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38 欠けたものを埋めるもの

(あーあ、まただ。)


あの世界。

あちら側からしか干渉できないのがネックだ。


『こんばんは。また、会いに来たよ。』

「はいはい、今度はなんの用ですか?」

『そんなに怒らないでよ。』


(こっちは疲れてんだよ。)


まぁこの空間にいると痛みとか感じないけど。

多分途中で起きたりしないからいい睡眠薬みたいな。


『何か知りたいことはある?何でも教えてあげるよ。』

「目的がなく来たのか。」

『別にいいじゃない。私、暇なの。』

「暇?」

『そう、目覚めるまではね。』


(なんだよ、封印でもされてんのか?)


意味が分からん。


「そうだな。知りたいことかぁ。」


(まぁ英雄になれ!と諭されないと考えればいいか。)


そもそも干渉されなかったら考える必要もないが。

そこは仕方がない。


『ほら!なんでもいいよ。』

「いま、ラプシカはどうなっている?」


(まぁ必要な情報だし。)


『だいぶ変わった質問だね。』

「この後行くし。」

『いいよ。今ラプシカはパラスという男が治めているんだ。』

「パラス?」

『そう、奴隷商のトップ。あの町には秩序なんてない。毎日倫理を外れたことが繰り広げられている。』


(俺、生きて帰れるのか?)


「イグサ、の親はいるか?」

『イグサ?誰それ。』

「いや、フレンの妹。」

『フレン。君に同行している人ね。ごめん、一人一人の名前は分かるけど誰が誰の家族とか、わからないんだ。』

「そうか。」

『一応反抗組織的なのはあるみたい。でも、もうギリギリ。君が行くころには潰されているかもしれない。』


(もう、龍のスキルを失った俺に何ができるのだろうか。)


行ってもただタコ殴りにされて殺されるだけな気もする。


「俺は、行っても意味はあるのか?俺は戦えない。」

『君が、変えるんだ。』


強く、俺の心を押すように声が諭す。


『君が救うんだ。イグサやフレンの故郷を。』

「無理だ。俺は勝てない。」

『いや、頭を使うんだ。どうやって勝つのか。』


(勝つ方法。)


俺は一人だ。

でも、仲間を募れば。

仲間なんてどこに。


「奴隷。」

『い、意外だね。』

「主人が死んだ奴隷はどうなる?」

『多分契約が破棄されると思う。』


(そうか、殺せば。)


仲間が手に入る。

おそらく大多数が反抗心を燃やしているはずだ。


「ありがとう。いろいろまとめられた。」

『まぁがんばって。あっ、これは餞別だよ。』

「あ゛、あ゛が。」


(脳に、上から書き加えられる。)


感覚がないはずだ。

なぜ。


『魂に書き込んでいるんだよ。脳じゃない。』

「っ、何を、書き加えた。」

『『ゼロ』だよ。』

「『ゼロ』って確かあのキリが使っていたやつ。周りの人を気絶できて、しかもスキルも打ち砕ける。」


(よく覚えていたな俺。)


顔は、覚えていないけど。


『使用者の魔力量によって効果範囲を拡大できるの。』

「いや、でも奴隷たちも気絶するんじゃ。」

『効果範囲は設定できるよ。』

「例えば?」

『半径1mとか』

「へぇ~、あ、え?メートル法?」

『うん。』


(この世界ってホント不思議だよな。)


日本語が通じるし、日本語で書かれているし。

接待かな?


「てかそのスキル俺に渡していいん?」

『まぁ、一日一回しか使えないから。君がうまく使えるとも思っていない。』


(馬鹿にしてんのか?)


「使いどころは限られているってことか。」

『どう?いいでしょ。』

「どうせだったら龍のスキルを使いたいんだが。」

『それだと君、パラスを最初に殺しに行けば終わりになっちゃうよ。』


(それがいいし。それが生きて帰れる可能性が高い。)


正直『ゼロ』の使うタイミングがよくわからない・

一回しか使えないし。


「あと聞きたいことあるんだけど。」

『ごめん。今日はこれまで。あまり境界線に居すぎると君死んじゃう。』


(なぜそんなところに呼んだ?)


もっとあっただろ。

直接脳内とか、いろいろ。


「さよなら。」

『さよなら。喧嘩しなくて私うれしい。』





(はっ___)


寒い。

朝だからっていうのもある。


(うーん、腕はマシにはなったか?)


多少ボロボロだが、それでも状態がいい。

異世界ってすごいな。


頭痛い。

魂に書き込んだって言っているけど、脳は魂と直結しているのか?

人体のことはよくわからない。


(時計がない。)


やはり今までが裕福だったのか。

そもそも時計という技術がある時点ですごいが。


「おはよ__おっと失礼。お取込み中でしたか。」


爺さんが扉の隙間から気まずそうに声を漏らす。


(けっ、そうだった。)


「すみません。ベッドが一個しかなくて。」

「いや、いいんだよ。若いからね。」


指を立てグッドサインを送ってくる。

いや、やめて。


「それで、どうしたんですか?」

「雪が止んだんだよ。午後にもなれば少しは溶けてラプシカへ行きやすくなると思うよ。」

「あ、ありがとうございます。」


(長かった。)


無駄に。

スキルを消失したいのは痛いがそれでもある程度は戦える。


「あと、朝ごはん、持ってきたよ。」

「あ、ありがとうございます。」

「それじゃ。あまりやりすぎないようにね。」


爺さんが部屋を出ていった。

誤解を早急に解かないと。

てか朝だぞ。


フレンは横でぐっすり、幸せそうに眠っている。


(チッ、最初はただのおとなしい奴だと思ったんだが。)


意外と砕けるのが早い。


消えていた暖炉をつけるべく、どうやってつけるんだ?

