45 運命
瞼を閉じても、開けていても、光景はあまり変わらない。
黒い世界、境界線。
もう何度目か。
『やぁ、時間的にはおはようかな。』
「そうだな。」
何度も聞いたあの声
「魔王にいろいろ詰め込まれたせいで混乱しているんだ。」
『そう。』
(そんな、そう、一言で締めていいとは思えないけど。)
「ほんと、疲れたよ。」
『よくやったよね、フレンを守ったことを。』
「ああ、がんばったと思う。でもどうしてそこまで。」
『君、魔王から聞いたでしょ、隠し効果。』
「聞いたな。」
(やっぱり客観視しないと、気づかないものか。)
もっと自分のことをいろいろ考えるべきだった。
『もし、彼女が死んでいたら、多分アリセイン以外の国は修正されていたんじゃないかな。』
(フラグ?)
「そうなのか。」
『君が回数を重ねるごとに、規模は増えていくの。』
(だから、トリガーが分かっていないんだって。)
気をつけようがない。
無理なものは無理。
『ほら!私に、質問ある?もっと頼ってもいいんだよ。』
「気になっていたことが一つ、俺が勇者一行の魔王討伐に合わせる必要あるのか?」
(今は目的がないから、行こうかとは思っていたが。)
『そうだね、君が一番早く真実にたどり着ける。それがサポーター兼魔王。』
「真実って、なんで教えてくれないんだよ。」
『違うんだ。普通は、こんなにも干渉しないんだ。英雄たちは全員魔王討伐という悪者を倒す使命があったんだ。』
「またそれかよ、俺にはない英雄にあるもの。」
(じゃあ、なんで俺がこのスキルを受け取ったんだよ。)
「おかしいじゃないか!どうして俺がこんな運命に巻き込まれなきゃいけない!理不尽だろ!」
『落ち着いて、そのスキルが君にあるっていうことは、君にもその素質があるってことだよ。』
「素質ね、わかったわかった。」
(もう遅いってことが。)
今更嘆いても変わらないってことなのか。
『ごめん。』
「いや、なんでも。」
しばらくの間、沈黙が空間を包んだ。
「もし、俺が死んだらどうなる。」
『君はここに、境界線に来る。』
「このスキルは、誰かに受け継がれるのか?」
『わからない、前例がないからね。』
(試すには、覚悟が必要ってわけか。)
無駄だろうな。
ただの死に損。
「今日、勇者一行のところに向かう。」
『うん。』
「ゾルバンからどれくらいで行ける?」
『2時間くらいかな。すぐに行けると思うよ』
「勇者一行は今どの辺?」
『今ヴェルドナにいるけど、でも魔物で結構足止めを食らっているみたい。』
(悪魔の国、とか守衛が言っていたしな。)
魔物が多いのか。
俺の自慢の陰キャステルスでどうにか切り抜けないと。
『ほかに聞きたいことはある?』
「多すぎて時間がないね。」
『時間?まだあるけど。』
(俺なりのジョークだったんだが。)
いや皮肉に近いか。
まだ秘密を全然教えてもらえていないっていう。
「それじゃ。」
『またね。私、応援しているよ』
「ああ、ありがとう。」
暗く、暗黒に埋没していった。
(うーん。)
もう日が昇っているようだ。
窓からの光が顔を照らす。
「起きた、起きたのね。」
横を向くと、フレンが俺の横で座っていた。
彼女はうれし涙を浮かべ俺を見つめていた。
(いや、なんすかこれ?)
「あ、はい。えっと?」
どういう状況ですか、ギルアさん。
ただ残念ながら彼も俺と同じく布を敷いて寝ていた。
いびきをかいて幸せそうに寝ている。
肝心な時に役に立たない男である。
「心配なんかし__いえ心配だった。」
「は、はぁ」
(早くヴェルドナに行きたいんだけどな。)
自分に決着をつけたい。
「イグサは?」
「まだ寝ている。昨日はずっとあなたのことを心配していたの。」
(また、迷惑をかけたのか。)
でも家族に合わせたのは俺だぜ。
これでプラマイゼロになったのかな。
「それより、あなた名前は?」
「え、ルーズ。」
「偽名でしょ。」
「いや~。」
「お願い、教えて。」
さらに顔を詰めてくる。
ち、近いっす、お姉さん。
美人だからなおさら、直視できない。
「お願い、教えてほしいの。」
「いや~、ねぇ、うん。」
(また偽名を使えばいいか。)
「俺はユーサクってい__」
「はぁ、どうせ偽名なんでしょ。いい、いつか本音を聞けるまで待つから。」
なんでバレた?
(イケメン野郎を名乗ったからか?)
