53 沿う
まだ明るい。
太陽が俺たちの顔を照らしている。
日が落ちるまで時間がありそうだ。
「エルフのところに行くまでに、王都で見てみたいとこはありますか?」
「え、そうだね。いろんなところ見て回りたいけど。」
「いろんなところ、ですか?」
「そう、いろんなところ行きたいけど、私ばっかりわがまま言うのもあれかなって。」
気を使ってくれるのか。
「そうだな。」
(俺の行きたいところか。)
図書館に行ってあのスキル本を回収したい。
あと武器屋に行ってライフルを買いたい。
あとは___これぐらいか。
「今使えるスキルはなんだ?」
「えっとね、『ヒール』と『ホーリー・シャイン・レーザー』っていうのがある。」
(殺人光線はデフォなのかよ。)
殺す気満々の聖女とか需要ねぇよ。
「そうか、武器はあまり必要そうにないな。」
「そうだね。でもこの服はちょっと目立つかな。」
俺たちの格好は制服だ。
それに周りと比べてもきれいすぎる。
衛生観念が多分終わっているこの異世界では目立つな。
「服、買いに行くか。」
「いいの!よし、行こう。」
「ああ。」
「あ、でも場所分からないから私聞いてくるね。」
「ああ。」
そういってヒナは通行人に話しかけに行った。
俺にできないと思っているんだろうな。
俺だって1週目の時より成長したと思っているけどな。
ニコニコ顔でヒナが戻ってきた。
そんなに服を買いたかったのか。
「近くにあるって。」
「あそう。」
「ちょ、なに?■■は服欲しくないの?」
「別に、特に何かあるわけじゃない。」
「そう、残念。」
(前はローブを羽織っていただけだからな。)
雑に着ていたし。
そのローブはイグサにあげたし。
「じゃ、行こ。」
「ああ。」
ヒナに続いて洋服屋に行った。
周りからはやはり珍しい目で見られている。
恰好が格好だからから。
「ここかぁ~。」
特に目立つような店ではなかった。
ただ服が陳列されているだけ。
でも客もそれなりにいたし、彼女も嬉しそうだった。
「わぁ~、かわいいのがいっぱい。ちょっと私見てくる。」
そういっていち早く店に入っていった。
(活発やな。)
悪いことじゃない。
ただ俺が消極的すぎて温度差が激しいというか、なんというか。
俺は目に入ったローブを取り、考えもせず会計に向かった。
店員も俺の恰好をみて驚いていた。
(早く買お。目立ちたくない。)
「め、珍しいですね。その恰好。」
「そうですか。」
「ええ、そのような格好はゾルバンでしか見られませんですし。」
「そうなんですか?」
「まぁ、学園はちらほらありますけど、指定の服があるところが少ないもので。」
「なるほどね。」
(自由だな。)
でも統一感は多少はあったほうがいいと思うぞ。
その、一体感というか、団結というか。
俺が言えたことじゃないけど。
「お買い上げありがとうございました!」
俺は買ったローブをすぐさま着た。
地味な色。
藍色のローブで、フードまでついている。
保温性も高く冬にはピッタリである。
(いいね。)
あとは彼女を待つだけだ。
そのうち来るとは思うが。
幾分かしてヒナが試着室から出てきた。
服装を変え、見つからないかと思ったら逆効果だったようだ。
「ちょ、なにそれ?地味過ぎない?もっと合うやつあるって」
「そうっすか。」
「はぁ、どうせなら私が着付けすればよかった。残念。」
(人の服にケチをつけるな。ファッションとかどうでもいいだろ。)
やはりこいつを連れてくるべきじゃなかったか。
変なことでケチをつけられそう。
「じゃあ私買うから、お金貸して。」
「どうぞ。」
金を渡してヒナは会計に向かった。
何着か手に持っていたがまさか日ごとに変えるのか?
