43 偽善
頭に雪が降り積もる。
ひとつひとつに温かさを感じる。
パラスは困惑していた。
無理もない。
いきなり人が現れたんだから。
(数分って言ったよね、『放つもの』さん?)
一瞬だったよ。
どうなってんのマジで。
「あなた、確か、私、売られた。」
「売った?」
「彼、私、捕らえられたの。」
(そうか、こいつが奴隷商のトップだからか。)
待てよ、ほかの奴らはどうした?
周りを見渡しても、ただ静かな雪の光景が広がっているだけだ。
(嫌な予感がする。)
「私、許さない。こんな目に合わせて、お姉ちゃんまで。」
「イグサ、ありがとう。」
「ダ、誰ダ、何ダ、コレハ。」
無意識に恐怖を感じている。
圧倒的な実力の差が、彼を恐怖に落とし込まれているかもしれない。
それほどまでに成長したってわけなのか。
自分の真価を発見することって難しいことなはずなんだが。
「ク、来ルナ。」
スキル発動:『フリア・フェンリル』
氷霊の猛獣が再び奴に食らいつく。
フレンとは違い、数匹が襲い掛かっている。
その隙にイグサはフレンに駆け寄った。
「お姉ちゃん、立って。」
「え?」
「ほら、手、取って。」
イグサがフレンに手を差し伸べ、立つよう促していた。
(何するんだ?)
姉妹二人そろって。
「『ワールド・オブ・フローズン・シルバー』」
「え?」
「これね、隠し効果はね、二人そろってやると、威力、効果、増すんだよ。」
「そうなの?」
(そうなの?)
初めて知ったけど。
てかあったな、隠し効果っていう設定。
あまり知られていないのか忘れていたけど。
てか俺『封印』にも絶対あるよな。
今はいいか。
「あの時、私、手を放しちゃった。」
「あの時は私が囮になればよかった。」
「違う、言いたいこと。今、私、そしてお姉ちゃん、一緒に手を取るとき。」
(再会、いや再開ってやつか。)
再び二人が手を取り合う。
支えあいか。
「いくよ、お姉ちゃん。」
「うん、イグサ。」
手と手をつなぎ、青く発光する。
スキル発動:『ワールド・オブ・フローズン・シルバー』
闇夜を照らす二つの青い太陽。
その青い炎がパラスへ向かう。
雪崩のように。
「コノママデ、終ワラナイ。俺ハ、生キルンダ。」
咆哮を上げ、対抗するようにスキルを放った。
スキル発動:『ワールド・オブ・エンドレス・フレイム』
業火の炎が奴の周りを焼き尽くしている。
いや、奴自身も燃えている。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
絶叫を上げ、それでもスキルを止めない。
決死のスキル。
(ははwすごいな。)
両者一歩も引かない。
赤と青のぶつかり合い。
安全地帯に逃げないと。
巻き込まれたら最後__。
痺れた体を無理やり起こして、建物の方へと向かった。
腰を下ろし息をついた。
(今のうちに負傷者を運べるだけ運んどくか?)
チャンスは今___あれ?
「ラーサさんが、いない。」
確かにそこで倒れていたはずだ。
あんな状態で動けるはずが。
(いや、そんな馬鹿な。)
震える足を立たせ地下内部へと向かった。
考えたくないことが頭をよぎった。
でも残念ながら正解だった。
そこはものの抜け殻だった。
いたはずの負傷者、そしてヒーラーがいなくなっている。
何年もたった廃墟のように。
(クソ、想定していなかった。)
内通者はギルアさんだけではなかった。
いやもしかしたら、すでにあの集団は奴隷だけだった。
反抗組織を謳った奴隷集団だったんだ。
だとすれば目的はなんだ?
今は確証には至る証拠が少ない。
ただもうじきパラスは死ぬ。
ギルアさんを探しに行かないと。
洗脳が解けて、何か話してくれるかもしれない。
再度、足を起こして、フレンが彼を凍らせた場所に急いだ。
時間はない。
負傷者から奪い取った単発ライフルを杖代わりにその場所に向かった。
(ごめん、フレン、そしてイグサ。雄姿を見れなくて。)
後で伝えよ。
ありがとうって。
案の定、ギルアさんは凍らされていた。
足だけだけど。
「g、ぎ、、あk。」
洗脳でおかしくなったか?
奴隷になったことがないからわからないが。
「、げ、か、nま、k。はぁはあ、ああ。ルーズ君。」
意識が戻ったようだ。
少しフラフラしているが。
自分の意識で動くのが久々なのだろう。
(パラスが死んだか。)
にしても戻るのが早すぎて怖いのだが。
「パラスは死にました。もう大丈夫です。」
「どうして、いや、なんでもない。」
すべてを察したかのように言った。
「すまない。私は内通者だった。」
「今はそこじゃない。」
「へっ?」
遠くから何か聞こえる。
集団のようだ。
「あなた以外の内通者を知っていますか?」
「は?まぁパラスの奴隷にされていたやつがちらほら。」
(やっぱり。)
俺の予想は当たっていた。
「その中にラーサさんはいますか?」
「ラーサ?なんで出てくるんだ?」
「じゃぁヒーラーは?」
「いや、知らんが。」
(最悪だ。)
まだパラスの範疇だったらよかったけど。
でも違うなら。
「今から話すことはあくまでも推測です。」
「はぁ、なんだい?ちなみにフレンはあげないぞ。」
(死ねよ。真面目な話をするときに。)
「おそらく、ここにほかの奴隷商もしくは奴隷と契約をしている集団が何個か来ます。」
「は?奴らは家に縮こまっているだろ?」
「いや、これが作戦だったんだ。」
「作戦?」
(くっ、体力が。)
戦えるのか?