やっぱあいつは信用なんねぇってことか。
「ねぇ、歩かない?」
「え、あ、は?」
時計を見るとまだ12時回っていない
魔物足止め食らっているし、大丈夫か。
てかそもそも到着を合わせる必要もないし。
(でも魔王、ワンチャン討伐されていたらどうしよう。)
その時は『放つもの』に聞くか。
さすがに教えてくれるだろ。
「だめかな?」
(あざとい系ってやつに変化してきていないか?)
あまり好きじゃない。
何ならキ____
「わ、っかりました。行きましょう」
「ありがとう!」
フレンに続いて部屋を後にした。
外は相変わらず平和だった。
サルゴニアが消え、戦争が初めからなかったことになったからだ。
アリセインも平和だろう。
ただ俺は、もとある、もともとの世界であってほしかった。
今となってはしょうがないが。
「どこに行くんだ?」
「知りたい?」
(早くヴェルドラに行きたいな。)
「しょうがないねぇ、教えてあげるよ。」
何を誇っているんだ、この女。
「私が一回ここに来た時見つけたんだ。カフェなんだけど。」
「カフェね。」
(あんなキラキラした場所、入りたくもないけどな。)
違うか、どっちかっていうと勉強スポット的な?
家のほうが集中できるはずなんだけどな。
「ここ!いいでしょ。」
外観は洋風。
石造りで、窓から中を覗くと落ち着けるように配慮しているのか、色が目に優しかった。
当たり前なのか?
「何名様ですか?」
「二名です。」
「こちらへどうぞ。」
女性スタッフが奥へと案内してくれた
いや、もっと手前に席があっただろ。
「いい席ね。」
「そうなんですか。」
(わからん。)
席に腰を掛け注文表を手に取った。
(えっと、ガッツリ食えそうなものは___ないな。)
残念
本当によくわからなかったので、サンドイッチを俺はチョイスした。
ちなみにコーヒーは飲めない。
苦すぎる。
「注文は以上ですか?」
「はい。」
「それではごゆっくり。」
いい店員だな。
「ごゆっくり」って言ってくれる店員はあまりいないぞ。
「店員さんが気になるの?」
「え、まぁ、はい。」
人間として気になる。
「そう、それはよかったね。」
「あ、ああ。」
少し斜め下を向いている。
そんなに早く食べたいのか?
「具体的には?」
「そ、そんなに?」
「ええ、気になるもの。あなた女性に興味があったんだなって思って。」
(いや、まだあって数日だろ。)
俺はクール系が好きだぞ。
声に出して言えないが。
「ありますよ。」
「そう、分かった。」
今度はそっぽを向いた。
女性って感情豊かですね。
横にしていた顔を前にしてこっちを向いた。
「聞きたいことがあったんだけどさ。」
「はい?」
「イグサとどこで知り合ったの?」
うーん。
「俺もぉ、ゾルバンに来たことがぁ、あってですね。」
「その時に?」
「ええ、まぁ。」
彼女の眼は相変わらず俺を疑っているように見える。
「で?どうして、友好関係を築いたの?あなたがイグサと関係を結べるとは思えないんだけど。」
(俺を語んなよ。)
できるさ。
主従関係を結べばね。
いや奴隷契約か。
「僕から声にかけに行ってですね。ええ、見た目に好感を抱けてですね。」
「わかった。本当に本音を吐かないね。そうやって一人で閉じこもらない方がいいと思うけどね。」
(いや~まぁ。)
さすがに言えないし。
「つまりフレンを頼れと?」
「ま、まぁ私を頼ってくれれば、助けてあげないこともないけどね。」
(いつか、頼る日がくればいいけど。)
「まぁ、ありがとう。」
「うん、ありがとうが聞けて良かった。」
「そうっすか。」
「ええ、でも本音を引き出すにはまだ遠いみたいね。」
そう遠くを見ながら彼女はつぶやいた。
開けない扉を、こじ開けるのは難しい。
でも彼女なりに俺と分かち合おうとしているんだろう。
え?俺が寄り添えばいいって?
無理無理。
他人とねぇ、深く交友関係を結ぶと、失った時のダメージがでかくなるから。
「ご飯来たよ。食べよう」
「ええ。」
静かに、受け取ったものを口へ運んだ。
ゆっくりと、その時間が流れていく。
そう、ゆっくりとした時間が。
「おいしかったね。」
「おいしかった。」
前にこうして誰かと歩いたような。
誰だっけ?
ああ、ヒナだ。
あの時は、意識がもうろうとしていたからあまり覚えていないけど。
何していたんだっけ?
