7 無力
午前二時
昼間とは違い夜は静寂に包まれていた。
自分の心臓の鼓動が静寂をかき消していた。
(落ち着け、幸い警備はザルだ。音を出さずに行けば。)
牢屋の周りを見渡しても驚くほど人がいない。
(まぁ町全体が檻みたいなもんだからな。)
そして寝ている彼女を起こしに行った。
「起きて、起きてください。一緒に逃げますよ。」
彼女は眠たそうな目でこちらを見つめてくる。
(頼む、早くしてくれぇ。)
「な、に?」
「脱獄ですよ、脱獄。町という名のね。」
「え?」
一瞬にして彼女の目が覚めた。逃げることを想定していなかったのだろう。
「さぁスキルで檻を破ってください。」
「え?は?ちょっとまって、どういうこと?」
「まぁとりあえず行きましょう。」
(いきなり脱獄はハードルが高かったか?いやでもこの機会は滅多にない。。逃げられるうちに逃げなきゃ。)
状況を理解したのか、彼女の顔はなぜか楽しそうな顔に代わっていった。
(なぜ笑顔なのか理解できないが乗り気になってくれたのはいいことだ。)
「まかせて」
スキル発動:『ヴァイン・デトネーション』
夜の静寂を破るような爆発音とともに、檻が蔓によって破壊された。
(うるさっ。もうちょっと静かにできなかったのかよ。)
「ふふ、ごめん。」
家の明かりがつきだした。
(ごめんで済ませれねぇ。)
「何してんですか、逃げますよ!」
「ああ、行こう。」
俺たちは町の外に向かって走り出した。
「おいおい、なんだ。」「見ろ!死刑囚が逃げ出しているぞ。」「捕まえろ、捕まえろ!」
「大変なことになったわね。」
「そんな軽く言わないでください!」
俺は顔がぐしゃぐしゃでよく前が見えなかったがとりあえず走り続けた。
「まずいわね、私の手を握って。」
「え?あ、はい。」
(柔らけぇ。)
スキル発動:『ライド・オン・ルーツ』
地面から木の根っこが生えてきた。
(まじかよ、これに乗るのかよぉぉぉぉ!)
手を握ってくれているが一歩踏み外すと落ちてしまいそうだ。
「どう?」
「落ちそうです。」
「楽しそうでよかった。」
(くそ。クールなキャラだと思っていたがこいつもイかれた野郎だ。)
そのまま根に乗って町を抜けた。
そして全力で走った。
どれくらい走っただろうか、もう町が見えないくらいは。
俺たちは近くの森で休息をとることにした。
(疲れるし、怖いし。エルフってやっぱおかしいんだな。)
「何とか、逃げ切れましたね。」
「ねぇ、この後考えてる?」
「...」
(ん、うん。まぁとりあえず逃げ切ったし、ねぇ。)
何も考えていない。それが俺である。
「え、えぇと、僕の国に知り合いがいるのでそこに行きましょう。」
「いいわね、行きましょう」
(完璧すぎる。さすが俺。)
「ちなみに、行き方は?」
(ここどこだ?森なのはわかっているが。詰んだか?)
「とりあえず森を出ましょう。話はそれからです。」
「うまくそらしたね。」
(バレてる~)
「私、初めて町を出たんだ。だからやりたいこといっぱいある。」
「何をしたいんですか?」
「そうね、まずはご飯かな。最近はおいしくないご飯ばかり食べさせられていたし。」
(そうだった、こいつ死刑囚だった。)
森の不自然に木々たちが揺れている。
今日は風がとても強い。
「ほかには何がしたいですか?」
「そうね、王都に限った話じゃないけどいろんなところに旅をしたいわね。」
「今まさに僕がやっていることですよ。」
「あら、だからエルフの町にきたのね。珍しいと思っていたけど。」
「もっとタイミングを選ぶべきでしたね。」
「いやベストタイミングだったわよ。」
「は?何言っているんですか。」
「はぁ、駄目ね。まったく。」
(また機嫌を損ねてしまった。何がいけなかったんだ?もうご飯はないし。)
機嫌を直す方法を模索したが何も出てこなかった。
だから直接聞いてみた。百聞は一見に如かず。
「何がいけなかったんですか?」
「そういうものは聞くべきじゃないのよ。」
「はぁ。頭に入れときます。」
(まったくよくわからない。)
しばらく歩いていると、開けた場所に出た。
「いったん休憩しましょう。」
「そうね随分と歩き続けたから。」
(腹が減った。)
我慢しようと思ったが、体は正直に腹から音が鳴ってしまった。
「ご飯が食べたいのね。私は植物に詳しいから探してみる。」
「詳しいんですか?」
「ええ、エルフはみんな習うわよ。たとえb」
"バンッ"
どこからか銃声が聞こえた。
(銃声、近いな。どこだ、は?)
