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35 放つもの

夜の道。

地面を蹴る馬の音が響く。


空は雲一つない夜空。

静かな空間が広がる。


御者の彼女はただ前を見つめている。


「もう、寝てたら。どうせ起きてても意味ないし。」

「え、あ、はい。」


冷たく吐き捨てられた。

悲しい。


(でも、今日はいろいろあった。)


寝たほうがいい。

サルゴニアのことは、しばらく考えない方がいい。

おそらくもう、だれも覚えていないことだけど。


「じゃあ、先に失礼します。」

「」


返事はない。

後ろの荷台には数日間の水と食料が積んであった。


寝心地は悪い。

蹄の音が耳に響く。

地面が揺れる。

でも無理は言ってられない。


環境が悪いがそれに耐えるべく、目を閉じる。







真っ暗な空間。

前、後ろ、左右、どこを見渡しても、暗黒。

呼応するものは誰一人いない。


(ここは、どこだ。まさか、あの境界線?)


一度死んだ、その時に来たあの場所。


『運命からは、逃げてはいけない。』

「な、なんだ。なんなんだよ。」


誰も、いない。

でも、頭に聞こえてくる。


『このスキルを持った、持ってしまった、その宿命を。』

「俺は、勇者じゃない。」

『そう、君は世界を救う勇者じゃない。でも破滅へ導く魔王でもない。』


(なんなんだ。なんなんだよこれは!)


「答えろよ!おまえは誰だ。」

『わたしは、『吸収するもの』の対をなすもの。』

「あ、あの化け物か。」


(もう、あの惨状は、こりごりだ。)


「なぜ会話ができるんだ?もしかして『吸収するもの』もできるのか?」

『いま『吸収するもの』と会話ができるか怪しい。』

「なんの用だ。」

『世界を救ってほしい。』


(無理、無理だよ。)


「い、いやだ。もう、いい。」

『落ち着いて。君をずっと見ていたんだ。いや君だけじゃない、歴代の英雄たちも全部。』

「英雄?お、俺には、関係ない。」

『ただ、君のような、臆病で、卑屈の英雄は見たことない。』

「うるさい。」


(なんだよ。嫌味か?なら帰ってくれ。)


俺は、英雄じゃない。


『このままでは世界が滅ぶんだ。』

「話が見えない。帰ってくれ。」


嗚咽が漏れる。


『魔王が君を見捨てようとしている!このままでは世界が。』


(意味が分からない。やめてくれ。)


『だからそんな君をサポートしようと思って___。』

「もう、いっぱいいっぱいなんだ。こっちは。」

『ごめん。でもまた来るよ。』

「」


声の幻影は俺の元を離れた。

もう、英雄とか、勇者とか。

そんな話はしたくない。

俺は責任を負いたくない。







「っ、ああ、クソ。」


頭が痛い。


(いやな夢を見た。妙にリアルだったが。)


夢なんて久々だが。

それでもあまりいい気分ではない。


馬車の揺れが止まっている。

おそらく休憩でもしているんだろう。

ずっと走りっぱなしはきついし。

馬も人も。


荷台の隙間から日が差し込んでくる。

もう朝だ。


御者の女性は外で寝ているっぽい。

まぁ、男と一緒には寝たくない気持ちもあるだろう。

必然ではあるが。


外は気持ちがよかった。

朝の匂い。

表現ができないが。


天気は快晴。

空がよく見えた。


馬のそばで彼女が寝ている。

とてもきれいな顔で。

薄い金髪で、俺より少し年齢が上に見える。


しかし顔色が悪い。

昨晩は夜でよく見えなかったが、あまり眠れていないのかもしれない。


(誰でもつらいことはある。)


それをあまり抱え込まない方がいい。

俺が言えることではないけど。


朝だが、一応俺のコートをかけといた。

まだ風は少し吹いている。

嫌がられたら、その時だ。


俺は荷台に戻り、軽く水と食料をいただいた。

久々の食事だった。


(さて、ラプシカに行ってどうやって母親を探すか。)


もし生きていたら二通り。

奴隷になっているか、隠れているか。


奴隷になっていた場合は探しにくい。

所有者は名前を変えていると思うし、本人の精神状態が悪かったら意味がない。


隠れていた場合も探しにくいが、それでも奴隷になられているよりはましだ。


そして死んでいた場合は、せめてもの償いで国を荒らして帰ろう。

俺にその力があるかわからない。

世界改変を起こさずに滅ぼせればいいのだが。


安易にトリガーを引いてしまえばイグサが消える可能性がある。

それを回避しつつ慎重に行動する。


「...ート」

「は、はい。なんでしょう?」

「コート。」

「あ、そうですね。寒いと思もって。」

「私に気遣いは必要ない。」

「わっかりました。次から気を付けます。」


(せっかくの人の気遣いを無下にしやがって。)


「乗って。」

「はい。」


また馬車が動き出す。

会話もなく静かな時間だけが流れる。


(俺は、気まずいとか、感じていない。)


まあただ強引に情報を得ることはできる。

そう『鑑定』で。


(あまり癪ではないがしかたがない。)


スキル発動:『鑑定』


名前:フレン

状態:正常

クラス:アイシクル・マスター

スキ______


「やめて。」

「え、俺は何かしました?」

「『鑑定』使ったでしょ。」

「どうして。」


(使ったらバレるものなのか?アイリス、言ってくれよ。)