外はまだ明るい。
太陽は南中し直接日光を浴びる。
「ねぇこれからどこに行くの?」
「は?」
「ずっと、何かを考えていたよね。」
(いや、奴隷のことを考えていただけなんですが。)
「べ、べつに、気にしてたとかそういうわけじゃないけど。」
照れるのではなく、ただ下を向いていた。
「どこに行くの?」
「別の国に、会いたい人がいる。」
「誰に?」
「さぁ、だれだろうな。」
(正体不明の魔王。)
誰?マジで。
「ほんと、口を割らないね。」
「そうですか?」
「ええ。」
(結構割っているつもりなんだけど。)
「一回わがままを言ったからね、もう言わない。」
「そうですか。」
「___ありがとう、家族に合わせてくれて。」
「そうですか、それはよかった。」
(家族は大事だ。)
いつ死ぬかわからない。
だから一分一秒を大切にした方がいい。
時が来ても後悔しないように。
(武器の点検をしようかな。)
こんな時に思うのもなんだが。
そういえばこの国で買ったんだなって。
「それじゃ、フレン。」
「ええ、また会おうね。」
俺は静かな別れを告げた。
何も死ぬわけじゃないのにね。
彼女の顔は、どこか物寂しそうだった。
でも俺は__
背を向けあの武器屋に向かって足を向け、走り出した。
何かから、逃げるように。
でも理由はない。
ただ走った。
武器屋は相変わらず物が散乱していた。
「いら__あんた覚えているよ。」
「え?」
「奴隷を連れていた子でしょ。」
(あ、そういえば。)
目をつけられた記憶があるような、ないような。
「で、何用?」
「いや、武器の点検を。」
「武器?ああ、あの銃ね。」
(そうそう、あの銃。)
欠陥あったぞ。
思いっきり地面に投げたら暴発したわ。
「とりあえず渡して。」
「はい。」
胸の中からデザートイーグルを取り出し、店員に渡した。
鑑定するように、鑑定?
スキル発動:『鑑定』
名前:なし
状態:良
品質:粗悪
状態がよくて品質が終わっているって、どういうことだよ。
「うーん、問題ないね。」
「マジっすか。」
これが詐欺か。
「ほら、金出してさっさと行きな。」
「あ、はい。」
「あと、コレ。」
ボックスとそれを入れるカバンを一つずつくれた。
「これは?」
「追加の弾だよ。」
必要以上に金を請求された。
てかこれって弾の押し売りじゃないですか?
まぁ面と向かって言えないけど。
店を後に馬車乗り場に向かった。
人通りは以前より少なくなっている気がした。
『吸収するもの』が学園で暴れたからか?
どうでもいいか。
とにかく今は自分のことを優先して_____
カフェの前、フレンが壁でうずくまっていた。
抱え込むようにして。
周りは見るだけ。
何もしない。
当たり前といえば当たり前か。
関わりたくないよな。
俺は、わからない。
なぜそこまでに悲しむことがあったのか。
放ってはおけない。
自分との決着をつけるために、雑念は払っておきたい。
同情心が働き彼女の前に来てしまった。
「フレン、なにをしてい___!」
寂しくない。
暖かく包まれた。
気が付けば彼女に抱き着かれていた。
(人肌、苦手なんだよな。)
強く、離さないように。
そんな風に感じた。
「ごめん。」
「ううん、いいよ。」
でも俺は抱き返せなかった。
何をすればいいのか、いやしていいのか。
わからなかった。
しばらくしてからフレンは俺の体を離れた。
「勇気をありがとう。」
「まったく何を言っているのか、理解できないけど。」
「いいの、私はこれでね。」
(俺の、ただでさえ少ない勇気を奪わないで。)
少しは後悔するべきだったのか。
今となってはわからないが。
「じゃあ、頑張って。」
「あ、ああ。」
そういってフレンは吹っ切れたように走っていった。
(何だったんだマジで?)
俺も気づかぬうちに少し楽になっると感じた。
勇気は俺がもらったのか?
わからん。
人にそこまで寄り添えないから。
振り切ったように、俺は馬車乗り場へ走った。
「はい?ヴェ、ヴェルドナ!無理ですよ。」
「いや、近くにだけでもいいんです。」
「困りますお客さん。」
「いや、3、いや5倍ですよ!」
「うーん、うーん。」
(もう一押しか。)
「7倍!」
「買った!乗りな兄ちゃん。」
「うっし!」
そして俺の旅の資金は底を尽きた。
(行くか、俺のすべてを知るために。)
そして決着をつける。
自分の勇気に!
長かった。
でもこれが終わりじゃない。
カフェってなんで行くのかな。
家でよくね、コンビニでなんか買えばいいじゃん。




