49.交錯する思いと王都の魔獣騒ぎ
マリーはその後一旦男爵領に戻った。久しぶりの我が家は温かかった。母と兄嫁が心配してくれたが、涙は見せられない。親子ほど年の離れた相手であっても相手は公爵、貧乏男爵家の令嬢が嫁ぐのであれば目出たいことだ。
「自分で決めたことだから、心配しなくてもいい」
と強がってみせた。
しかし、夜布団の中に入ると
「広ごめんね。これで私は広との約束、守れなくなっちゃった。でも、私の家族と領民を天秤にかけた時、やっぱり家族は捨てられなかった。どこにいるのか分からないけど、こんな私を許してね」
そう心の中でつぶやいた。
布団の中で目をつぶっていると、広のことが思い出された。笑っている広、泣いている広、怒っている広、みんな私の大切な思い出。そうやって、広のことを思い出していくと、今日も急に頭が痛くなった。どうして広の思い出を追って行くと最後は頭が痛くなるのか分からない。
以前見た自分の葬儀の夢と関係しているのではないかと思うが、明確な答えはない。
次の日起きると、父と何はもう魔獣退治出た後だった。母からは今日ぐらいゆっくりしたらと言われて、母と兄嫁と過ごすことにした。
母に嫁入り衣装のことを聞かれたが、男爵家に金がないことを知っているマリーは
「自分で何とかするからいらない」
と断った。すると母が涙を流して
「ごめんね」
と言った。
それからしばらくして、マリーは王都に戻った。そしてまたいつもの平日は寮と教室の往復、休日はポーション工房といういつもの日常に戻った。
しばらくするとマリーがニーゲンブルグ公爵と婚約したことが知れ渡った。公爵がどこかのパーティーで喋ったようだ。これについては公爵夫人となるということで最初はうらやましがられたが、公爵が2度結婚していることと公爵の容姿が豚のようだということが知れ渡ると同情半分となった。
しかし、ニーゲンブルグ公爵の寄子の貴族の子女からは丁寧に接してもらえるようになった。特に伯爵令嬢のエリーザ様はこれまでは私が男爵令嬢ということであごで使われていたが、婚約を知ってからは逆に何かしましょうかと言われる始末である。
その後マリーはエルザがアルバイトしている服飾工房で、結婚式の衣装と差し当たって持っていく衣装を注文した。どうせ貧乏男爵家、衣装は最低限でいいだろうと思った。
その後、期末試験になった。結果はこれまでと同じ5位だった。
期末休暇は短いので実家には戻らずにポーション工房でのアルバイトに明け暮れた。工房のおばあさんから「ポーションの注文が殺到して手が回らない」と泣きつかれたからである。お金も欲しかったので、ちょうどよかった。
そんな時また、王都のダンジョンから魔獣があふれ出てきた。王都の騎士団弱すぎる。今回は早期に周辺の騎士団に依頼して増援を送り込んだことで、スタンピードは防げたようである。
しかし、王都で夜に引き裂かれた人の死体が発見されることが起こった。明らかに魔獣に襲われた跡である。最初は飲み屋街で朝、人が殺されているのが発見されたのであるが、それが連続して起こった。そこで王宮は夜の外出を禁止した。
すると今度は平民の一家が惨殺されているのが発見された。原因は殺された人の状況から魔獣の仕業と思われたが、どんな魔獣かまでは分からなかった。そしてついに貴族の屋敷が襲われた。そこでは護衛の従士もいたので魔獣との戦闘になった。魔獣はバッタの群れであった。やっとの思いで撃退したが、従士の半数が死亡するという結果となった。
夜にバッタが王都を飛び回り人を襲っているのである。これまでの常識ではバッタは昼行性のはず、それが夜に徘徊して人襲うのである。では昼間はどうしているのかそれも不思議である。
対策はどうするのか、空を飛ぶということはどこが襲われても不思議でない。王宮も頭を抱えるばかりで有効な対策を打ち出せない。襲われたら騎士団が駆けつけるまで自分で防ぐしかないのである。貴族は冒険者を雇うことで対応したようだが、平民は無理である。何軒で集まって、地下室のある家で過ごすようになった。
寮はどうするのか。寮に地下室はない。結局男子も女子も一か所に集まって交代で夜間、警備することになった。




