46 一歩を踏み込む
明るかった空がだんだんと暗闇に染まってゆく。
青空から、紫色に変色した空。
「おい、にいちゃん。着いたぞ。」
「え、あ、ありがとうございます。」
「俺はここまでが限界だ。」
遠くを見れば地面の色が変色し、植物はうねっていた。
まさに悪魔の国。
人の気配など微塵も感じられなかった。
地面に降りると、それを機に馬車はそくさとこの場を離れていった。
(ビビりすぎだろ。)
数々の死地を乗り越えてきたから思えるだけか。
普通はこんな場所に来ねぇか。
死にに行くようなものだし。
(さっ、行くか。)
俺は最後の目的を果たすため、ヴェルドナ国内へ歩き出した。
(魔力が濃い。)
感覚が鈍い俺でもわかる。
濃いというか濃すぎる。
空気全体が魔力で覆われているんじゃないかっていうぐらい。
ただ特に魔物の気配が感じられない。
心地よくないだけ。
(なんだ、どうなっている?)
もっと激しい戦闘とか期待していたんだがそういうのはないらしい。
魔王は自分が強いと自負しているから国を守る必要がないのか?
いやそもそも戦争をしないのか。
わからん。
魔王城は一発で分かった。
中央にそびえ立っていた。
洋風でいかにも城!って感じだった。
ただ外観は古いというか、ボロいように感じた。。
何十、何百年もの放置されたような感じ。
魔王の趣味は分からないが、少なくとも多少は新しくするはず。
ボロい感じが好きなのかもしれないが。
一歩歩く度、興奮と緊張が高まる。
すべてを終わらせに、そしてすべてを始める。
その答えがついに手に入る。
今までの疑問が一気に晴れる。
そう考えるとより一層感情が高ぶった。
しかし如何せん道のりが長い。
勇者一行が来ているはずだが戦闘をしている気配がない。
広すぎるっていう問題もあるけど。
(マジで虚無すぎる。)
周りを見ても異形な植物ばかり。
木っぽくて、木じゃない。
色は暗め、紫とか深緑とか。
それくらいしか見るところがない。
(とりあえず歩くか。)
そういってだらだらと歩いた。
(今までのことでも整理するか。)
今はそれくらいしか考えることないし。
まずは俺か。
俺は『封印』っていうスキルを持っていて、英雄やら勇者やら。
勝手に責任を押し付けられた身だ。
ああ、飽きた。
やめだやめ。
見物人がいないのに自己紹介とかイタいやつすぎる。
もう走ろうかな。
そう思ってまただらだらと歩いた。
何分歩いたかわからないが城の入り口が見えてきた。
相変わらずボロい。
もう廃墟ってレベル。
ここまでして残す意味はあるのだろうか?
法隆寺かよ。
(長かった____あ?)
騒ぎ声がする。
というか集団が入り口で立ち往生しているみたいに見える。
(転移勇者様御一行か?)
いるのはいいんだが、居られると困るんだよな。
とりあえず立ち退いてもらおう。
とはいえいったん盗み聞きだ。
いきなり「うぃーす、元気している?」
とかできないし、それにヒナに合わせる顔がない。
近くに茂みなどなかったので、地面に寝っ転がりながらバレないよう努めた。
暗いし、いけるっしょ。
「ようやくいままで俺の手となり足となり駒となり働いてくれた。」
イケメン野郎が仲間?たちに話しかけている。
対等には見えないが。
「魔物の活発化、それの元凶はここにある。」
間違ってはない。
ただあってもない。
「世界を脅かす元を俺たちが断ち切る。」
脅かしてんのか?
知らなった。
てっきり隠居しているただの魔王かと。
「魔王を打ち取るぞー!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」
全員の士気が爆上げしたっぽい。
でも、ただ一人下を向いている女性がいた。
「どうした、ヒナ。」
「いや、ごめん。何でもない。」
魔王討伐が嫌なのか?
いや、嫌か。
「それともあの陰キャのことを考えているのか。」
「ち、違う、よ。別に。」
陰キャか、確かクラスに何人かいたな。
俺は違うが。
逆張り陰キャだからね。
属性が違うんだよ。
「あいつのことは忘れろ。どうせろくな別れ方をしなかったんだろ。」
「でも、私心配で。ずっと、気に障るようなことを言ってしまったんじゃないかって。そう思っているの。」
(クラスメイトの数っと、見た感じ全員いそうだな。)
この十数日、だれも死ななかったのか、すごいな。
こいつら、短時間でここまで仕上げたのか。
やっば。
「あいつは放っておくんだ。いまはこのことに集中しろ。」
「でも___ごめん、優作。」
でも彼女の顔はまた下を向いた。
フレン叱りヒナ叱り、どうもこういうやつばっかなんだ?
(とりあえず場を乱して少しでも気分を変えさせるか。)
俺は体を起こして御一行のところへ向かった。
いいのかこれで?
