32 追加のデータ
反応速度も、銃の技術も、俺の方が上だ。
弾丸はまっすぐと男たちの肩を貫く。
「あがっ!」「うっ!」
呻き声とともに、奴らは膝から崩れ落ちる。
銃の落下音が彼らの敗北を意味していた。
「馬鹿な、連射式の銃があるなんて。」
「そうだ、お前たちがぬくぬくと島で閉じこもっているうちに、もっと技術が発展していたんだよ。」
アイリスはさっきとは一変、顔が引きつっていた。
彼女のプライドがへし折られた。
天井の魔石ライトが揺れる。
しかしすぐに
「わ、私のスキルは『シェアリング』、多くの人と五感を共有できる。」
「それがどうした。」
俺は落ち着いている。
どうせこの島からは逃げられない。
それでも抗うつもりだ。
「いずれここにはもっと多くの兵士がやってくる。逃げても無駄だこの国全体が、監獄だ。」
「そうか、なら俺はここを滅亡させるまでだな。」
「滅亡?」
(全員やるしかない。)
「檻ごと壊すんだよ。」
「無理だ。お前には仲間はいない。」
「そうだな。」
そう俺は一人だ。
いつだって、どこだって。
一人で。
「やっぱ人なんて頼るんじゃなかったな。」
「おい、まって!」
アイリスを置いて窓に向かって走り出す。
「私は___」
スキル発動『龍・加速』
ブーストで窓を割り外へ飛び出す。
「脱獄鬼ごっこの始まりだ。」
時刻はまだ昼。
姿を消すには、明るすぎる。
何とか夜まで耐えるんだ。
スキルで逆噴射をし落下速度を軽減した。
(あーあ、めんどい。)
周りには腕を構えて待っている奴らがいる。
おそらくスキル発動の準備をしているのだろう。
リーダー格の一人が一歩前に出た。
「抵抗するな。大人しくしていれば痛い目は合わない。」
彼の眼には余裕がある。
「そこまでして俺をとらえる意味はあるのか?」
(さて、どうやって逃げるか。)
船を奪うか、それとも島の中央を目指して何らかの情報を得るか。
「戦争において人質は重要だ。」
「あいにく戦争を経験したことがなくてね。」
(どうせやるなら両方だな。)
殺されない、っていう最強のアドバンテージが俺にはある。
俺は強欲だからな。
「さあ、その銃を下ろせ。」
「」
この銃は連射とはいえ
このデザートイーグルは最新モデルとはいえ、まだ試作品に過ぎない。
そしてこの時代は詰めが甘い。
何らかの欠陥はあるはずだ。
(これは賭けだ。)
長い期間ちゃんと開発された単発ライフルとは違い、これは___
俺はトリガーから指を離した。
銃は静かに落下していく。
「よし、そのまま___」
バンッ!
銃が暴発した
衝撃とともに銃弾がリーダー格の足を貫いた。
「なっ!銃は、離したはずだ。」
「馬鹿な!」「どういうことだ。」
全員が呆けていると同時にデザートイーグルを拾った。
そして右手を構える。
スキル発動『龍・息吹』
手から噴射される青い炎。
太陽を凌駕するほど燃えている。
焼死はつらい。
全身の神経が焼けきれるからだ。
俺は心の底に同情心が残っていた。
殺しはせずブレスで牽制をし、その場を去った。
俺は無我夢中に走った。
後から追いかけてくる怒号。
飛んでくるスキル。
降り注ぐ銃弾。
目を瞑り、耳を塞いで走った。
ただひたすらに。
「逃がすな!」「包囲しろ!」
声がどんどん近づいてくる。
どうやらアイリスが言っていた通り、島全体がすでに動き出しているらしい。
スキル発動『龍・加速』
またブーストをかける。
体が軽くなり、木々の間を滑るように抜ける。
(せめて何か爪痕を。)
中央に何かしらの資料があるはずだ。
それを回収して俺はアリセインに帰る。
(俺はエージェントだった?)
残念。
私利私欲のために今中央に向かっている。
サポートの言っていた通り俺の魔力保有量は人一倍多い。
速度が落ちる気配がない。
(このまま逃げ切る。)
しかし中央にも警報が知れ渡っているだろう。
そこは強引に抜けるしかない。
(ほんと、何のためにやっているんだろ。)
中央らしき建物が見えてきた。
あのカルト集団の時を思い出す。
(マジで馬鹿なことをしたな。)
結局捕まったし。
何なら改造を受けた。
走っていて気付いた。
ところどころ木造建築の中に近代的な白い建物がちらほらある。
中央へ進めば進むほど数が増えていく。
(おそらく港付近で勘づかれないようにするためか。)
もし港付近に近代的な建築があったら、そこは技術が発展していると確信する。
地面に草一つない、整理されて道を走る。
人通りはほとんどない。
おそらく警報で中に逃げているか、それとも陰に潜んで攻撃のタイミングを待っているのか。
(どっちでもいい、俺は新たなスキルを確保する。)
おそらく目の前にあるのが一番デカい研究所だろう。
何か特徴があるのではなく、白で統一されている。
「行くか。」
入り口はガラスでできていた。
自動で開いた。
(自動ドアか、この世界には似合わないな。)
本当にね。
研究所内はスカスカだった。
まるで最初からいなかったかのように。
(俺の予想が外れたな。)
研究所内で敵が待機していると思ったんだが。
壁掛けしてあるマップによると、一番奥にスキルが新しく確保できる装置があるらしい。
ガバガバすぎる。
何かおかしい。
セキュリティ的なものが一つもない。
そもそも警報もなっていない。
(島に一度も攻められてことがないから、ってことか?)
