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36 最後の希望

「雪が。」


(珍しいな。)


緑の大地が徐々に白に染まる。

寒い。


自分の家は都心近くにあったから、あまり雪が降らない。


小学生の時は雪が降れば無邪気に遊んでいた。

中学生からは雪は学校が休みになる、という思想に染まった。

漢検がつぶれかけて焦ったけど。


「私にとって珍しくない。」

「一年中冬って聞きますし。」

「あまり作物が取れないから他国しか取り寄せるしかないの。」

「そうなんですか。大変ですね。」


(ありきたりのことしか言えないが。)


ただ今はどうしているのだろうか?

他国との貿易なんて、できなさそうだが。


(やっぱ金かな。)


「もう行くわよ。雪も降ってきたところだし。夜までには中継地点の村に行きたい。」

「中継地点?」

「そう、夜はさらに視界が悪くなる。だから一度休まないといけないの。」

「わかりました。行きましょう。」


(電車も止まるっていうしな。)


うれしかったけど。

でも社会人になったら困るんだろうな。


悪天候の中、馬は駆ける。

しかしの視界の悪い中、迷わずに突き進む。


「っ!どうしよう。」

「どうしたんですか?」


突然フレンが驚いたような顔をしている。


「おかしい、まだこの時期じゃないはず。」

「だから、どうしたんですか?」


(早く教えろよ!)


焦らすな!


「フロウウルフよ。」


(いや、さぞ当たり前に知っているようなこと、みたいに言われても。)


「えっと?」

「知りたい?」

「ええ、まぁ。」

「ふふん♪教えてあげる。」


(知識マウントか。)


むかつく。


「フロウウルフ、ラプシカに生息している魔物。肉食獰猛。いつもはラプシカにいるんだけど、1月は格段と寒いからここら辺に降りてくるんだけど、どうして。」

「ありがとうございます。」

「もっと感謝してくれてもいいのよ。」


(チッ。)


守衛は魔物が活発化していると言っていた。

だから餌でも足りなくなってこの地域に降りてきたんだろう。


多分。


「よくわかりましたね。どうしてですか?」

「感覚よ。」

「なるほど?」


(根拠がないことが理解できた。)


「とにかくあなたは迎え撃って。」

「無茶言わないでください。」

「お願い、私は手が離せないの。」


馬車の速度が上がっていく。


(FPSゲームはあまり得意じゃない。)


どっちかっていうとパズルゲームのほうが得意化も。


「わかりました。」

「ほんと!ありがとう。じゃお願いね。」


笑顔で、言ってくれた。

彼女なりのサービスだろう。


(需要ねぇ。)


後方、荷台へ移動し、迎撃態勢を整えた。


(スキルで片付けるか)


銃弾は消費したくない。

無駄にあるけど。


(行くか。)


右腕に力を込める。

蒸気を発し、その中で龍の腕が形成される。


あまりなれない感覚だ。

ずっとやってきたが。


考えている暇はなかった。

雪を蹴る足音が、複数で近づいてくる。

馬じゃない。

群れだ。


青い光が雪の中から目を覚ます。

無数の星が、地面を這うように迫ってくる。


(___本当に来たのか。)


できれば来ないでほしかった。


スキル発動:『龍・弾(ドラゴン・バレット)


当たらない。


スキル発動:『龍・弾』


当たらない。


スキル発動:『龍・弾』


当たった。


「キャオン!」


討伐数1

しかし残りが無数にいる。


「めんd!」


目の前に黒い影が跳ね上がる。

油断していた。

奴の牙が右腕に深く食い込む。


「はな、離せ!」


腕を振り回しても、牙は離れない。

血が滴り、骨に響く圧迫感。


「じゃ、クソッ。」


スキル発動:『龍・加速(ドラゴン・ブースト)


爆発的な推進力で荷台から飛び降りた。

勢いに乗って狼を振りほどき、雪に叩きつける。


「めんどくせぇ!」


しかし考えている暇はなかった。


スキル発動:『龍・斬(ドラゴン・スラッシュ)


血のにおいが俺に服に染み付く。


周囲が一瞬で埋め尽くされた。低く唸る声。

獲物を前にした、冷たい視線。


「こいよ。遊んでやる。」


(たかが魔物。俺に勝てるはずがない。)