「どうも、今はこんばんは?かな。」
もうちょっと何かはあったと後悔している。
あたりが騒然とした。
目を疑うように。
そして全員が全員驚きと同時に軽蔑のまなざしを向けてきた。
もう慣れた。
そういう感じは。
「なぜおまえがここに?」
「忘れたのか?俺は囮役って。」
(最初に言っていたぞ。設定忘れんな。)
「帰るんだ、ザコは。」
(ゴミからザコに昇格したわ。)
やった。
「いいだろ俺も見たいんだよ。晴れ舞台ってやつを。」
「これは命懸けの先頭だ。それにお前は俺の駒の範疇にない。」
「そうか、でも俺に囮にさせるスキルぐらいあるだろ。」
野郎がクラスメイトに聞いて回った。
そして再度こちらを見たとき、答えはわかった。
「ああ、ある。」
「zy、マジか。」
「お前、変わったな。」
「そうか?」
「そうだ、よしっ、お前の覚悟を受け取ったぞ。」
そう言ってにやりと笑った。
(え、っと頑張るか。)
「『守護者』もし道中の雑魚敵や中ボス的な奴がいたとき、こいつにつけろ。」
「はい。」
そう言って『守護者』と言われた奴はすぐに返事をした。
ただ彼の目は虚ろだった。
それに触れることなく野郎は口を開いた。
「それじゃ、頼む。」
「了解っす。」
(『龍』のスキルは一時的にしか使えないから、何とかやりくりしないとな。)
できれば使わずに温存したいんだけど。
まぁ、いっか。
「では__行くぞ。」
そう言ってクラスメイト達は彼に続いた。
俺も一番後ろについていった。
魔王城内部は周りと同様に静寂に包まれていた。
まるで魔物なんて存在しなかったかのように。
いや、存在していなかったんじゃない、配備していなかった。
そうも捉えられる。
ところどころに赤いランプがある。
点滅はしているが、雰囲気は出ている。
「ね、ねぇ。」
「え?」
気まずいですやん。
「ㇶ、ヒナさん?」
「あの時はごめん。」
「えっと、いや俺気にしていないですし。」
もう忘れた。
「私が止めるべきだった。みんなが避難している中に行かせるべきじゃなかった。」
「いい、そこまでの出来事じゃないっすよ。」
「でもこの異世界に転移されてからずっと思っていた。■■がどんどん離れていっている気がして。」
(もともと近くないけど。)
勝手な妄想は、やめていただきたい。
「もともとそこまで近くはなかったじゃないですか。」
「また、敬語に戻ったね。」
(チッ、そりゃしばらく会っていないんだから。)
「私は、私じゃダメなの?」
「な、なにを言っているんですか?」
どうした急に。
「ごめん、でもこれが終わったらちゃんと話してくれるよね。」
「は?えっと、はい。」
「うん、約束だよ。」
「ええ。」
(ちょっと、マジで頭が追い付いていない。)
自分の中で完結するのやめてもらっていいですか?
いや、え?
だんだんと城の中央部に近づいている。
鼓動が高まる。
精神が揺らぐ。
(行くぞ。)
幾分かした後、開けた場所に出た。
そしてその先には天井の見えないほどデカい扉があった。
「で、でっか。」
「でかいね。」
ただ野郎は落ち着いている。
それよりも考え事をしているようだ。
「よし、これより魔王討伐に入る。」
クラスメイト達は何も言わずにじっと聞いている。
ただ命令を待つかのように。
「それではいk____」
『こんにちは、いやこんばんは、かな?』
突然奥の扉が少し空いた。
そして一人の男がフラフラと歩いてきた。
「おい、ここは危ないぞ。」
野郎が歩みかけた。
でも、その男は何事もないように手を振った。
『わざわざ魔王の手を煩わせる必要はないね。』
(様じゃないんだ。)
普通は付けるかと思うけど。
「ど、退けよ。」
『無理、じゃ___行くよ。』
受け答えを無視し突っ込んできた。
そして野郎はあるクラスメイトに指示を送った。
俺に虚構のまなざしが向けられる。
そして発動された。
スキル発動:『デコイ』
「ヒナ、来い。」
「え?」
野郎がヒナの腕を引っ張り走った。
そして声を大にして叫んだ。
「走れぇぇぇぇぇ!」
「は?」
クラスメイトが全員扉に向かって走っていった。
最初から知っていたかのように。
「役に立ったよ、ゴミ野郎。」
「後で殺す。」
(覚えていろ。)
そしてそいつは吸い込まれるように俺に突っ込んできた。
(速っ___!)
「あ゛っがぁ。」
『弱いね。』
「突然突っ込んできた割によく言うじゃないか。」
『まぁ君を攻撃する理由なんてないけど。』
(んだよ、俺はサンドバックか?)
ひどいいいようだな。
いやまあだいっていないか。
『魔王、用が済むのが早いね。』
「は?」
『さぁ、どうぞ。』
おかしい、聞こえるはずの戦闘音が、ない。
彼らの声が、いや叫び声すらも。
これは、勇者一行はただの邪魔者扱いとして消された。
部外者だから。
(嘘だろ、ヒナ!)
無我夢中に扉向かって走った。
そして中に転がり込んだ。
「お、来たか!待っていたぞ。」
中央の王座に座る男。
そして周りには倒れているクラスメイト達がいた。
「時は、繰り返す。今この瞬間から終わる。いや始まる!」
そう高らかに笑った。
時は、繰り返す。今この瞬間から終わる。いや始まる!
おっと一話の伏線回収じゃないか。
どういう意味かはまだ分からないけどね。