「無条件で相手を知れるとは思わない方がいい。」

「ごめん。」


(あのアイリスは死体だったから気づかなかったのか。)


研究員のアイリスが名前を明かしていたら、さぞやりにくあっただろう。


横でため息をつかれた。


(馬鹿にするなよ。)


「しょうがないわね。で、何が知りたいの?」

「え、教えてくれるんですか?」

「せっかくだから教えてあげるのよ。」


(うっし、やった。)


「あのラプシカってどういう国なんですか?」

「私の故郷。」

「あっ、えっと___」


(気まずい。)


「私の妹が連れ去られたの、奴隷として。」

「奴隷ですか。」

「そう、だから買い戻すために私はお金が必要なの。」


強く芯のあるセリフだった。


(奴隷って高いのか。)


無料で貰ったけど。

いや貰ったとかよくないな。

物扱いしているみたいで気分が悪い。


「他に聞きたいことは?」

「まだいけるんですね。」

「答えてやっているのよ。」


(人を、見下すなよ。)


「今のラプシカって。」

「酷いところよ。もう原形をとどめないほどにね。」

「そこまで。」


(ドバイか何かか?)


「金の国。経済とか政治とかそんなものはない。享楽に埋もれた。」

「あの、その両親とかは?」

「もうわからない。襲撃されたとき父さんも母さんとも離れ離れになっちゃった。」


寂しくぽつりと。

涙を堪えているのがわかる。


「すまない。」

「いいの、そのあとイグサが、囮になって、私を。」

「イグ、サ?」

「私があの時囮になっていたら。ごめんね。」


(なぜここで名前が出てくる?)


まさか家族か?

しかし都合がよすぎる。


「イグサを知っているの⁈」

「い、いやその奴隷としてなら見たことは、一度。」

「そう。ごめんなさい。」


(まだ信用できると分かったわけじゃない。)


もう少し粘る。


「何をしにラプシカへ。」

「ある人に伝言を。」

「伝言。わざわざ現地に出向いてまで?危険よ。」

「心配ですか?」

「い、いや別に。」


(チッ、はっきりしないな。)


頬を少し赤く染めている。

漫画でしか見たことがない。


(演技か?)


「なんとなく内情はわかりました。」

「ならよかった。」

「まぁ、はい。」


会話は終わった。

また静寂に包まれる。


時々こちらをチラチラと見ているようにも感じたが、いろいろ考えたかったので無視をした。


(さて、どうするか。)


思ったよりも状態はひどい。

正直甘く見ていた。


イグサの両親を見つけられる保証が一切ない。

むしろ死んでいる可能性のほうが高い。


(いっそ彼女に聞いてみるか?)


両親とは離れ離れと言っていたが何かほかにも情報があるのかあるのかもしれない。


(少しでも得るために聞くか。)


横を向くと彼女が俺の方を見ていた。


「きゃっ!」


そっぽを向いてしまった。


「その、いままで荷台を運んでばっかで、その男の人とはあまり。」

「それで聞きたいことができたんだが。」


顔を赤らめながらこっちを向いた。


「そういう時はもっと気を使ってあげてくれたっていいのよ。」


(こいつさっき気を使わなくていいって。)


まぁこれが女って、世間体的にダメか。


「で、聞きたいことってなに?教えてあげるけど。」

「あ~、そのラプシカにはレジスタンス的なのはいますか?」

「れ、れじ?なんて?」


(学がねぇな。)


「反抗組織みたいな。」

「あるよ。でも私もよくわからない。噂程度に聞いただけ。」

「そうですか。」


(おそらくあまり活動していないのか。)


人数も少ないだろう。

だから大きな行動はできないのかもしれない。


「ねぇもっと私に他に聞きたいことはない?」

「随分と積極的ですね。そんなに人と話すのがうれしかったですか?」

「どうだろうね。わからない。」


うれしそうな、でも裏には悲しさも混ざっているような。


「イグサさんはどんな人だったんですか?」

「イグサはね優しくて明るい子だったよ。」

「明るい子ね、そうは見えなかったのですが。」


(この人の基準にもよるけど。)


「そう、でもいつも家族のことを思ってくれて、小さなことでも気を配ってくれた。」

「うーん。」


自慢げに語る。

悪い意味ではなく。


(静か、だったような。)


スキルで無双していたのは覚えている。


「知っていることがあったら私に教えて。」


(少しかわいそうになっていたな。)


話しているときもずっと泣きそうだったし。


「ゾルバンっていう国で見ましたよ。」

「ほんと!」

「まぁ学園を訪ねてみてください。あそこがよく知っていると思う。」

「ありがとう!べつに感謝しているわけじゃないからね。」


(なんか、イグサには悪いことをしたのかもしれない。)


彼女ともっと会話をしていれば。

あんな形で終わっていなければ。

昔の自分を取り戻せいたのかもしれない。


「なんかすみません。」

「少し日陰に入らない?馬を休憩させなきゃ。」

「了解です。」


近くにそびえたつ一本の大木の下にもぐる。


(あと、どれくらいだろうか。)


ただあまり時間を浪費している場合じゃないと思う。

あの『吸収するもの』の対とか言っていたやつも焦っていた。


あまりラプシカでは時間をかけられない。

少ない時間を有効に使う。


しかしいったん休憩だ。

俺は腰を下ろした。


吸収の反対は、放出かな?

さてさてこの後どう展開していくでしょうか?


あの、馬車乗ったことないんで構造とかはよく知らないです。

いつも電車に乗っている。

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