「パラス以外、すべて奴隷だった。」
「それで?」
「つまりこの作戦はパラスの独断。」
「はぁ。」
「でもその作戦は外部に漏れていた。」
「外部に?俺はパラスから伝えられていたが。」
「おそらくあなたとパラスが接触しているところを、ほかの奴隷に見られた。」
雪が止み、輝く青い夜空は終わった。
その代わりに太陽が少しずつ上がってくる。
「でも奴らはその作戦に加担しなかった。」
「と、いうと?」
「奴ら、ほか全員はパラスの地位を、弱ったパラスを殺して自分がラプシカのトップに立とうとしている。」
「!」
(あくまでも推測だが。)
推測というか、妄想に近いかもしれない。
でも怪しい点はいくつもあったからこそ、言えることでもある。。
「俺たちはどうすれば?」
「僕はそのトップの証というものがあるのかは知らない。」
「聞いたことはあるが、どうやって継承されるのかは知らないな。」
「でも、もし殺しで得られるのなら。」
「まさか、フレンが。」
「急いでください。逃げますよ。」
「ああ、急ごう。」
しかし急ぐといっても俺も、ギルアさんもボロボロだ。
到底走れるとは思えない。
「おい、ルーズ君、肩を貸せ。」
「え?あ、はい。」
彼に肩を貸し、俺も肩を貸してもらった。
両者が両者に負担を強いる形にはなったが、少しは楽になるだろう。
「行くぞ。」
「ええ。」
全身の苦痛に耐えながら、彼女らのもとへ向かった。
「フレン!」
「い、イグサ。なぜここに。」
驚くと同時に、安堵の声が混じっていた。
久しぶりの再会だ。
うれしいのだろう。
「お父さん、それにルーズ。」
「ユー。」
彼女らの傍らには粉々になった、氷の破片があった。
聞かないでおこう。
「なんか、パラスこれを持っていた。」
「ん?」
ブレスレットのようだ。
雪の国らしく白く装飾されている。
(もしかしたらこれが証か?)
「これは俺が預かっとく。」
「う、うん。」
よくわからなさそうに俺に渡してくれた。
(よりあえず今は逃げることが先決だ。)
「ここから逃げるぞ。」
「え?」
「どういうこと、ユー?」
「説明している時間はない。」
足音が迫っている。
大勢の足音が。
馬車の場所に戻っている時間はない。
なら__
「イグサ、お前人を連れて逃げられるか?」
「うん、でも二人しか。」
「ははw___十分だ。」
(いい、これが贖罪だ。)
それが彼女にとって嬉しくなくても。
「まさか、ユー!駄目だよ。」
「そうよ!置いてなんていけない。」
「__ギルアさん。後は頼みます。」
俺の覚悟を受け取ったかのように。
瞳は一緒だった。
あの二人と。
「ああ、行くぞ。イグサ、フレン。」
「いや、いや!待って!」
「私を置いていくの?そんなのいや!」
二人が悶えている。
必死に。
(何も慌てることはないだろ。)
たかが数日の仲だ。
すぐ忘れる。
「おい、イグサ。二人を連れてゾルバンに逃げろ。」
「い!__分かった。」
「イグサ?」
(こんな時に役に立つなんてね。)
奴隷、最高じゃないか。
「そしてイグサ。戻ってくるな。」
「クッ、分かった。」
(お前の考えはお見通しなんだよ。)
戻ってきてもじり貧で負ける。
だったらここで俺が。
「ルーズ君、また会おう。」
「この借りは返してくださいね。」
「ああ、絶対に。」
イグサが二人を両脇に抱えた。
でも、顔は晴れていない。
「イグサ!離して!ルーズを置いてはいけない!」
「__」
すすり声が聞こえる。
涙をこぼしているのがわかる。
「ユー、信じてる。」
「ああ、任せろよ。」
悶えるフレンと、ギルアさんを連れて飛び去った。
「ありがとう。」
そう去り際に伝えた。
足音が大きくなっている。
いったい何十人がこの座を狙っているのだろうか?
(馬鹿な奴だ。この俺に勝負を挑むなんて。)
ほんと、俺が馬鹿だ。
「こんばんは、いやもう朝か。おはようガキ。」
「初対面なのに失礼ですね。」
いかにも紳士、を体現した奴だ。
ほかにもリーダーらしき人が俺の周りを囲っている。
もう立っているのもやっとだ。
喋れているのも奇跡に等しい。
「そのブレスレットを渡してもらおうか。」
「ええ、でも、俺のこと殺しますよね?」
「はw面白い冗談を。」
「もし、俺がこれを壊したら?」
「...」
(もし俺が真上に投げたら、取り合いになるだろうな。)
それはそれでおもろい。
「やれ。」
「え?」
スキル発動:『フォトンレーザー』
「あ、がぅ!」
赤い光線が目の前を走る
そして奴隷商の腹をレーザーが貫通した。
今まで痛みを受けてこなかったのか、悶え苦しんでいる。
ざまぁ。
でもなんで?
雪の上に颯爽と立っている男が一人いた。
「すばらしいぃ!俺の、このままいけば俺の脚本通りに。」
「脚本?」
「俺の望む結末が!」
見知らぬ男が俺の目の前に立って歓喜を上げている。
意味が分からん。
うっし、主人公死ぬところだった。
あぶね~、こんなところで死んでもらっちゃ困るよ。
イグサの戦闘描写をもっと見せたかったんですが、なにせ一人称が固定されているので。




