34 リセット
海岸に船を着ける。
地面が赤く染まる。
もう夕方だ。
(疲れた、座ろう。)
手ごろな岩を探して腰をついた。
12月7日。
冬だから日が沈むのが早い。
この世界に来てからたったの9日しかたっていなかった。
たったの一週間ちょっとでいろいろ起こりすぎている。
大杉であらゆる出来事が霞む。
自分が何者で、何をして、何に向かっているのか。
ちょっとは分かった。
俺は人間としては確実に成長したと自負している。
(スキルのことは大体分かった。もう、何をすればいいのか。)
気になることといえば、『封印』の条件。
ただこれはわからない。
明確な答えはサポートが持っている。
たとえ会えたとしても教えてはくれないだろう。
(あと気になることは___イグサの出自。)
捨てた自分が何を言っているのだろうか。
今更合わせる顔も無い。
でも。
ラプシカ、氷の国。
おそらくここが出身国だろう。
氷系統のスキルを使っていたし。
(親に、あいさつにでも行くか。)
地面は陰で暗く、夕日が入り込んでこない。
どの面を下げていくのか。
人一人さえ守り切れなかった俺が。
あの時の精神状態が正常ではなかった。
これは言い訳になるのか。
他人を蔑ろにした時点でダメか。
(せめて親に場所ぐらいは。)
贖罪_____
重い腰を上げ地面を踏み出す。
(アリセインへ戻ろう。)
そんなに遠い場所ではない。
夜までには着くだろう。
地面には人のいたような跡がある。
大勢の。
おそらく世界改変で存在ごと抹消されえたんだろう。
アイリスも、いやすべてのサルゴニア国民も。
おそらく俺のせいで。
無責任だ。
世界改変のトリガーがまるで分らない。
だから何も感じない。
今も徐々に何かが改変されているのかもしれない。
自分が悲しくなる。
最初はアネモネ一人が死ぬだけで、悲しんだ。
深く、絶望した。
でも俺は死という色に適応してしまった。
他人の死をいとわなくなってしまった。
アイリスは俺が間接的に殺した。
でも俺は何も思わなかった。
何なら『鑑定』が使えるかどうかの実験に使った。
後戻りはできない。
前へ進むだけだ。
人の死を踏みつけながら、道を進む。
ただそれだけ。
しばらく道を進むと軍勢が見えた。
(あれは、なんだ?)
遠くてよく見えないがおそらくアリセイン軍だろう。
だってついさっきサルゴニアが抹消されたんだ。。
その中の一人が俺に声をかける。
「お、おい君!ちょっと聞きたいことがあるんだ。」
慌てていた軍勢が一斉に俺に目を向ける。
緊張する。
「向こう側には何があった?」
「何も、何もないですよ。人も、武器も、島も。何もないです。」
納得できない顔をしている。
無理もない。
「じゃ、じゃあ俺たちは何でここにいるんだ?戦争をしようとしていたんだろう?武器も、装備もある。でもその相手がいない。」
「すみません。ちょっとよくわからなくて。」
「そ、そうか。なら撤退するか。」
(おそらくあと少しもすれば戦争をしようとしていた記憶なんて消えるだろう。)
世界を再構築しなおすために。
存在しない記憶は抹消される。
勇者御一行は、例外かもしれないけどな。
俺はよくわからない。
日が完全に落ちた。
仕方がないが、冬だし。
(あの守衛にラプシカの情報を聞いて寝よう。)
手っ取り早い。
あの守衛は使える。
王都に変わった様子はなかった。
相変わらず馬鹿な冒険者の集団って感じだった。
平和だ。
知らぬが仏。
事件の中心にいると、どうも荷が重い。
「お、数日ぶりだな!」
手を振ってくれた。
俺は振り返さないが。
気恥ずかしい。
「よぉ、相変わらずここにいるんだな。」
「どうでもいいだろ。それよりなんだ?また聞きに来たのか。」
「話が早くて助かる。ラプシカの情報を教えてくれ。」
守衛は話し相手が来てうれしいのか快く受けてくれた。
ありがたい。
「ラプシカは氷の国。前に話したことは割愛する。一年前だったかな、襲撃があったんだよ。大規模な襲撃が。」
「襲撃か、対処はできたんだろ。」
「いやそれがな、厄介な連中で。奴隷商だったんだ。」
(イグサを連れ去ったのはあいつか?)
でもあいつは買い取ったと言っていた。
だから別の奴だろう。
あ、アリセインにいた奴か。
「奴隷商か、なんで厄介なんだ?」
「奴隷を連れているからだよ。しかも攻撃スキルの奴ばかり連れてきたんだ。それで国ごと負けた。」
(国が滅んだのか?)
「今のラプシカは、そうだな。娯楽街みたいな。世界中の悪がそこに集まっている。法もない。だから秩序もない。」
「もうラプシカ国民はいないのか。」
「さぁ、隠れているか。それとも奴隷となってそこで働いているか。まぁラプシカは攻撃スキルばかりだから、あまり奴隷としては適していないけどな。」
(道理でイグサが残っていたわけだ。)
そもそも奴隷に適すってなんだよ。
意味が分からん。
「奴隷ってどの層に需要があるんだ?」
「まぁ貴族かな。使用人みたいな。ほぼ人権がないものだし、無休で働かせられるんだ。だから家事能力が求められる。」
「まぁ大体わかった。」
「あ、そうだ。最近魔物が活発化しているらしい。いろんな町にも被害が出ている。きおつけろよ。」
(フラグ立てんなよ。)
「おう、じゃいつものくれよ。」
(現金なやつめ。)
ポケットを見たが、残りはあと半分もない。
「悪い、ちょっと最近金欠気味でさ、次あったときに渡すよ。」
「約束だぞ。」
「ああ。」
俺は背を向け馬車乗り場に向かった。
「頼むぜ~!」
ほんと、金にがめつい奴だ。
夜だがまだ馬車が少し残っていた。
しかしいやそうな顔をしている。
金はもらえるが仕事はしたくない顔だ。
(疲れているのか、残念。俺という客がいるんだよ。)
「誰か、ラプシカまで乗せてくれる方はいますか?」
しかし誰も名乗り上げない。
(クソッ、それもそうか。誰も犯罪国家に乗り込むバカなんていないか。)
「送ってくれるだけでいい。普段の倍は出す。」
一瞬振り向く者もいたがそれでも黙ったままだ。
(あいつに金を渡さないで正解だった。)
「じゃあ三倍だ!」
「じゃあ私が。」
(お!)
一人の女性が名乗り上げてくれた。
ありがとう、感謝している。
「ラプシカ、ですね。わっ、かりました。」
「ありがとう。」
すごい嫌そうな顔をしている。
そんなに嫌なら受けるなよ。
金のためなら人は動くとはこのことか。
「っ、乗ってください。」
「はい。」
「おい、危ないぞ。」「そうだ、やめた方がいいんじゃ。」
(まぁ心配する気持ちもわかる。)
「そこで日和っていた雑魚に、口出しする権利はない。」
「」
みんな黙っちゃったよ。
どうすんだよ。
「この若造が。死んでも知らんぞ。」
「いいえ、私はやる。金のためなら何でも。」
訳アリか。
借金だったら仕方がないよな。
知らんけど。
(この世界に金融機関なんてあるのか?)
「行きますよ。おそらく数日かかりますけど。」
「あ、お願いします。」
多雨名を引き、馬が走り始めた。
(ああ、マジで無計画すぎる。)
多分日付はあっていると思いうます。
多分ね。
多分だよ。