横には魔石の入ったバケツがある。


(まさかこれで。)


だいぶ原始的のような気も。

魔力を、魔力ってどうやって流すんだ?

今までは感覚でやっていたが、いざやってくださいと言われるとわからない。

そもそも俺はスキルの基本というか、魔力の基本というかそんなものが知らない。


(フレン、頼んだ。)


とりあえず朝食に手を付けた。

しけたパンとスープだが。


食べれるだけありがたい。

何とか喉に押し込み食事を終える。


「ん__寒い。」


(まぁ朝だし。)


「はあおう、ルーズ。」

「午後にはここを出れるそうです。」

「そう。雪がやんだのね。」

「あまりうれしそうな感じではないですね。」


(なんだ?雪が好きなのか?)


俺と同じく電車が止まることを期待しているのか?

電車なんてものはないけどね。


「いや、そんなことない。私、馬の様子を見てくる。」

「は、はい。」


そそくさと彼女は部屋を出て行ってしまった。


(馬の様子はちゃんと見ないとな。)


暖炉にトライでもしてみるか。


(魔石を持って、そしてあの暴走したときみたく魔力を込める。)


だんだん魔石があったまっていくの感じる。


(いける、いけるぞ~。)


赤くランランと光る、ランランと?


「アッツ!」


魔石は奇跡的に暖炉へ吸い込まれた。


「ふぅ、加減は大事だね。」


俺の魔力保有量は魔王と一緒って言っていたし、最悪爆発していたかも。

恐ろし、損害賠償とか払えないよ。


恐怖におびえながらも、フレンの食事を暖炉の近くに運んだ。

寒いし、せめて温かいものを。


焚火のように燃える魔石を見ながら有意義な時間を過ごす。


(ずっと、何もしないでいたいな。)


ぼーっと、生きていたい。

飯食って、ゲームして、寝る。

残念ながらゲームはないんだけどね。


「ただいま。」

「ご飯、食べたらどうですか?」

「え、ご飯?」

「温めてあるのでぜひ。」

「ありがとう。」


お盆をとって口に運んでいる。

ゆっくりと、時間を忘れるように。


「日が昇るまで時間がありますけど。」

「私は、いえ、なんでもない。」


(はっきりしろよ。)


他人の心とか読めないし。


「ルーズはゆっくりしていたら。けがしているし。」

「あ、わかりました。」


沈黙が部屋に包まれる。

ただ静寂が。


炎の弾ける陽気なサウンド。

それに対してフレンの表情は明るくない。

ずっと、思い悩んでいるような。


(イグサの件でずっと思い悩んでいるのか?)


今になって思い出したのか?

それはそれで失礼な気もするが。


いや俺が言えたことではないか。


「ねぇ、本当に行くの。」

「行きますけど。」

「やめない。一緒にイグサに会いに行こうよ。」


泣きそうな目で、こちらを見つめる。

ただ瞳はずっと揺らいでいる。


「会いに行かなきゃ。」

「誰に?死んでいるかもしれない。」

「無駄でも、その事実を知りたい。死んでいても何かしらの爪痕を持ち帰る。」

「どうして、望むものが何もないかもしれないのに。」


(せめて、親の形見か何かを回収できれば。)


もし持ち帰っても逆効果になりそうだな。

人の心なんて、よくわからないや。


「ならさ、私も一緒に行ってもいい?」

「え、危険ですし。」

「お願い!一度つかんだものを手放したくないの。心のよりどころ、捨てたくない。」


必死に祈るような声で俺に訴えかける。

涙ぐむような声で俺を説得してくる。


(そんなこと言われても。)


「ラプシカは以前のラプシカじゃない。あなたにその光景を見せたくない。」

「いい、それでも。置いていかないで。私を、一人にしないで。」

「__」


(姉妹そろって。)


(『ユー!やだ、置いていかないで。』)


それでも。


「ゾルバンにイグサはいる。だからそこに向かえば一人には。」

「私を、信用できないの。」


(『信じてもいいんじゃない?ひとを。』)


(アイリス、俺は信じるべきか?)


「私だって、戦える!暴走したあなたを倒した。」

「__」

「だから、お願い。」


(責任は、取れないが。)


「い、一緒に行きましょう。」

「ほんと!」


落胆した彼女の表情から一変、笑顔に輝いた。


(一人は、つらいか。)


今までずっと一人だったから、そういうのが理解できないのかもしれない。

他人の思いやりとか。


「もうちょっと待ったら行きましょう。」

「ええ!行こうね。」


ルンルンと部屋を飛び出していった。

馬の様子でも見に行ったんだろう。


(守り切れるか?)


いや守られる側なのか。


しかし、殺しの現場を見せることになる。

いやもっとつらいことが待っていると思う。


勢いよく扉が開き、フレンが顔を出した。


「準備ができたよ!」

「行くか。」


もっと、殺し以外の方法があるかもしれないな。

まずいな。

『放つもの』が便利すぎる。

何とかしてリンクを切らないと。

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