52 逃避
懐かしいものばかりだった。
久々の王都の光景。
「わぁ~、すごいね。」
ヒナが感嘆していた。
まぁ、あまり見る光景じゃないだろうから自然な反応か。
(なんか自分がきもいな。)
最初から知っている感を出しているっていうか。
なんというか。
「私、映画でしかこういう光景見たことなかったから。」
「そうか。」
「ねぇ、私いろんなところ回りたい!」
(活発だな。)
後半に行くにつれて暗くなっていくんだろうな。
その方が楽ではあるけど。
「そうっすか、どこに行きたいんですか?」
「私知っているよ。エルフっていうのがあるんでしょ。」
(エルフねぇ。)
果たして事象は回避できるのか。
死という名の事象を。
「ごめん、その前にいくつか見たい場所がある。」
「え、異世界に来たばっかなのに行きたい場所があるの?」
(あなたもエルフの場所に行きたいって言いましたよね?)
俺のちょっとの融通ぐらいきかせてくれ。
俺が向かったのはあの路地裏。
初めて彼女と会った場所。
「ちょ、どこに行くの?」
「路地裏に。」
「え、路地裏?なんでそこにいくの?」
「ちょっとね、興味本位に。」
ほんと、興味本位に。
相変わらず陰気くさい場所だった。
鉄のにおいが鼻につく。
「ちょ、ここに何があるっていうの?」
「まぁ、そのうち。」
奥まで入り込むと男が一人、奴隷たちを監視していた。
「お、お客様?」
「ああ。」
「ど、どうぞご覧になってください。」
入ってくることを想定していなかったのか動揺していた。
檻の中には女性たちが乱雑に閉じ込められていた。
虚ろな目でこちらを見つめる。
希望なんてない、と言っている風に見えた。
「ねぇ、ちょっと。」
「なんだ?」
小声でヒナが話しかけてきた。
「これって奴隷?まずくない?」
「そうですね。」
「そうですねって、かわいそうだよあの子たち。」
「そうっすか。」
「うん。」
世界は残酷だ。
上がいれば当然下がいる。
弱者は淘汰されるんだ。
ただ奴隷の大多数が攫われてきたやつだと思うけど。
「おい、奴隷商人!この『イグサ』って子買う。」
「そ、そうですか。お買い上げありがとうございます。」
男が檻の中からイグサを出した。
他の者はスキを見て逃げよう、となんてしなかった。
(哀れな。)
心が擦切っているんだろう。
「あ、ありがとうございました。」
「ああ。行くぞイグサ。」
「___うん。」
そのままイグサを連れて裏路地を抜けた。
ヒナの表情は微妙な感じだったが。
「ちょ、まってよ。この子なに?」
「いや、ただの人助けだ。」
「人助けって、どうするのこの子?」
(フレンに届ける。)
前にラプシカに行くときここで馬車に乗った。
だから馬車乗り場にフレンがいるはずだ。
彼女もイグサを買うために仕事をしていたって言っていたし。
(なんか、苦労っていうかなんというか。達成感がない。)
一週目はいろいろあった。
それは他人のためにやっていることが多かった。
でも今回は自分のために尽くしたい。
「えっと、こんにちは?私、草間ヒナっていうの。よろしくね。」
「うん、私、イグサ。」
少し戸惑っている。
無理もない。
知らない人にいきなり買われたんだから。
「イグサちゃんっていうのね。」
「うん。あの、えっと、私、知っている。」
「うん?なにを?」
ちなみにヒナ、歳、同じくらいだぞ。
少し幼く見えるけど。
「男の人、私、知っている。会った、どこかで。」
「え?そうなの?多分違う人じゃないかな。そうだよね■■?」
「.........」
(魂は、時間を超える。)
転移者(俺を除く)はあの時すでに地球へ戻っていた。
だけどイグサは異世界人。
魂にはスキルや記憶が刻まれている。
だから俺のことを。
でも時を超えたとき、その時のスキルや記憶は不完全なものになる。
「ちょ、どうしたの?ほんとに会ったことがあるの?」
「イグサ、俺を知っているのか。」
「うん、でも思い出せない。」
「そうか。」
(いい、このまままで。)
変なことを思い出させると、辛い思いをしそうだから。
「俺たちは馬車乗り場に向かう。」
「え、ちょ、もう行くの?」
「いや、確認だけだよ。どれくらいかかるかのね。」
「あ、うん、わかった。」
(これで都合よくいけば。)
フレンに合わせることができる。
「行こうか。」
「うん。」
馬車乗り場へ歩きだした。
街中に変わった様子は感じられなかった。
ボロいとは感じたけど。
「イグサ、一つ聞きたことがあるんだ。」
「うん、なに。」
「勇気、ってなんだと思う?」
「勇気。」
(少しでも、答えに近づければいいが。)
「私、分からない。」
「そうか。」
「でも、分かる。」
(?)
「なんとなく。誰か、信じること。」
「それは勇気なのか?」
「うん、信じること、難しいから。」
(人を信じるってことは自分の身を預けるってことか。)
「ありがとう。」
「うん。」
そのままの流れで馬車乗り場についた。
今日は珍しく人数が多かった。
「あの。」
「うん?どうした坊主?」
「ここに、彼女と似ている御者はいますか?結構冷たい感じの。」
「ああ、いるが。」
「今日いますか?」
「いるぞ、端っこにだけどな。」
「ありがとうございます。」
おっさんの言葉通り端っこにポツンと立っていた。
クールぶっていた。
「あの。」
「....なに?」
「あなたの名前は?」
「いきなりなに?そういう誘い?」
「お、お姉ちゃん?」
イグサが一歩前に出てきた。
そしてフレンに向かって抱き着きに行った。
「お姉ちゃん!」
「え、なに?え!い、イグサ?」
「うん。」
イグサと分かった瞬間彼女の顔が明るくなった。
(これでいい。)
変にラプシカに戻らせる必要はない。
これでもう出会うことはないだろう。
「ちょ、これなに?わかってここに来たの?」
「全く、偶然だよ。」
(もうちょっと自重しないといつかバレるぞ。)
どうも動きづらくなりそう。
めんどい。
こいつおいていくか?なんてね。
「さっ、戻ろう。」
「え、いいの?。あのままにして。」
「ああ、姉妹の感動の再会に、水を差さない方がいいと思うぞ。」
「ま、そうだね。」
感動の再会を後に、馬車乗り場を出た。
「ねぇ、どうして勇気に関して聞いたの?」
「ああ、それはっすね。」
「自分の名前に入っているから?」
「いや、俺の勝手な目標かな。」
「目標?」
(そう、俺の解放条件のためにね。)
「異世界人との価値観の違いについて知りたくてね。」
「ふーん、変わったことするんだね。」
「俺はもともと変わっている。」
「自分で言うんだ。」
「ああ。」
(あなたも一応俺の幼馴染なんだから感じてくれ。)
まぁ俺はヒナのことなんて一ミリも覚えていないけど。
そうしてまた歩き出した。