目に映るのは胸を打たれた彼女の姿。
そして木の陰からは何人もの兵士の姿が見えた。
表情はとても明るかった。
「やったぞ!」「死刑囚を殺したぞ!」「報酬はいくらだろう、フフフ。」
倒れる彼女の姿をだれ一人見向きもしなかった。
「だ、大丈夫ですか!」
「は、はは。打たれちゃっ、たわ。あなたの心を、射止める、前に、ね。」
「な、に、冗談言ってるんですか。自分の体を治すスキルぐらいあるでしょう?」
「しゅう、とく、し忘れ、た、わ。馬鹿ね、ほ、んと、うに。」
彼女の体から血が流れるのを止めない。
「そう、いえば、名前言うの、忘れて、いた、わ。」
「いいです、もういいですから!」
「わたし、は、アネモネ。よろ、し、く、ね。」
「アネモネ、さ、ん。」
「最後に、あなたと、会えて、よ、か...。」
兵士の雑音とともに彼女は息を引き取った。
(あぁ、ああぁ、ああああぁ)
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
もう前が見えない、後ろも、右も、左も。
もう音が聞こえない。
何も感じない。前にあるのは暗闇だけ。
命を賭けた相手が、
少しは気になっていた相手が
死んだ
彼の精神は崩壊した。
スキル発動(自動):『封印』
「殺す、イかれた狂人どもめ。」
本来こいつはこの『封印』というスキルを解除しているはずだった
解除の条件は■■■■■■■■■■■■■
しかしこいつはその条件を三度も逃している。
正確に言えば逃した。
しかし今回の場合は違う。
自らその条件を受け入れようとした。
そしてその条件を満たす前にアネモネが死んでしまった。
封印の隠し効果はいままで少しずつ発動していたが、
今回アネモネの死も関係して大きく発動してしまった。
さらに、本来はあり得ないはずの封印を解いた後のスキルも発動してしまった。
なぜって、だって、想定外の死が発生してしまったからだ。
この声がなんだって?こいつの心に話しかけていたのさ。
俺がだれかって?うーむ、なんだろうな?
サポート的な、今までの中で都合がよすぎる場面がいくつかあっただろう。
そういうことだ。今後のこいつの行動に期待だな。バイバイ。
スキル発動 スキル発動 スキル発動 スキル発動 スキル発動
スキル発動
スキル発動 スキル発動 スキル発動
スキル発動 スキル発動 スキル発動
スキル発動
スキル発動 スキル発動 スキル発動 スキル発動
スキル発動 スキル発動
スキル発動 スキル発動 スキル発動
スキル発動 スキル発動 スキル発動 スキル発動
本来、彼が使えるはずの大量のスキルが暴発した。
森、いやそれ以上に周りを無尽蔵に破壊の限りを尽くした。
それと同時に『封印』の隠し効果も発動した。
何が起こったのか、本人は理解していないが。
(あぁ、ああ、ああぁ)
悲鳴すら聞こえなかった。
気づけば周りの兵士どころか、森全体が無くなっていた。
いや彼は気づいていないだろう。
何時間経たっただろうか。もう分からない。
彼の精神は崩壊してしまった。
ただ一つ、残っていたもの、それはアネモネとの会話「王都へ向かう」。
スキル発動:ドレクション
たった今、その約束を果たすべく王都へと向かっていった。
うーむ、辛いね。