「あ゛がっ____」


スキルを発動しようとした、その瞬間、すべてが崩れた。


胴に、足に、腕に、顔に。

一斉に飛びかかる影と、鋭い衝撃。


(痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。)


全身が焼けるような痛み。

電気がほとばしり体の感覚が薄れてゆく。


血が流れ、肉が裂け、骨が砕ける。


こんなはずじゃなかった。

もっとまじめに戦っていれば。


(い、いやだ。死にたくない。)


こんなにも早く状況が劣勢になるとは思わなかった。

こんなにも死を実感するとは思わなった。


「痛いのは、いやだ。死にたく、ない。」


死なない。

こんなところで。


残る意識で魔力を右腕に込める。

他人を信じる前に、自分を信じるんだ。

望みをかける。


(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。)


必ず奴らを。





スキル発動:『龍装』






全身を包む龍を模した鎧。

周りは焼けるように熱い。

雪が解け、地面が焦げる。


一瞬だった。

一閃のごとくフロウオオカミが弾け飛ぶ。


血と肉片が、シャボン玉のように雪に舞い上がった。

心地の良い旋律が流れる。


狂おしいほどの快感が、死の淵から這い上がってきた。


そして最後の意識の際に自分に命令したことを実行する。

殺す。


それは生命の息吹を止めること。


近くにもまだ生命はある。


龍の血が全身を巡る。

暴走

コントロールの欠如。


意識はすでに龍の本能が抱えていた。


スキル発動:『龍・全加速』


音が遅れて聞こえる。

音速を、超える。


馬車に追いつくなど、造作もない。


「え、なに?なになになに?」

「お前を、壊す。」


冷たく、静かに吐き出された言葉


「え、え~!」


スキル発動:『龍・銃乱打(ドラゴン・ガトリング)


右腕が轟音を上げ、無数の弾丸が馬車めがけて雨のように降り注ぐ。

連続した爆発音が雪原に響き渡った。


フレンが叫びながら手を掲げる。


「私は、死ねない!」


スキル発動:『フローズン』


瞬時に、馬車の前に巨大の氷の城壁がせり上がった。

しかしそれは、焼け石に水だった。


その城壁は数秒も満たないうちに破壊される。


「うそ、急いで!」


フレンは手綱を両手で強く握りしめ、馬の背中を叩いた。

馬はそれに呼応するように、全力で雪を蹴る。



「どうなっている。なんで彼がいな___まさか。」


スキル発動:『龍・旋風(ドラゴン・サイクロン)


無数の斬撃が渦を巻くように馬車を追う。

荷台は崩れ、馬にも傷ができる。


フレンは傷ついた馬の首を優しく撫でた。


「がんばってね。くっ、使いたくはなかった。でも、やるしかない。」


覚悟を決めたかのように。

彼女の瞳が青く光る。


スキル発動:『ワールド・オブ・フローズン・シルバー』


「そ、れは、イグ、s。」


世界が一瞬で凍りついた。


体が動かない。

金縛りを受けたような感覚。


銀世界が広がる。


冷たい。

あの時とは同じ感覚ではない。


「ごめん。でもこうするしかなかったんだ。」


鎧が解ける。

氷が解けるように、静かに。


もう右手はボロボロだった。

血が雪に滴り落ち、指先が痺れる。


「ごめ、ん。俺が、悪かった。」


掠れた声が漏れる。


「いいの。乗って。」


フレンは傷だらけの荷台に、優しく寝かせてくれた。


もう二度と、スキルは使えないだろう。

あれが最後。

すべての血を使っただろう。


わからないが。


もともと外付けのスキルだ。

『鑑定』とは違う。


脳に書いているのではなく、装備に近い感覚だ。

だからこそ、限界を超えた代償が、こうも重い。


そしてゆっくりと意識が落ちていった。




まぁドラゴンのスキルを使える最後の機会ですし、ルビを振りました。

全加速はハイブーストです。

10文字を超えてしまったから無理でした。


これ以上、主人公に無双されてたまるか。

ということでラプシカでは頑張って頭を使ってもらいます。


戦闘描写が苦手だ。

あ、情景描写も。

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