49 NOMAL END
ヒナが倒れていた場所にはもう何も残っていなかった。
そう何も。
穴の開いた、空虚な場所。
それが俺の心を体現していた。
「ああ、ヒナ、どうして。」
「どうしてじゃねぇだろ!」
魔王が俺の横腹に蹴りを入れる。
そのまま壁に吹っ飛ばされる。
痛みという次元はとうに越していた。
悲しみと空虚さだけがそこに残っていた。
「ああ、どうして!俺の脚本通りにいかない!」
声を出す気力さえ、残っていなかった。
やつれ、体に力が入らない。
「どうして草間ヒナを庇わなかった!どうして命を投げ出さなかった!その時間が十分といえるほどあっただろ!」
「無理、だ、よ。」
「詩を超えてこその勇気だろ!その勇気が、その一歩を俺が、どれだけ苦労したか!その機会を作ってやった!でもお前は。」
(死は、怖い。)
「お前の解放条件は簡単だ。お前の、お前の物語にとってのヒロインを獲得すること。」
「ヒロイン?」
「そうだ。ヒロイン。お前を必要とし、お前が必要とする。女性を、女をずっと避け続けてきたお前が、その一歩を踏み出して自分の女を守る。」
「そ、そんな。」
「どうだ、気分は晴れたか。」
その声に優しさなど微塵もなかった。
ただの怨念の塊。
(ヒロインなんて。)
俺には。
「俺に、俺を必要とする人なんか。」
「黙れ、臆病者!」
(絶望から這い出す、そんな勇気なんて。)
「どうしてだよ!」
何度も何度も俺の体を踏みつけてきた。
何度も何度も。
今までの努力が無駄になった。
その思念が感じられた。
「お前に失望した。」
「勝手に期待して、勝手に押し付けて、勝手に失望して。」
「お前は、自分を大切にしてくれた人を目の前で失ってもなお、それを言い続けるのか?」
「ヒナは、ヒナとはもう縁なんか。」
「そうかそうか、お前はそういうやつだったな。」
(俺なりに、改善しようとしたさ。)
でも、最後は恐怖にあらがえなかった。
結局はただの臆病者。
勇気なんてない。
「お前に頼む頭などもうない。」
「そうか。」
天気が荒れ、窓の外から雨がなだれ込む。
雷鳴が轟き、大地が揺れる。
そして初めて、魔王を魔王のように感じた。
「この世界をリセットする。」
「そ、そんなことしても意味は。」
「滅びゆく世界を少しでも、長くするために。」
空が黒く染まり、世界は終わりを告げていた。
そして放ったスキルは、最初で見たあのスキル。
「スキル発動。」
スキル発動:『ディストラクション』
だんだんと、肉体が崩壊していった。
手が、足が。
人類が、世界が、すべてが壊されてゆく。
「あ、ああ。これが、終わり。」
悲しみを超えた感情
空虚そのもの。
俺に呼応するものなど、すでに居なかった。
そして肉体が滅び二度目の死を俺は迎えた。




