31 仲間などいない
「おい、起きな。」
(うるせぇ、俺は寝たい。)
「物音がしないと思ったら、ここは寝る場所じゃないんだよ。」
(図書館ってさ、静かだから寝やすいんだよね。)
いやだ。
俺はまだ目を開ていない。
「起きないとここから出すよ。」すみません。僕が悪かったです。」
なぜかわからないがすぐに目が覚めた。
開眼!
(視界が広い。)
「わざわざサルゴ二アに来てまで何を調べたんだい?」
「スキルについて、少し。」
かけてある眼鏡を戻しながら聞いてくる。
一瞬でも聞き逃さないような目つきで。
「スキル?ほかの国でもいいじゃないか。」
「僕の友人が、ここはスキルについて詳しいと言っていたような気がして。」
(友人?ただの賄賂だよ。)
これまでに守衛にいくら渡しただろうか。
すると司書が俺の読んでいた本に目をつけた。
「勇者の本かい。珍しいものを読んだものだ。」
「そうなんですか?」
(アイリスは異常なのか。)
いやコミュニケーションエラーが起こっていたから当然か。
「そうだよ。今となってはこの童話、勇者物語を知っている子は少ない。」
「そうなんですか。」
(みんなSNSをいじっているのかな。)
冗談だ。
発展しているとはいえ、さすがにないと思う。
「そういえばこの国って独自で発展しているんですよね。」
「そうだね。一度も攻め込まれたことはないからね。」
(日本みたいだな。)
島国って防衛においては最強なのかもな。
「例えば何があるんですか?」
「船の燃料に魔石を利用できたことかな。今は陸上で馬車以上の速度を出せるものを開発している。」
(要は車か。)
残念ながら運転免許は持っていない。
(俺未成年だから。)
正直車は怖い。
事故とか不安だし、パニックになりそう。
「ほかには何があるんですか?」
「魔石を医療に使ったり、あとは新たなスキルを習得できたり。」
聞き捨てならない情報が聞こえた。
「ん?スキルを習得できるんですか?」
「そうさ、クラス関係なしにね。」
(マジか、これで俺も脱却できるのか。ゴミスキルから。)
「どこでできますか?」
「それは教えないよ。残念だけど。」
(クソが、希望を抱かせやがって。ぬか喜びかよ。)
ケチだな。
「あんたの国はどうなんだ?」
「僕ですか?」
(アリセインか。俺ほとんど知らないんだよな。)
観光しかしていないし、そもそも興味がない。
クラスの連中のほうがよっぽど知っていると思う。
「すみません、僕の国はよくわかっていなくて。」
「そうかい、大体わかったよ。」
(マジか、超能力者だったのか。)
心を読めるなんて。
「もうお昼だよ。何か外で食べてきな。」
「はい。」
俺を追い出すように図書館から出された。
そして司書は俺が図書館を出たと同時にどこかへ走っていった。
(何を食べるか。)
俺の人当たりがよくないのか、中に入れてくれる飲食店は無さそうだ。
(戻るか。)
素直にね。
「いたっ。」
「ごm...」
俺にぶつかった中学生ぐらいのガキがつっ立っていた。
「あの、すみません。本当にすみませんでした。」
「あ、いや、いいよ。全然。」
笑顔で返したが、なぜか返ってさらに怖がっている。
「ど、どうしたの?」
「いや、なんでもありません。では失礼します。」
怯えながら俺のもとを去っていった。
「俺の隠しきれないオーラが出ちゃったのか。」
「中二病もほどほどにね。」
「へっ?」
変な気配が後ろにある。
「アイリスか。」
「そーだよ。何子供ビビらせているの?」
「俺のあふれんばかりのオーラが。」
しかしあまり受けなかったようだ。
「何それ、スイレンってそういうキャラだったのね。」
「誰でもあこがれる時期だ。」
(そう、中二病にね。)
もう16だけど。
「何しているの。早く帰ろ。」
手を引っ張って誘導してくる。
「ああ、お前そんな積極的だっけ。」
「午後休だから。早く帰りたい。早く本読みたい。」
(相当なオタクだな。)
小説にそこまでめいり込むなんて。
すごいね。
「わかった。」
俺はアイリスと並んで帰った。
帰る途中周りからジロジロと見られたが。
もう慣れてほしいものだ。
アリセインから来たとはいえそこまで警戒しなくても。
アイリスもアイリスでせかしてくるし。
(もっとスキルについて調べるべきだったかな。)
仕方がない。
司書に追い出されたんだから。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
お母さんが出迎えてくれた。
「お父さんは?」
「ちょっと今日は忙しいって。」
(漁なんだから一日中出るだろ。)
考えろよ。
歴史に脳を侵されていないか?
「ご飯は冷麺よ。」
「やったー。」
(明るいな。キャラがわからん。)
わからん。
なぜ冷麺なんだ?
もう冬だぞ。
多分12月回っていると思う。
知らんけど。
「スイレンさんも食べていく?」
「あ、はい。」
(本意ではないがいただこう。)
席について食べ始めた。
(さて、これからどうしようか。)
勇者と自分のスキルが同じ可能性が高い。
それを証明することと、新たにスキルの習得をできることについても知りたい。
冷麺はツルっとしていておいしかった。
ただ寒いが。
アイリスも二階へ上がったのでそれに倣って俺もついていった。
「なに?なんでついてくるの?」
「朝言っただろ、俺はスキルについて聞きたいって。」
歴史に脳がおk...(2回目)
「わかった、しょーがないわね。何が知りたいの?」
「勇者のスキルって知ってる?」
アイリスはため息をつきながらも口角がだんだん上がっていく。
(すっげーニヤニヤしてんな。)
「持論だけどね~。」
「持論なのかよ。」
(信憑性が。)
まぁオタクの一意見として聞いとくか。
「勇者のスキルについてはまだよく分かっていない。私も一通りの文献を読み漁ったけど明確な名前は出てこなかった。」
「残念だ。」
「ここから私の意見。とある文献には、スキルが解放されていないと書いてあった。つまりどういうことか。封印されているんだ。」
(このままだと俺と同じ結論に至りそう。)
「そして、その解放後のスキルは童話にも出てきた通りあらゆるスキルを使えると思う。」
「俺と同じ考察結果だな。」
「あれ?」
アイリスが少し驚いた顔をした。
(聞く意味がなかったな。)
「そうか。大体わかったよ。」
「ちょっと待って、まだある。」
「なに?」
これ以上先に何があるのか?
