48 選択の時
魔王は非常に憤っているように見えた。
でも俺はあいつの意思を受けない。
これが一歩ってやつだ。
「いいのか、まだ話は終わっていない。」
「ああ、俺は____」
スキル発動:『バインド』
初歩的なミスをした。
全身が硬直した。
(体が、動けない。)
抱えていたヒナが床へと転がり落ち、彼女がうめき声をあげる。
「ヒナ。」
それでもまだ気絶をしているようだ。
「まだ話が終わっていないと言っているだろう。」
「なんだよ!」
端から見れば俺は強者に向かって吠えている弱者だ。
なんて惨めなんだ。
「どうしてこの世界で日本語が通じるのか、日本語表記なのか?」
「それも設定だろ!」
「でも魔力は設定じゃなかった。世の中の物事にはすべて理由があるんだ。」
「後付けだろ!」
「違う、これはお前にも関わってくる話だ。」
(因果を強引に結び付けようとしていないか?)
「もう設定で済む話じゃないのか。」
「そうだ、残念だがまだおしゃべりは続く。」
(まずいな。)
『龍』のスキルの制限がどれくらいかわからないが、あまり長くはないだろう。
「手短に頼む。」
「まぁ落ち着けよ、お前の無様な姿をしっかり堪能しないといけないしな。」
硬直した体を、魔王はまじまじと見ている。
非常に不快だ。
「さて、どうして日本語があるのか?それはこの世界を作ったのは俺たち日本人だからだ。」
「日本人だと?」
どういうことだ?
異世界転移は頻繁に行われているのか?
「はるか昔、最初の英雄は日本人だった。そして世界を壊しそして再構築するとき、英雄が思い描くような世界を作った。」
「思い描く?」
「そう、英雄自身が世界をデザインした。その結果日本語がこの世界に流通することになった。」
「デザイン、この世界は作られたってことか。」
(これが日本語がある理由か。)
理にかなっているのか?
「じゃあお前ははるか昔の勇者だったのか?」
「いや、違う。俺は訳74年前にこの世界に召喚、まぁ転移された者だ。」
「どういうことだ?」
「『吸収するもの』は魔力を吸うことによって力を得る。そうすると『放つもの』よりも先に開放される。」
「世界の均衡が崩れるのか。」
「そうだ、世界のバランスが崩れる。それを定期的にリセットするためにたびたびこの世界に勇者が転移せれるんだ。」
「でも、どうやって?」
魔王は愚問だと言わんばかりに笑った。
「『テレポート』、このスキルを使うにはその座標を知らないといけない。」
「座標、てことは日本の座標を知っているのか?」
「そうだ、日本の座標を持っている。」
(どうして、いやたまたまなのか。)
ランダムに当ててたまたま日本を当てたのか。
それがほかの知的生命体の星だったらまた変わっていたのかもしれない。
「だったら、なんで俺はスキルを持っている?俺は日本人だろ。異世界人じゃない。」
「まぁ結論を言うと、異世界人の脳を付け加えられるんだ。」
「脳をいじるってことか?」
「違う、容量が足されるんだ。」
「容量。」
(スキルによって容量は違う。)
転移者たちのクラスやスキルがこぞって強いのは、容量が二つあるから。
日本人のものと、異世界人のもの。
「いや違う。」
「違うのか?」
「ああ、二つの容量は確かにある。ただ異世界に転移したとき異世界の基本情報を日本人の脳に移しだす。」
(日本人の脳に異世界の情報が詰め込まれているのか。)
「そうすれば異世界人の脳は空っぽになる。そこにスキルやクラスの情報が詰め込めるってことだ。」
「だから特別転移者は強いやつを持っているのか。」
「そう、そして稀にその容量が特別大きいやつが現れる。」
「それが、俺か。」
「そうだ。条件はわからないがな。」
(俺の容量が多いばかりに俺は。)
くだらない使命を背負ってしまったってわけか。
「やめてくれよ。」
「でももうここまで話した。もう逃げることは、いや逃がさない。」
「俺は、俺は。」
ふと倒れているヒナを見る。
痛ましい。
この惨劇を間接的に招いたのは俺だと考えるとなおさら。
「まだ、何か疑問でもあるのか?」
「まだ、説明してほしいことはたくさんある。でも俺の最大の疑問は晴れていない!」
「『封印』の解放条件か。」
「そうだ、早く教えろ。そうすれば何でもする。」
(もう終わらせよう。)
こいつに歯向かったところで何か変わるわけじゃない。
これでみんなが幸せになれるなら俺は受け入れる。
「だから、教えろ。」
「無理だ。」
魔王は渋ることなく、即座に言った。
彼にとってはそれだけ明かせられないのだろう。
「どうしてだよ。」
「まだ、まだだ。」
しかし、着々と世界の終わりは近づいている。
すべてを受け入れようとしたのに、それを拒んできた。
「お前は何なんだ。お前は何がしたい、魔王。」
「俺の脚本通り、に進めばそれでいい。」
「お前に請いたのが馬鹿だったかもしれない。」
「そうかな、お前の勇気を助長させたのは俺だ。」
「俺の勇気はどうすればいいんだ。」
「安心しろ、俺の計画通りに進んでいる。」
「計画通りって。」
(何も、得ていないじゃないか。)
ヒナが瀕死だ。
もう助かるかもわからない。
そんな状況で俺は拘束されている。
「どうしろっていうんだよ。」
「そうだな、賭けをしよう。」
「なんだ、それは。」
「俺に一撃でも入れられたら、解放条件を教える。」
「もし、ダメだったら。」
「ここにいるお前のクラスメイトを、殺す。」
相変わらず静かな空間に包まれている。
だた俺の動悸は激しくなっていた。
興奮と緊張が最高峰に到達していた。
ついに知れる、同時に責任も。
「それも、脚本の内か?」
「さぁ、どうかな。」
(最初から、全力で行く。)
窮地の時につかんだあの感覚、今ここで。
スキル発動:『龍装』
「なるほど、よくいけたな。」
全身が熱気で包まれ龍の鎧が形成される。
奴に一撃を当てることは造作もないこと、そう感じさせられた。
「行くぞ。」
「来いよ、未熟者。」
スキル発動:『龍・全加速』
(音速を超えろ!)
