52.公爵との話合い
卒業パーティーの次の日マリーは寮を引き払って、王都を離れた。寮の荷物はすべて異空間に収納した。その後、乗合馬車の乗り場に行って領都ニーゲンブルグ行きの馬車に乗った。王都で買ったドレスもすべてマリーの異空間に入れてある。ついでにマジックバッグも異空間に入れてある。持っているのはダミーのカバン1つである。
乗客は、卒業式の後ということで、同じ学院を卒業した人も何人か乗っている。下級貴族の子女は王都にいるとお金がかかる。卒業後領地へ戻る子女はこの乗合馬車の乗り込んだようだ。
同じような人が何人か乗っていると思うと安心である。1人だと周りの乗客がすべて敵に見えてしまうが、学院の卒業生と思うと安心である。それに、私がニーゲンブルグ公爵に嫁ぐことは知っているようで、寄子の貴族の子女からは「これからもよろしく」と言われた。私も「こちらこそ」と返しておいた。
そうやって知っている人がいると長いはずの旅も短く感じられる。
領都ニーゲンブルグの乗合馬車の駅を降りると、前回と同様父と母と兄夫婦が待っていた。前回同様父と兄はやつれているように見えた。魔獣討伐が大変なようだ。とりあえず宿に行った。
宿のへ行くと、父と母から
「すまない。マリー1人に迷惑をかけて」
と言われた。私としては納得済みだったので
「そんな事はないよ、私はジゲンハルト領が好きだし、領民も大好き。そんな人たちが幸せになれるなら私は本望よ」
「そう言ってもらえると助かる。困ったことがあったら何でも言ってこい。力になれるかどうかは分からないが努力はする」
「そうだね、うちは貧乏だし、何もできないかもしれないね。でも相談ぐらいはするね」
「そうしてくれ」
「それと結婚式で着るドレスは用意できたの」
「出来たよ。王都の服飾工房で作ってもらった」
「そうなの、何から何までマリー1人にやらせて、不甲斐ない母を許して」
「許すも何も、うちにお金はないし、それに服も王都で作った方が立派なものが出来るから。それでよかったのだよ。私はポーション工房でアルバイトしていたからお金はあったし」
次の日宿を出て、式の会場である公爵邸へ行った。公爵邸へ行くと、公爵様が「私に話がしたい」というので公爵様の執務室に行った。すると、公爵様は「私だけに話をしたい」と言うので、両親と兄夫婦には退室してもらった。公爵様は公爵家で働く執事やメイドも遠ざけて部屋には私と公爵様の2人きりとなった。
「すまない」
いきなり公爵様が頭を下げてきた。訳が分からない。ポカンとしていたら
「私は今朝、結婚の約束した人がいるのを思い出した。今更結婚式を取りやめるわけにもいかないし、結婚式はこのまま進める。そしてマリー殿を妻にする。しかし、その人が見つかったらその人を第2夫人にすることを了解してほしい」
いきなり、他に好きな人がいると言われても困る。もう公爵家に嫁ぐ気になっているので、梯子を外されたような気分である。しかし、私が第1夫人になるのは変わらないようである。こんな脂ぎった豚のような人の妻が私一人で務まるはずがないので、第2夫人を取ると言われても納得である。
「わかりました。第2夫人を取ることは了承します。私は第1夫人でいいのですね。そして私の産んだ子がこの公爵家を継ぐことも変わらないのですよね」
「それはもちろんだ。マリー殿が第1夫人で、マリー殿の産んだ子供がこの公爵家を継ぐのも変わらない。それは確約する」
「それならいいです。それで、その結婚を約束した人はどこにいるのですか」
「それが分からない」
「分からないとはどういうことですか」
「分からないのだ、そもそも名前も知らない。いるかいないかもわからない」
そう言って、公爵は、黙ってしまった。
下を向いているのでよくわからないが、涙をこらえているようにも思う。これではまるで私が悪役令嬢じゃない。何となく公爵が可愛そうになった。まるで前世の広がそこにいるような気がしてくる。
「何でもいいです、手掛かりになるようなことはないのですか、私も協力しますよ」
「ありがとう、マリーさんはやさしいな、まるで知世みたいだ」
私は「知世」の言葉にすぐに反応した。
「ひょっとして公爵様は広?」
すると下を向いていた公爵様はすぐに顔を上げて私を見た。そして
「マリーさんは知世なのか」
「そうよ私は知世、公爵様は広なのですね」
「そうだ、俺は広。よかったやっと会えた」
そう言って、公爵様は私に抱き着こうとしたが、お腹が目の前のテーブルにつかえて動けなかった。
「広、太りすぎ。もっと痩せたら」
「仕方ないだろう。広の記憶を取り戻したのは今朝なのだから。痩せる暇なんてないよ」
「そうね。やっと広と結婚できるのね。私幸せ。神様に感謝だわ」
「そうだね、俺も幸せだ。やっと知世と結婚できる」
そうやって、2人は式の会場に向かうのだった。




