44 脚本
周囲は騒然としていた。
いきなり現れた男に。
(さっきも見たぞ、この展開。)
「話をしたいんだが、邪魔だなお前たち。」
「なんだ、お前。」
紳士なやつとは違って、筋肉質な男が出てきた。
あのガタイの良いやつだ。
この惨状を間接的に招いたやつか。
「これは俺たちの争いだ。外部の人間が首を突っ込んでいい話じゃない。」
「ああ、そうかもな。」
意外と素直に応じた。
(え?マジで何?)
俺は状況が呑み込めていなかった。
「■■、ブレスレットを貸せ。」
「どうして、俺の名前を。この世界に来て誰にも言ったことがないのに。」
「うるせぇよ、貸せ。」
もう貸すというか奪い取られた。
いや、俺も奪い取ったんだけど。
え、突然本名で呼ばれて、え、突然奪われて。
わけわからん。
「終わらせてやる、この争いをw!」
「まさか__やめ、やめろ!」
その男は腕に力を籠め___
”バキィィィィィン”
破裂音とともにブレスレットは粉々になった。
「と、いうことで解散!」
「き、貴様。何をしたか分かっているのか?」
「ああ、もちろん。」
平然と言った。
まるで相手にしていない、いや相手になっていないかのように。
(いや、マジで誰だよこいつ。)
ちょっと、黒い靄出ているし。
なんか服黒いし。
マジでなんなん?。
「おい!奴隷たち!こいつを殺____」
リーダーたちが手を上げ攻撃の指示した__その瞬間。
「静粛にね。」
スキル発動:『ゼロ』
無の波動が、周囲の人間を襲う。
次々と何かにぶつかったように吹っ飛ばされていく。
(はひぃ。)
こいつに逆らっちゃいけないことだけはわかった。
「こいつって、ひどいね。逆らっちゃいけない相手って自覚しているのに。」
「心を読んだのか?」
「便利だしね。」
振り向いたその顔はとてもアジア人、いや日本人のようだった。
黒い髪、黒い目。
「俺は日本人だよ。」
「マジか、俺のクラスメイトか。」
(いたっけこんなやつ?)
クラスと交流していないから覚えていないけど。
「違う違うw、俺はサポーター兼、魔王。」
「え、サポー、えっ、魔王?」
(は?)
は?
「お前を見ていた、世界の傍観者。」
「あ、ああ?」
(ちょっと待って、追いついていない。)
えっと、今までサポーターと名乗っていた奴が、魔王?
「そしてお前の最終到達点が、俺だ。」
「俺の目標ってお前?え、勇者御一行じゃないん?」
「あんなカスども、俺に勝てるわけない。」
(マジか。)
勇者が負けるってどうなんだ。
いや、カス呼ばわりって。
「あの、どうしてここに。」
「答える前に一つだけ、どうして逃げなかった?」
(えっとね~、それは。)
「別にさ、イグサすぐに戻ってこれるんだろ。だったらすぐに戻ってまた、すぐに帰ればいいじゃないか。」
「そうっすね。」
(やばい、反論できない。)
言えない、カッコつけたかったなんて。
「お前、どうせ誰かが助けてくれるとか期待していたんだろ。」
「そんなことは___」
「心の奥底で言っている。」
(やっぱ、ダメか。)
「でもこの一件でお前の精神は大いに成長した。」
「そうっすか。」
(そうかな?)
まぁスキルを使わずに戦ったから、そういう意味ではいいのかな?
「なぜここに来たって?答えは明白だ。死なられた俺が困る。」
「どうして?」
「それは、俺の国にきてから伝える。」
(また隠し事かよ。)
結局何もわからないまま、また次を迎えるのか。
「わかった、何か一つ、いや二つお願いを聞いてやろう。大サービスだぞ。」
「じゃぁ___」
「まった、封印条件はなしだ。」
(バレていたか。)
行けると思ったんだけど。
「他は?」
「どうせろくなお願いしか聞いてくれないんだったら。」
「ひどいな。まずは言ってみろよ。」
「俺の、『封印』の隠し効果は?」
予想に反した質問だったのか、魔王は驚いている。
そして渋った後、口を開いた。
「正確に言えば知らん。」
「は?」
「本来、『封印』はすぐに解けるはずなんだが。観測した例が無くてな。」
「解放条件は勇気だったよな。俺にはまだ足りないってことか?」
「まぁ、安心しろ。俺が絶好の機会を作ってやる。」
(機会を作る、か。)
十分すぎるほど勇気を見せたんだが。
それでも飽き足りないのか。
「予想ぐらいなら話してやろうか。」
「ああ、頼む。」
「今確認できていることとして二つ。」
(二つ?)