まぁ、大事なのか。
会計を終えまた試着室に向かった。
こういうのは一括でできると___
長い。
非常に長い。
(長ーい。)
着替えて出てきた。
いい服を見つけれたのか嬉しそうだ。
すごいね、服ごときで。
「どうかわいいでしょ!」
と、全身を見せてくる。
「そうっすね。可愛いんじゃないっすか。」
すこし馬鹿にした口調で言った。
「なにそれ?もっとないの?」
「俺にとっては、無駄なんでね。」
「あーそーですか。」
そっぽを向いてしまった。
非常にめんどい生態である。
「俺の行きたいところに向かってもいいか?」
「うん、いいよ。どこ?」
「図書館と武器屋。」
「OK、了解。」
俺は道を覚えていたのでその通りに向かった。
一つ、疑問がある。
おそらく全異世界人には、一週目の情報が魂に刻まれている。
でも転移者(俺を除く)にはそれがない。
(あの時すでに地球に帰っていたからか?それとも、そういう設定なのか。)
でも魔王も、『放つもの』も時間を超えたことはないと思う。
うーん、謎ばかりだ。
「ここっぽいな。」
「どうして道が分かったの?」
「土地勘だ。」
「ふ~ん。」
(この問題もいつか処理しないとな。)
やりすぎるとバレる。
「ちょ、見てよ。全部日本語だよ。不思議だね。」
「ああ、そうだな。」
(魔王が世界を作り替えたとき、魔王も日本人だったから。だから共通言語を日本語にしたとかなんとか言っていたような。)
まぁ俺にとっては都合がいいけど。
「ねぇ、読んできていい?」
「いいんじゃないか。俺も読みたいものはある。」
「うん、じゃあ読んでくる。」
と、言ってまたどっかに飛んで行った。
すごいね、最近の子は。
俺の目的はすでに決まっている。
あの本の回収だ。
おそらくあの本の著者は魔王。
魔王しか知らない『ディストラクション』があの本には書いてあった。
あ?ちょっと待てよ。
確かあのカルト集団の文献にも『ディストラクション』があったような。
ああ、また謎が増えた。
(今はあの本の回収だ。)
まだあの本には情報があるかもしれない。
スキルに関する本棚に向かいその本を盗んだ。
(まぁ、いいだろ。)
周りに人もいない、よし。
一週目ではおっさんがいたが、幸いなことにいない。
用件は済んだのでヒナのところに戻った。
彼女は歴史の本を読んでいた。
(ちなみに俺は日本史が好きだぞ。)
「ねぇ、この国は74年前に建国したんだって。」
「74年。」
いろんなところでその数字が出てくる。
ということは74年前に、英雄が魔王を倒し世界を再構築したんだろう。
てことは魔王は相当な老害ってことか。
「まだ浅いんだな。」
「そうだね。日本と比べるとどうも浅く見えるよね。」
「面白いかその本。」
「うん、世界の歴史は私好きだから。」
どうやら彼女は世界史好きらしい。
俺とは相いれないな。
残念。
「まだ、読むか?」
「いいよ、武器屋に行きたいんでしょ。あんまりわがまま言いたくないしね。」
「そうか。じゃあ行くか。」
本を返し、武器屋に続いた。
(武器か。ライフルだと両手がふさがるんだよな。でも片手銃はまだ無いし。)
もうちょっと時間を経たせて世界を改変させるか?
そんなのんきなことをしている暇はないか。
ゾルバンの武器屋とは違いきれいだ。
もうヒナはなぜこの場所を知っているのか疑問さえ吐かなかった。
気を使ってくれているんだろう。
「私も何か持っていた方がいいのかな?」
「嬢ちゃんも戦うのか?」
店主が顔を出してきた。
「私はサポート枠?ってやつだと思うけど。」
「短剣ぐらいはもっといた方がいいぞ。いざってなったときに自分の身を守れないからな。」
「そうなんですか、じゃあ私は短剣を。」
(そういうのを押し売りっていうんだぞ。)
それに殺人光線で人なんか容易に殺せそうだけど。
訓練しないと当たらないか。
「俺はこの単発ライフルを。」
「ら、ライフル?銃のことかい?」
「ああ、そうだ。それをくれ。」
「わかった。」
店主は銃と短剣の状態をチェックし俺に渡してくれた。
対価は払った。
あばよ。
「ありがとうよ!」
「ありがとうございました!」
気のせいか前回の時よりも安かった気がする。
短剣含めて。
う~ん。
やっぱ女の子には安くしたいのか?
う~ん。
「まだ日が落ちるまで時間がありそうだがどうする?」
「うーん、あ!異世界ってモンスターいるんでしょ!」
「ああ、いるな。」
「私、それ倒したい。」
「モンスターか、近くの森にいそうだな。そこに向かうか。」
「うん!行こう!」
(近くの森、モンスター、魔物。)
いやな記憶が。
大丈夫か、今回は。
重い足取りでまた森に向かった。
いや~ね~。
森についたころには少し日が傾いていた。
夕日。
(まずいな。)
「ねぇ、あれがスライムってやつなの?」
「え?ああ、たぶん。」
ろくに魔物と戦わなかったな。
人間としか戦わなかった気がする。
「この短剣で刺せば倒せるかな?」
「い、意外と好戦的なんすね。」
「そうかな、じゃあ」
ヒナはスライムに向かって走り出した。
距離を詰め、奴に一刺し。
しかし核まで届かなかったのか無傷のようだ。
「あれ、なんで?」
「多分中央にある核を潰さないといけないんじゃないっすか。」
「ああ、そういうことか。」
スキル発動:『ホーリー・シャイン・レーザー』
殺人光線がスライムに解き放たれた。
白く輝く光線はまっすぐと核を貫いた。
地面をえぐり、木まで貫通した。
「やったよ、ねぇ、やったよ!」
「す、すごいっすね。」
(これが、無双者を見ている気分か。)
できればあちら側に回りたかったな。
「き、きゃー!」
遠くから誰かの悲鳴が響いた。
そしてそれに続くように咆哮も響く。
体が揺れ、木々が揺れ、地面が揺れた。
あの時の恐怖が今呼び起こされる。
(俺一回、ワンパンで倒したんだけどな。)
「ね、ねぇ今の叫びって。」
「ほっといて逃げましょう。」
「そんなことできないよ!」
(どうせ再構築されるんだ。いいだろって思っちゃう自分もいるんだよな。)
ただでさえ面倒ごとが多すぎるのに。
やれやれ系のキャラになっている気がする。
(ちょっとイタいな。)
「よし!行きましょう。」
「え、いいの?じゃあ、早く行こう。」
俺たちは悲鳴が聞こえた方角へ走り出した。




