47.広の夢と3年生に進級
その夜マリーは夢を見た。広が私を見て泣いている。他にもたくさんの人がいる。みんな黒い服を着ている。ああこれ葬式の風景だ。私が死んだという祠の言葉が、私にこんな夢を見せているのだろうか。
確かに前世の記憶を持って今世に生まれ変わったのだから、前世では死んでいるのは理解できる。ならなぜ私はこんな夢を見ているのだろうか。
それにこの夢はリアルすぎる。まるで現実に起こっているようにも感じられる。もし前世で死んでその1日しか経過していなとしたら、まだ広は前世で生きているわけだし、今世にはまだ来ていないのかもしれない。
それと前世と今世で時間の進み方が違っているとしたら、私が今世で過ごしてきた14年間は前世ではまだほんの1日しか経過していないのかもしれない。
でも不思議である。だとしたらまだ私の魂は前世にあるのだろうか。分からないことばかりだ。もし私の魂が完全に今世に来ているとしたらこの夢も前世の記憶なのだろうか。
でもそんなことより、今は久しぶりに見た広の顔をよく見ていたい。最近は広の夢をあまり見ないので忘れかけていた。だからもっと広の顔を見ていたい。
それから蓋が閉められた。もう広の顔が見えない。そして、真っ暗になった。すると私の体が、宙に浮くのが感じられた。そして、今度は部屋の上の方から見ている。あれはやっぱり私の体だ。でももうそれがだんだん小さくなっていく。
そこで私は夢から覚めた。私は寮のベッドの上に居た。近くのベッドにはアンナ、ディアナ、エルザが眠っている。まだ夜中のようだ。
先ほどの夢の続きを見たくてまた寝た。すると今度は中年のへたれたおっさんになっていた。さっきの夢を返してと思ったが、夢は私の願いを無視して進んで行った。
その中年のおっさんの中から私は周りを見ているが、おっさんは私の存在に気づいていないようだ。目の間に講師がいる。管理職の心得、
「管理職は部下の行動を把握し問題が起きそうなときはそれに対処しなければならない。しかし、個人の尊厳は尊重されなければならない。むやみにこちらから個人情報を聞くことはパワハラに当たる」
なんか難しい講習だ。訳が分からない。ああこの人も訳が分からないようだ。次の日その人は定年までの日数を数え始めた。昨日の講習は難しすぎて考えることをやめたようだ。
次の場面ではおっさんは上司から怒られている。部下の行動を把握しなかった上司が悪いと言われている。すると今度はおっさんは定年までの出勤日数を数えている。完全にやる気を無くしている。これが中間管理職の悲哀であろうか。このおっさん定年まで勤められるのだろうか。無茶苦茶可哀そうになってくる。
そこで夢が覚めた。先ほどの夢は全くの無駄だ。怒られる夢なんて見たくない。私は広の夢が見たいのだ。神様次は広の夢が見られますように。そう祈って私はまた寝た。
すると今度は私は子供になっていた。小学生、いや幼稚園児、たぶんそれくらいの年齢。そして周りがすべて大人に見える。私の隣には同じくらいの男の子がいる。私はこの子がすぐに広だと思った。
私が妻役で広が夫役、私の見たかった夢そのものだ。私はうれしくなった。でも本当はおままごとでなく、大きくなって結婚した夢を見たかったのだけど、贅沢は言っていられない。私はこの夢を堪能することにした。
広にもたれかかって、甘い言葉をささやく、広がそれに答えて、「知世は甘えん坊だね」と言う。うんこんな感じ。こんな夢が見たかった。
でもこの夢おかしい。先へ進まない。さっきから全く場面が変化しない。私が広に甘い言葉をささやいて、広が「知世は甘えん坊だね」と言う、それが繰り返されるだけ。そのうち「ブチッ」という音がして場面が真っ暗になった。この夢どうなっているの、まるで壊れたビデオみたい。
昨晩はいろいろ悪夢を見たようで、朝私は起きるとびっしょり汗をかいていた。エルザが
「昨日の夜は私が随分うなされていた」
と言っていた。
広の夢を見るのも楽じゃないと思った。
新学期になった。マリーは三年生になった。学院も後1年である。学院卒業後の進路は何も決まっていない。このまま広に会えないまま誰かのところに嫁ぐのか。それとも違った人生が待っているのか。できれば祠に会って、そのあたりも聞きたかったが、相変わらず祠には会えない。そうやって日々が過ぎていく。ただ祠が言っていた「死ぬなよ」という言葉だけが気になる。




