35.魔獣のスタンピードと王都防衛1
学長の指揮の下、マリーたちは王都の南側の城壁に行った。すでに市民の有志も来ていたが、市民の有志は数や力量がよく分からない、受付で名前と職業と剣や魔法の腕を書いてもらい、それをもとに王宮の官吏が適当に配置を告げている。
しかし、彼らが役に立つのか、それとも足手まといになるのか、とにかくやってみないと分からない。こんな未知数な兵は出来れば王都の北側を守る王宮の官吏の兵に混ぜてほしかった。それが偽らざる思いである。
学長もそんな市民兵を私たち学院生と一緒に指揮して果たして大丈夫なのだろうか。不安は尽きない。
とにかくここは我が身の命大事、それを優先することにした。具合が悪くなっても市民兵は無視する。そうしないと私の命が無くなる。ある意味冷めたマリーであった。
どこか前世のゲームを思い出してしまう。しかし、これはゲームとは違う。死んだらリセットしてのやり直しは出来ないのだ。もし死んだらもう家族とも会えない。
それから私の配置が決まった。私は城壁の真上でなく、そこに弓矢や補給物資を運ぶ役である。私は生活魔法なので、城壁の上からでは魔獣を攻撃できない。剣と槍の腕は優れているが、学院では弓矢の訓練はしていないので、私もやったことがない。
つまり私は城壁の下の魔獣を攻撃することはできない。無難な配置である。この役には攻撃魔法が不得意な女子生徒が多いようである。また市民も多く回されている。学長が良識人でよかったと思った。
これに対して城壁の上の男子は大変である。若し魔獣が魔法を放ってきたら直接対処しなければならないのである。悲壮感が漂ってくる。
私たちが配置に着いたその日は何も無かった。夕方になって、そこで夕食を取った。寝るのも交代交代である。次の日の朝、王都の東の方から魔獣の声や歓声が聞こえる。どうも魔獣が王都の東の城壁に押し寄せたようである。
このまま、魔獣の氾濫が王都の東の城壁だけで済めば私たちは何もしなくてもいい。卒業資格と金貨何枚かを有難く頂戴するだけである。
そう思っていたのだけれど次の日の朝魔獣がマリーたちの守る南側の城壁にも押し寄せた。城壁の上まで弓矢を持っていった時に見ていたが、城壁の上の学院生は詠唱をしていた。確かに城壁の上からだと魔獣との距離があるので、詠唱をしている時間はあるので理屈はあっている。
しかし、まあ何ともどかしいことか。しかし、ここは自重である。私は生活魔法しか使えない。私の能力を見せるわけにはいかない。それにいざとなればここを指揮している学院長が何とかするだろう。
それに王都にいる貴族が、ここの防衛にあまり参加していないのも気になる。いざというときはここを放棄するつもりかもしれない。
最終的には王城の防御、それを視野に入れている可能性は十分ある。そうでなければ東側の次に魔獣が押し寄せるであろう南側に市民と学院生の義勇軍を配置したのもうなずける。
その日は夕方まで魔獣が押し寄せた。夕闇が迫るころ一旦魔獣の襲撃は治まった。この世界の魔獣は夜行性ではないのだろうか。よくわからない。しかしまあ、いったん治まったので休憩する時間はある。私たちは城壁の上にいる男子に食料を持って行った。
次の日はまた、朝から魔獣が襲撃してきた。私たちはただ上の指示に従うだけである。「これをあっちに持って行け」と言われればそれに従うだけ。その日は押し寄せる魔獣の数が多い。城壁の上に入る男子学生も疲弊気味である。
すると1匹の魔獣が城壁の上に登ってきた。魔獣の背には小さな羽があった。長くは飛べないけど、城壁に上がるぐらいはできるようだった。男子学生は詠唱しているので間に合いそうもない。私は剣を抜いて魔獣を倒した。
その後も、そのような羽のある魔獣が城壁の上に登ってきた。私は近くの魔獣は倒したが、すべてをカバーできるわけもない。
魔獣が近くに来ると無詠唱で攻撃魔法を放つか、剣で対応するしかないが、弓矢を配っている女子学生でまともに剣を使えるのは私ぐらい。
当然城壁の一角が魔獣に占領された。学院の教師が応援に駆け付けたが間に合わなかった。そこに幾多の魔獣が押し寄せてくる。
私たちはすぐに後方に引くように指示された。やはりここは放棄するようである。その後私たちは、王都を南北に分けるフロデント川の橋のところまで来た。そして橋を渡って川西に避難した。
王都の東側の防衛も崩れたようで、川の東側の地域に住む住民が大勢、川の西側に避難している。




