48.領地の災害とマリーの婚約
その年の秋、フロデント王国は今度は各地で水害に見舞われた。魔獣被害で各地の領主が魔獣対策に気を取られている間に今度は水害である。各地で河川が氾濫して大きな被害を受けた。特に王国北部の低湿地帯では溢れた水が中々引かず、被害も大きくなった。
マリーの領地は南の方で河川の上流に当たる。そのため、山際の集落は被害があったが、それ以外の集落は被害がなかった。河川の氾濫もなった。
しかし、北側の領地境を流れる川の橋が流されたとのことである。この橋がないと他領との行き来が出来ない。とりあえず応急的に渡し船で人や荷物を運んでいるそうだ。
渡し舟では不便なので、橋を架けたいが橋を架けるとなると膨大な費用がかかる。今の疲弊したジゲンハルト男爵家では難しいとのことである。
そこで領主である父は川に橋を架けるための援助を寄り親であるニーゲンブルグ公爵家にお願いに行った。すると、「娘を連れてこい。娘を見て考える」と言われたそうである。
それで、年末の休暇にあわせて、領都ニーゲンブルグで待ち合わせて一緒に公爵家を訪問することになった。領都ニーゲンブルグの乗合馬車の駅を降りると父と兄が待っていた。久しぶりに会う父と兄はやつれているように見えた。詳しい話は宿に行ってからということで宿に行った。
宿は領都の大通りから少し入ったところだった。宿に入って、食事をしてから部屋に入った。すると父がいきなり
「すまない」
と謝ってきた。
私がきょとんとしていると
「ニーゲンブルグ公爵家は最初の妻とは離婚した。2回目の妻は昨年病気で亡くなった。子供はいない。最近は後妻を探していると聞いた。年は俺くらいだ。たぶんマリーを後妻にと考えているのだと思う。マリーの初婚の相手が、父親と同じくらいの年の男だと思うと俺は情けない。嫌なら断ってもいいが」
これを聞いて、マリーは今回呼ばれた訳が分かった。
「断ってもいいの。そうしたら橋はどうなるの」
「橋はかけられない。男爵家では橋の費用を工面するのは無理だ。今は男爵家で渡し船の費用を負担しているが、かなりの出費だ。いつまで続けられるか分からない。しかし、それが無くなると男爵領に人が来なくなる。商人が来なくなったら、男爵家はつぶれる」
これを聞いてマリーの結論は決まった。男爵家と男爵領で暮らす人々を守るため、マリーにはこの結婚を受けることにした。断るという選択肢はない。そんな事をすれば男爵領の人々が暮らしていけなくなる。領地に戻ったときのあの暖かい笑顔が見られなくなるのは嫌だ。
「お父さん、気にしなくていいわ。私、公爵者に見初められたら、公爵様のところへ嫁ぐわ。それに私を見て、私を気に入らないかもしれないじゃないの。でもそうなると、橋は架けられなくなるのね。それもこまるわね」
そう言うと父と兄が笑った。
「マリーは美人だから、公爵様もきっと気に入るさ」
その夜は親子3人並んで寝た。布団に入って寝ながら領地のことを聞いた。領地では相変わらず魔獣が出てくるそうだ。そして、その討伐に父と兄それに男爵家の従士が明け暮れているそうだ。水害の方は山沿いの被害を受けた集落の大体のめどがついたそうだ。
次の日私たち3人は公爵邸を訪れた。門番に挨拶すると、公爵様がお待ちとのことで客間に通された。
客間に入ると、公爵様がソファーに座っていた。私たちが挨拶すると、公爵様は私の体を上から下まで目で追った。そして、満足そうにうなずくと
「遠路はるばる来られた。かけたまえ」
私たちは公爵の前のソファーに座った。
公爵様の年齢は父と同じくらい。しかし体形は父がすらりとしているのに対して、公爵様はお腹が出ている。運動もしていないようで、体のぜい肉が目立つ。顔はたぶん元は美形だったのだろうが、付いた贅肉が邪魔をしてお世辞にもいい男とはいいがたい。
「マリーさんだかな。今は学院に通っているようだが、学院はどうだね」
「学院は昨年の魔獣騒ぎ以来、実践重視になりました。魔獣と戦える生徒を育成するということで、剣術や魔術の実技の時間が増えました」
「マリーさんは優秀と聞いているのだが。成績は何番だね」
「前回の試験は学年5位です」
「そうか。優秀だね」
そこで、公爵様はしばらく考えた後
「男爵家から要望のあった橋の架橋の援助だが、マリーさんが儂の後妻に来るなら援助する」
こちらが男爵家で断れないのをいいことにストレートに聞いてきた。こちらも腹をくくるしかない。
父が何か言おうとしたが、私は父を制して
「公爵様が援助してくださるなら私は嫁に行きます。ただし、今は学院の3年生なので来年の夏に学院を卒業してからということでいいですか」
「そうだな、いいだろう。14歳では成人していないので、王宮の許可が得られない。学院の中途退学というのも問題がある。とりあえず、婚約、それでいいのだな」
「はい、それで結構です」
こうしてマリーの結婚が決まった。学院卒業後すぐに公爵家へ嫁に行くことになった。




