いてると思う」
「うそだろ?何も言われてねぇ」
「言われたら、処分もんだろ。だから、直接じゃなくて、俺にルールを守らせろって言ったんだと思う。あの人、こんな所にいるけど、すげぇ魔法使いだから」
「……」
隊長は、なぜ俺を泳がしてるんだろう。
考え込んでいると、浅見がため息をついた。
「まぁ、俺は悪いとは思わないよ。この国は平等を目指しているわけだし。隊長もお前をこんなことで処分したくないから、表立って注意しない。ただ、規則は規則。ほかのやつらが知ったら、お前、もうここにはいられないよ」
「……わかってるよ」
分かっている。本当は関わったらダメなことなんて。
空気が重い。
耐えかねて、俺は軽口を叩く。
「……にしても、ずっと覗き見してたのか?趣味わりぃな」
浅見は呆れたようにふっと鼻で笑った。
「お前に言われたくないなー」
「……どういう意味?」
浅見はすべてを見通しているかのように、得意げに言った。
「好きなんだろ?あの吸血鬼が」
「カエのこと?」
考えたことも、なかった。
「……」
「……」
呆然とする俺を、浅見は不思議そうに見ていた。
あぁ、そうか。
だからずっと、規則を破っていたのか。
「え……あー、そうだな」
「……やめとけよ。ろくなことにならねぇんだから」
浅見の、今日一番の真剣な忠告だった。
わかっていたけど、気付いた俺は、やめることができなかった。