見ものである。
「ここからはちょっと妄想の域に入るかもしれない。」
「はぁ、OK。」
「おーけー?よくわかんないけど、私の妄想では勇者は何代も続いていいる。」
(何を言っているこの女は?)
それはいるだろう。
魔王がいればそれを討伐する勇者もいるはずだ。
「勇者に関する文献はいくつもある。でもどれも劣化状態が異なるの。」
「物によるだろ。」
「いや違うの。どれも同じ素材なの。」
(頭が痛くなってきた。)
「そして、どれも同じ内容なの。多少の差異はあるけど。でもスキルに関することも、魔王を倒したことも同じなの。」
「著者によって違うだろ。」
「最新のはこれ。」
アイリスは本棚から一冊の本を取り出しながら続けた。
本棚から勇者の記録が出てきた。
「これは74年前に書かれたもの。でもそれ以上前のものもあるの。」
「書き直しってことだろ。読みやすくしたんだろ。」
「いや違うんだ。冒険の内容も異なっている。勇者の性格も。」
(うーん、頭痛が痛い。)
「これは勇者が何代もいるっていうこと。」
「いや、当たり前だろ。」
「でも全員の勇者が魔王を倒すとは限らないでしょ、つまりこれは勇者と魔王が何らかの因果で繋がっているということだよ。」
「は?」
アイリスは自分の意見が伝わらなかったのか落胆してしまった。
しょんぼりとしている。
「いいよ、どうせスイレンには理解できない。」
「わかった、ごめん。聞くよ。」
光を取り戻したアイリスはまた話し出した。
「つまり勇者と魔王は物理的につながっているということだよ。」
「なに魔王と勇者がくっついているってこと?」
「違うよ、そういう運命みたいな?運命の糸でつながれている的な感じ。」
(やはり曖昧だな。)
面白い話を聞けたしいいか。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
熱中しすぎて息切れをかましている。
考察乙
「もう一つ聞きたいんだけどさ。」
「うん、なに?」
「クラス関係なしにスキルを習得できるって聞いたんだけど。」
空気が変わった。
アイリスだけのはずの視線が、全身から見られているような感覚へと変貌した。
そしてアイリスの笑顔が、音を立てて剥がれ落ちた。
「なに?どこで聞いたの。」
声が、低く、冷たく、まるで別人のように変わっていた。
瞳の奥に光が消え、ただ冷たい闇だけが残る。
(ちょ、まってよ。)
地雷を踏んだか。
「いや、なんでもない。」
「いや、重要なことだよ。」
アイリスが一歩、ゆっくりと近づいてくる。
鼻先まで顔を寄せ、吐息がかかる距離で睨みつけてきた。
「もしこの情報がアリセインにでも漏洩したら、即刻戦争の火蓋が切られる可能性がある。」
その言葉に、冗談の余地は一切なかった。
「いや、そんなことはないでしょ。」
冗談が通じない。
「戦争なんてやめようよ。」
「スイレン、あなたはいいわね。自国が戦争なんて経験したことがないのね。」
彼女の声は静かだが、底に激しい怒りと焦りが滲んでいた。
「いや、どこからも攻められていないんでしょ。」
「そうね、でも内戦はよく起こっていたわ。」
(戦国時代かな。)
いや今はそんなことを思っている場合ではない。
早く機嫌を戻さないと。
「俺は、どうすればいいのかな?」
「あなたを連行する。戦争までの準備の時間を少しでも伸ばす。」
アイリスの唇が、冷たく歪んだ。
「そしていずれ戦争の時が来たらあなたを人質として使う。」
(まずいな。)
あのカルト集団の時と同じ状況はごめんだ。
しかし逃してくれる雰囲気もない。
おまけに仲間もいない。
「入れ!」
「はっ!」
ライフルを持った男たちが一斉入ってきた。
彼らの目は、容赦のない殺気で満ちている。
銃口が、一斉に俺に向けられた。
(へっ、へへ。)
内心くそ焦っている。
やはり銃口を向けられることは慣れていない。
心臓が激しく鳴り、冷たい汗が背中を伝う。
指先が微かに震える。
(でも俺は、抵抗する。)
俺は内ポケットに手を入れた。
指先が、冷たい金属に触れる。
ゾルバンで回収したデザートイーグルに手をかけた。
「何をしている。まさかナイフか何かで反撃をしようとしているのか?」
「ははw、無知な島国の国民よ、これだけは覚えておけ。」
俺は息を吸い、ゆっくりと銃を引き抜きながら、唇を歪めた。
警戒しながらも、こちらを凝視してくる男たち。
(大丈夫だ。利き腕だし、龍の腕でカバーすればいい。反動はどうにかなる。)
「俺は、一人だ。」
「?」
そして俺は銃口を奴らに向け、迷わずに発砲した。
ぼっち、やーいぼっち。
すー、はい。
ブーメランが突き刺さったような感覚です。




