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33 二つ目の容量

「」


まぶしい光が俺の顔を照らす。


(しらな、なっ!知っている天井だ。)


白一色に塗りつぶされた部屋。


(やはり拘束されているか。)


おかしい、なぜ牢屋に連行されていない。


奥にスキル習得装置がある。


「お、起きたの。」


目の前には、アイリスがいる。

隣にはあの研究員が。


「なぜ、俺がここにいる。連行したんじゃなかったのか。」

「君は素晴らしいスキルを持っているのね。」


(スキル、あ)


「お前、まさか。」

「そ、勇者のスキル『封印』これを大勢に習得できれば、勇者軍団ができる。」

「おい、やめろ。その力は軍事利用するものじゃない。」


研究員も渋った顔をしている。


しかしその反面アイリスは狂気的な顔をしている。


(冷たい。)


その時になってようやく気づいた。

水の手錠が掛けられている。


「そ、水は不定形。スイレンの手にあるようになっている。」

「おい、外せ!。」

「ははw、面白いこと言うね。スイレン見てな。これが君の功績だよ。」


(皮肉を言いやがって。)


スキル発動:『龍・加速』


動けない。

スキルが不発した。

そんなはずは。


「おい、スキルが発動しないぞ!どうなっている。」

「黙って、そこで見てなさい。」


アイリスは椅子に腰を下ろし、帽子を深くかぶった。


その瞳は天井の一点を見つめ、輝いている。


憧れである勇者になれる。

今まで抱いてきた理想が叶う。

そんな期待と興奮が、彼女の全身から溢れ出していた。


「さぁ、やりなさい。」

「____うん。」

「や゛め゛ろ゛ぉぉぉぉ!」


俺はこのスキルを使いこなせていない。

俺がこのスキルを持つべきじゃなかった。


でも。

それでも頑張ってきたのに。

少しでも何かを助けようと思ったのに。


仲間とやって失敗した。

だから一人で来た。


ダメだった。

結局俺は何も成し遂げられていない。


(俺は、世界を救う勇者じゃない。世界を悪へ導く魔王だ。)


装置が低く唸りを上げ、放電が始まる。


アイリスは恍惚とした笑みを浮かべていた。


「勇者が、私にメッセージをくれた。勇者になれと。」

「そんなこと、望んでいない!」


俺の叫びは届かない。


アイリスは両手を高らかに上げた。


「私は、ついに、勇者に!」


高らかに宣言した。

放電量が最大になる。


部屋中に雷が飛び散る。

雷鳴が轟き、青白い光が怒り狂う。


が習得後、なぜか動かない。


(あ、頭が。)


意識が一瞬、遠のく。


「あ、ああ。はぁ。」


(手が冷たくない。手錠が。)


手錠が、解けていた。

冷たさが消えている。


(どういうことだ)


「え、どういうことぉ?僕が失敗したことないのにぃ。」


彼女はまるで死んでいるかのように。

死んでいる?


「お、おい、アイリス?」


声をかけても反応がない。

目には光がない。


先ほどの表情とは一変、無表情に変わっている。


スキル発動:『鑑定』


さっき手に入れたスキルだ。

早速使ってみよう。


名前:アイリス

状態:死亡

クラス:アクアリスト

スキル:『封印』


装置に失敗はないと言っていた。


「どういうことだ。死んでいる。それに他のスキルがない。『封印』だけ。」

「え?そんなことはないはずだけどぉ。」


(おかしい。どういうことだ。)


仮説としてはこのスキルは譲渡できないとか?


しかし、死ぬのはおかしい。

譲渡できないなら死なないはず。


でもこいつは『封印』を持っている。


「この装置に失敗はないのか?」

「ないよ、だって僕が作ったし僕のクラスがベースとなっているし。」

「お前のクラスがベース?」


(道理でこいつが残っているわけだ。)


「僕のクラスは七つの大罪。クラスは暴食。」

「七つの大罪?」


研究員は少し誇らしげに、そして寂しそうに笑った。


(ねぇ怒られない?まずいよ。)


「世界各地に7人いるらしいけどぉ、ほかの6人に僕は会ったことない。」

「それもそうか。」


(世界広いし。)


「話は戻るけど、僕のスキルは他人のスキルを奪い取れるんだぁ。」


(協調性のないスキルだな。)


強いけどね。

俺もそれがよかったかも。


あ、潜在的に持っていたか。


「だから僕のスキルをベースにしてこの装置を作ったんだぁ。」

「どうやって作るんだ?」

「血にもスキルの情報があるからねぇ。それをうまくやってぇ。」


(説明がめんどいんだろうな。)


でもそのおかげで全員が全員強いスキルを持てるようになるのか。

単純にすごいな。


「でも副作用もある。」


(薬じゃないだろ。)


そういう時は副次的効果っていうんだぜ。

覚えとけ。


「あまりにもスキルを獲得しすぎると、ほかのスキルが消えたり、あとは記憶が無くなってしまうんだぁ」

「記憶?」

「そう、おそらく容量的なのがあるんだろうね。だからやりすぎないようにって言っているんだけど。」


(容量か。スキルってデータなの?)