慢心ってやつだな。
そして一番奥の部屋らしき扉の前についた。
(ルームナンバー000:スキル習得室)
案の定扉は開いた。
「なっ、なんだい君はぁ?」
「は?」
そこには一人の女の子が突っ立ていた。
アイリスと同じくらいの女の子。
白衣姿で眼鏡をかけた、いかにも研究員らしいが。
「肌が黄色、君はサルゴニアの人じゃないねぇ。大陸からかい?」
「なぜ攻撃しない?」
しかし相手は警戒を解いている。
「こ、攻撃?なぜ、君は何かしたのかい?」
「ん、うーん。」
(情報が、伝達されていない?)
「ほかの研究員はどうした?」
「ほかの研究員?みんな戦争に駆り出されたよ。どうしてぇ?」
(戦争。まさかもうサルゴニアは戦闘準備に入っている。)
港付近で拾われたのもそういうことか。
俺がもし中央に行ってこの情報がバレればふいうちが取れないから。
(戦争とか本当にやめてほしいんだけどな。)
「じゃあどうして君はここに?」
「僕はスキルの研究かなぁ。」
(僕っ子か。)
いやそんなことはどうでもいい。
軍事力を少しでも上げるためか。
少しでも勝率を上げたいのだろう。
「大陸の人が来るのは初めてだよぉ。僕うれしい。」
「初めて?今までもなかったのか?」
「うん。誰も警戒して入れなかったんだぁ。」
(なおさらなぜ俺を?)
意味が分からない。
「そうだぁ!君の血を取らせてよぉ。」
「は、血?いいけど。」
ルンルンで道具を取りに行った。
そしてステップをしながらもどってくる。
うれしそうだ。
「血をあげるがその前に一つ条件がある。」
「なにぃ?」
「俺にもスキルが欲しい。」
「いいよぉ。」
即決だった。
警戒などしていないのか、それともどうでもいいのか。
もしくはその両方か。
「何が欲しい?」
「何があるんだ?」
「こっち、こっち~!」
あまりにもガキっぽいが。
電子版に無数のスキルがあった。
(えっと、『シェアリング』に『ウォーター・バレット』、
『ウォーター・エクスプロージョン』_____)
守衛の言っていた通り水系統のスキルが多い。
「どれにするぅ?」
「そうだな。」
(おそらく時間がない。そろそろここに奴らが来るだろう。)
「戦闘面でも生活面でも有用できるスキルはあるか?」
「そうだねぇ『鑑定』なんていいんじゃない?」
(『鑑定』か、数年前に鑑定スキルは~みたいなのが流行っていた気がする。)
あとは鍛冶師とか、器用貧乏とか。
「わかったそれで頼む。」
「了解~。」
俺は装置の前に案内された。
そうだな、飛行機を縦に配置した、みたいな。
飛行機の本体の部分に赤い液体が入った瓶がずらりと並んでいる。
「じゃあその椅子に座って。そしてそれを頭にかぶって。」
「ああ、わかった。」
(なんか、電波攻撃が防げそうだな。)
5G~、5G~。
「それじゃあ、いっくよ~。」
「あ、わかttあ゛あ゛」
(頭が、い、たい。)
頭で放電しているのがわかる。
体が書き換えられているような感覚。
全身に電流が走る。
存在しない記憶を植え付けられた感触だ。
「が、あ゛、はぁはぁ」
「終わったよぉ。大丈夫?」
(これを、アイリスはやったのか。)
いや何十、何百とやったのだろう。
「それじゃぁ、君の血を頂戴。」
「ああ、左腕で頼む。」
採血は利き腕と反対でね。
プシュ、という音とともに血がとられた。
「ハイ終わり。ありがとう。」
「ああ、何に使うのか?」
「え、これで新しくスキルを習得できるれぱーとりーが増えたんだよ。」
(血を、習得用に。)
『封印』が他の人でも習得ができるようになったのか。
(いいのかな、勇者が量産されるけど。)
俺以外が魔王を倒してくれればいいか。
俺は何もしなくていい。
「しばらく座っておいてね。血をたくさん抜いたから。」
「ああ、ありがとう。」
近くの椅子に座り込んだ。
頭がボーとする。
(まずい、早く逃げないとな。)
「悪い、俺行くわ。」
「そう、気をつけてね。」
「ああ。」
壁に手をつきながら部屋を出た。
白が反射して目が痛い。
「手を挙げろ。」
「あ゛?」
気づかなかった
いつのまにかアイリスが立っていた。
「お前が、俺にw?」
「新たにスキルを習得したね。」
(電気ショックの影響でまともに動けるかどうか。)
「手を挙げるのはおm」
スキル発動:『ウォーター・パレット』
「そこは、待つのが、お決まり、だろ。」
「君の人生はいつもお決まり通りだったのかな?」
「違う、な。」
そう、異世界に来てからいつも予想通りじゃなかった。
残念だよ。
俺が万全の状態だったら最強だったのに。
「無敵ごっこは終わりだよ。」
「覚えt」
虚空の闇に落とされた。
「さて、こいつを連行するか。」
結構ハイペースでしたね。
次の話はゆっくりめに行きます