風を受けることなく奴に向かって突き進んだ。
装飾品が崩れ、窓ガラスが割れる。
「くたばれ!」
スキル発動:『龍・銃乱打』
「物量で押す気か!だか無意味だ。」
スキル発動:『フローズン』
フレンとは違う。
青黒く輝く氷。
(強度がまるで違う。)
魔力の分もあるのだろうが、それでも。
「押し切れない!」
「無駄無駄!」
いつの間にか壁から抜けていた。
「吹っ飛べ!!」
横腹に衝撃が走り、壁に打ち付けられた。
そして首をつかみ、持ち上げられた。
「k、ぐ、放せ。」
「了解。」
まるでボールを投げるように反対の壁にたたきつけられた。
背中に衝撃が走る。
(強さが、まるで違う。)
勝てる、相手じゃない。
「勝てなくてもいい、一撃、一撃を当てるんだ!」
スキル発動:『龍・息吹』
炎を巻き、部屋中の視界が悪くなる。
炎の揺らめきが奴の顔を歪める。
口角が上がり、完全に慢心しきっていた。
スキル発動:『龍・旋風』
炎の渦が奴を襲う。
しかし声一つすら聞こえない。
「無駄、無駄だって!」
スキル発動:『ウォーター・ダイヴァージェンス』
奴を中心に水が放散した。
炎を打ち消し、その中から優雅に出てきた。
「まだか?」
「ああ、やるさ。」
スキル発動:『龍・全加速』
今度は部屋中を飛び回るように、奴の目から追いつかれないように。
「なるほどね。」
音速を超え、部屋の壁を沿うように飛び回る。
壁にヒビが入り、粉が舞う。
「影分身みたいだな。」
そして奴の死角に入ったタイミングで壁をけり直進した。
ただ奴の背中からは余裕を感じられる。
「はいはい。」
スキル発動:『カウンター』
その瞬間、殴ろうとした右手がついになくなっていた。
血が吹きあふれ、体全体にこびり付く。
「ぎ、ggぃ、ああああああああ!」
(m、だ、あきらめない。)
残っている意識を使って、デザートイーグルを取り出し乱発した。
何度も、左腕がちぎれようとも、それでも!
「ああああああああ!」
前がよく見なかった。
魔王の表情がわからない。
(世界を、ヒナを!救うため。)
今までのすべての贖罪をここで!
「素晴らしいね、たが。」
弾薬が切れ、撃つものがなくなっていた。
それでもトリガーを引き続けた。
ゆっくりと、こちらに向かってくる足音が聞こえる。
「お前の、負けだ。」
スキル発動:『インパクト』
全身を覆ていた鎧が粉々に砕けちった。
壁に再度叩きつけられ、鈍い衝撃音がした。
腕を失い、骨が砕け、精神はボロボロだった。
銃が手から離れるのを感じた。
「あ、が、負け、まだ勝負は、終わっていない。」
吐血し、呼吸も浅くなっていく。
「まだ、意志があるか。」
しかし、魔王は嬉しそうだった。
俺にまだ意志があることに。
そして魔王は銃を拾い、俺の胸の内側から弾薬を取り出しリロードした。
銃口は俺の眉間へ突き付けられた。
「死は、怖いか?」
「死にたくない。」
一度経験しているからこそ言えるセリフだった。
一度死にかけてもいる。
「いやだ、俺を導くとか何とか、言っていたじゃないか。」
「そうだな、おっと一つ忘れていた。」
「__」
「クラスメイトを殺すんだったな。」
「やめ__ろ、殺さないでくれ。」
「なにもいいだろ、お前を追い出した張本人たちだろ。」
「せめて、ヒナだけは。何も、やっていない。」
かすれた声だけが漏れる。
「そうか、草間ヒナがいたな。」
「g、や、めろ。」
「手始めに最初にそいつを殺すか。」
スキル発動:『チャージ』
彼の手の先から小さな光が現れる。
そしてその光がだんだんと大きくなっていく。
「どうする?お前か、お前以外か?」
「あ、いや、死にたく。」
(最大多数の最大幸福。)
結局は口先だけだった。
俺だけが犠牲になればいいとか、机上の空論だった。
ただ、魔王は俺の選択を待っていた。
そして、何を選ぶのか明白だった。
「でも、俺は_____」
『チャージ完了』
スキル発動:『バースト』
そして白い光がヒナを焼き焦がした。
「あ、ああ、ああああああ!」
轟音が響き、天井のランプが揺らめいた。
俺の心に最後の力など残っていなかった。