そんなにあるのか?
「一つ、すべてのスキルによる干渉が効かない。」
「干渉?」
「例えば、毒の付与とかあとは気絶とか。まぁ状態異常が効かないみたいな。」
(通りで俺が『ゼロ』で気絶しないわけだ。)
これが理由か。
「そして二つ、世界を変える。」
「え、世界を、変える?」
「お前も感じていただろ。」
「あ、ああ。」
(獣人の消失、サルゴニアの消滅。)
ほかにもちらほら。
「お前はこの世界のバグだ。この世界にいるだけで少しずつこの世界が改変されて行っている。」
「酷いいいようだな。」
「まぁ変化は微々たるものだけどな。ただ爆発的に変化するとき、それは__」
「それは?」
また渋った。
何か言えない事情でもあるのか?
だったら話せって話だけど。
「話せない理由は、解放条件に直結しているからだ。」
「ん?どういうことだ。」
「解放条件が阻害されたとき、大きく改変される。」
「阻害?」
(つまり、どういうことだ?)
阻害されたタイミング、とは?
「考えなくていい。余計に解放しずらくなる。」
「わ、分かった。」
「じゃあ二つ目の願いだ。何かあるか?」
「俺をゾルバンに飛ばしてくれ。」
「ゾルバン?イグサ達のところに行きたいのか。」
(ちゃんと感謝しきれていないからな。)
「直接本人のところに。」
「了解だ。」
やっと終わった。
この戦いが。
「イグサの母親は一年前の時点で死んでいる。」
「__わかった。」
(わかりきっていたことだ。)
ギルアさんには伝えよう。
苦しいかもしれないけど、それでも。
「これで、俺の計画は最終段階に移行できる。」
「計画?」
「まぁ気にするな。」
(話をそらしたな。)
何かあるな。
でかいことが。
「これからどうしようかな。」
「いったろ、お前の最終目標は俺だって。」
「ああ、言っていたな。」
(他人に目標設定されるとむかつくけどな。)
「今、勇者一行は俺の国、ヴェルドナに向かっている。」
「またどうして?」
「知らないのか?魔物が活性化しているって。」
「そういえばフレンから。」
(あまり魔物と戦ってこなかったけど。)
そしていい思い出がない。
「『吸収するもの』が完全封印されている中、いや俺がしたんだけど。」
「うるせぇ、続きをいえ。」
「過剰に封印しちゃったせいで、大気中の魔力濃度が上がっちゃって、それで。」
(何してんの?ねぇマジで。)
馬鹿じゃないの?
「ま、まぁそのおかげでフレンが『ワールド・オブ・フローズン・シルバー』を撃てたわけで。」
「わかった。でも俺は勇者一行とは一緒に行かない。」
「安心しろ、結局は会うことになる。」
(最悪だ。)
目的が一緒っていうのもあるだろうけど。
太陽の光が差し込む。
もう朝だ。
戦闘に気を使いすぎで時間を忘れたが。
「おい、選別だ。」
渡されたのは、血の入った注射器だった。
「グロ。」
「自分の右腕に刺せば、少ない時間だが龍のスキルを使える。」
(また制限つきかよ。)
選別をくれる奴はどうも変な奴ばっかだ。
「感謝しろ。」
「ああ、あざっす。」
こいつにはどうも敬語を使う気にはなれない。
どうもね。
「じゃ、行って来いよ。」
「ああ、行ってくる。」
スキル発動:『テレポート』
少しずつ体が消失していく。
奇妙な感覚だ。
「テレポートの哲学って知っているか?」
「やめろ。俺は俺だ。」
(マジでやめろよ。)
それに今は頭を使いたくない。
「ははw悪い悪い。それじゃ。」
「ああ、マジでやめてくれ。」
そして最後に、消える寸前聞こえた。
「俺の脚本通りの終末を迎えてくれよ。」
俺は、奴にとっての駒に過ぎない。
そう感じた。
(g、がはっ!)