ここで近代要素が来たか。


「てことはさ、アイリスって容量がオーバーしたから死んだってこと?」

「そうだと思うんだけど、その場合『封印』はすべてのスキル、そして記憶を失ってもオーバーする容量ってことになる。」


(えっ、マジか。てことは俺ってとんでもない容量なの?)


ちなみに物覚えは悪い方。

暗記系科目は苦手かな。


あっ、でも日本史は好きかも。

好きな教科はすぐに覚えられるっていうし。


「でもなんで俺は生きているんだ?」

「わからない。ぜひ解明s」

「地震?」

「どういうことぉ?」


地面が碁盤目状にそって赤い線が出ている。

そしてところどころ消えている。

まるで最初から無かったかのように。


「のんきなことを言っていられない。早く逃げるぞ!」

「え、うん。」

「走っていられない。担いでいくぞ。」

「え、わぁ!」


スキル発動:『龍・加速』


崩壊する施設を全力で駆け抜けた。


スキルで移動している間もどんどん消えていっている。

町も、森も、すべてが消えていく。


(某ゲームで自分の歩いていたところが無くなる、みたいなのやった気がする。)


のんきなのも今のうちだけだろう。

これはゲームじゃない。


町々、木々を抜け、あの木造建築群が見えてきた。


ただ民衆(暗殺者)が慌てふためいている。


「なにこれ!」「どうなっているの!」「だれか、助けて!」


(マジでどうなっていやがる。)


これはもしかして、世界改変か?


(いや、とにかく逃げることが先決だ。)


「船の操縦方法は?」

「えっと、レバーを引けばエンジンがつくよぉ。あとはハンドルで操作すればいい。」


(意外と簡単だな。)


ゲーム感覚でいける。


俺を匿った夫婦もおそらく。

悲しい。


人を頼るべきじゃないかもしれない。

俺は人を信じれなくなってきた。


「俺は、人を、どう見ればいいんだ。」


ただ風が俺の髪をなびく。

何も、ない。


船着き場が見えてきた。

何隻か停泊している。


「船着き場だよぉ。」

「ああ、いくぞ。時間がない。」


急いで船に向かう。


「おい、まて!アリセインのクソ野郎!ぶっ殺してやる!」

「そうだ!お前のせいで!」

「私も乗せて!」


後方に数十人のサルゴニア国民がいる。


「まずい、なるべく短時間で処理する。」

「ねぇ、行って。」



研究員が静かに言った。

行けと。


「は?」

「僕、うれしかったんだぁ。僕の装置は軍事利用されていたんだ。僕はそれを知りながら、ずっと黙って作ってきた。でも君は違った。君は私的利用してくれた。」

「いや、俺はそんなつもりでスキルを習得したわけじゃ___」

「でもいいんだ。初めて人の役に立ったと感じたよぉ。」


その顔はとても愛らしかった。

とても笑っていた。

あのアイリスとは違って。


「世の中には悪い人はたくさんいるよぉ。でもいい人だっている。だからさぁ、信じてもいいんじゃない?ひとを。」

「あ、そ、そうか。」


(人を、し、信じる。)


「行って、僕がここを食い止める。」

「あ、ありがとう。俺は君を、君を信じる。」

「うん!」


最後に。


「僕の名前はアイリス。」

「え、」

「同名ぐらい一人いたって不思議じゃないでしょ?」

「ああ、そうだな。」


「じゃあね!」

「ああ、バイバイ。」


さよならは言わない。

アイリスとの繋がりが絶たたれる感じがするから。


人を信じる。

信用の相互関係は、相手を信用しないと始まらない。


エンジンが唸りを上げ、船が動き出す。

背後で激しいスキル同士の衝突音が響く。


「少しは掴めたかもな、未来を。」


アクセルを踏み込み、俺は崩れゆく国から船を走らせた。



注釈:七つの大罪は、キリスト教の西方教会、おもにカトリック教会における用語。

ラテン語や英語での意味は「七つの死に至る罪」だが、罪そのものというより、人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情のことを指すもの


出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/七つの大罪


作者:よって大丈夫。

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