冷たい木の床の感触が伝わる。
窓の隙間から朝日がのぞき込んでいる。
どうやらここは学生寮っぽい。
イグサが使ってる場所。
光が彼女たちの顔を薄っすらと照らす。
ベッドの上ではイグサとフレンが抱き合うように寝ている。
なにせベッドが一つしかないから。
なぜか窓は空いていた。
気になって窓の外に出てみるとギルアさんが立っていた。
太陽をぼんやりと。
「ああ、起きたのか?___ルーズ君!」
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。生きて帰ってこれたんだね。」
「ええ、おかげさまで。」
(どうして帰ってきたのかは突っ込まないでほしいかな。)
間違っても魔王と会った、なんて言えないからな。
あっさり戦闘が終わったけどね。
「よかった。」
「伝えたいことが、あります。」
「なんだい。」
「__もう母親は死んでいるようです。」
ギルアさんは分かりきっていたかのような顔だった。
それでも、涙を浮かべていた。
「わかった、わかっていたんだ。」
遠くを見つめ、そういった。
しばらくの沈黙が続き、そして彼が口を開いた。
「イグサ、話し方変だっただろ。」
「ええ、始めて話したときびっくりしました。」
「あれはな、妻譲りなんだ。」
「そうなんですか。」
(だいぶダメな部分を引き継いでいないか。)
ダメというか、不便というか。
「あの子を見て、妻をシウラ、重ねてしまったんだ。」
(全部母音一緒だな。)
シウラ/イグサ
まぁそういうとこも似たんだろ。
「でもうれしかった。あそこまで成長していて。」
(おい、あんた戦えたくね。)
だってずっとフレンに氷漬けにされていただけじゃん。
魔力残っていたんだろ。
結果的にいい情報聞けたけどさ。
「あなたの実力はどうなんですか?」
「私は、戦闘クラスじゃないからね。奴隷状態になってからはずっとパラスに魔力を奪われていたし。」
「奪われる?」
「そう、パラスがスキルを発動したとき、もし足りなかったら俺の魔力を吸い取って発動するんだ。」
「な、なるほど。」
(俺の魔力保有量が多くてよかったわ。)
少なかったらイグサに大迷惑だ。
「その、奴隷って大変なんですね。」
「まぁな、魂の契約だし。」
「え、魂の契約。最悪じゃないですか。」
「まぁ主人が死ねばどうとでもなるんだけどね。」
もう終わった話だけどね。
「奥さんはどんな人だったんですか?」
「シウラは静かな人だったな。美人で、クールだったな。」
「なるほど?」
「みんな躍起になってアプローチしていたよ。」
「はぁ。」
(みんながみんな狙うって、どんだけモテていたんだ?)
想像もできねぇわ。
「その競争に勝ったんだよ、俺は。」
「ど、どうやって?」
「それは秘密だ。」
(クソッ、気になるのに。)
「笑顔が少なかったから、笑わせたときは、達成感があったな。それに__」
「了解です。わかりました。また今度じっくり聞きます。」
「そうか。」
悲しそうに下を向いてしまった。
他人を自慢しようとする心は、あまり理解ができないな。
「ところで君は、イグサとフレン。どっちを狙っているんだ?」
「は?」
「いや、もういい年だろ。それに君ならまかせ__」
「やめた方がいいですよ。本人に失礼です。」
「す、すまない。」
(あんた、ちょっと前まで、娘は渡さないぞ!みたいなこと言っていなかったか?)
気のせいか?
「とりあえず寝ます。」
「でも寝るってどこで?」
「ああ、適当に布でもしいて仮眠をとります。」
「わかった。おやすみ。」
「ええ。」
ベランダを後に俺は部屋へと戻った。
いや、長かった、マジで。
俺は棚にしまってあった予備の毛布を取り出して床に敷いた。
今日明日には魔王のところに向かうか。
そして瞳を閉じ、世界は黒く包まれた。
まだ隠し効果はある。




