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26 勇気

地面の感覚。

肌に触れる冷たい石。


懐かしい感覚だ。

ついさっきまで死んでいたから。


そして視界に映っていたのはおびただしい化け物だった。


(これが、『吸収するもの』か。)


巨人。

肌がなく筋肉がむき出しになっている。

常にまがまがしいオーラを放っている。

ところどころに吸入口があり、おそらく当たりの魔力を吸っているのだろう。

背中には翼っぽいものが見えるがデカすぎてよくわからない。

とにかく気持ちが悪い。


突風がすごい。


(とにかくみんなを避難させなきゃ。)


しかしどっかの馬鹿のせいで全員気絶しているので、一人ひとり救助しないといけない。

命懸けのハードミッションである。


(イグサ、イグサはどこだ?)


しかしあたりを見渡しても見つからない。

リングのほとんどを吸収するものが占めている。

もしかしたらどこかに吹っ飛ばされたのかもしれない。


(クッソ、どうする。人命救助が先か、それとも私情を先にするか。)


その逡巡は、ほんの一瞬だった。

突如目の前が暗黒に包まれる。


「はっ!」


それは、『吸収するもの』の拳だった。

巨大な拳が俺を捉え、壁まで吹き飛ばした。


(あっ、ああ、まずい、こんなところで、ダメージが。)


「孵化したばっかで、俺に対しての、負荷がちっさい。なんちって。ごほっ。」


背骨が軋む。

口から血が滴れる。


上から何人もの死体が降ってきた。

おそらくさっきの攻撃に巻き込まれたんだろう。


「ああ、ああ!」


その場でうずくまってしまう。


(俺には、やっぱ、人助けなんて。)


さっきの志はどこに行ったのだろうか。

呼吸が荒くなる。


「ユゥ、だいじょ、うぶ?」

「イグ、サ。生きていたのか?」


(よかった......生きてて。)


ぼろぼろのイグサが立っていた。

服も破けていて、はだけている。


「なぁ、早く、逃げてくれ。」

「ユー、逃げないの?」


近づく彼女を押しのけていった。


「俺は、俺は。」


しかし温かい手が、強く俺の手を握った。


「ユー。」

「え?」

「できるよ。だって、私、救ってくれた。」

「救った?奴隷から奴隷になっただけだろ。主が変わっただけだ。」


でもその瞳はまっすぐと俺を信じている。


「ユー、できるよ。やらないと、分からない。だから、勇気を持って。」


(勇気、か。ははwサポートも同じようなことを言っていたな。)


サポートに元気づけられたと思うと癪だが。


「ありがとう、イグサ。俺、やってくるよ。」

「うん。じゃあ、私も。」


しかし俺はその手を振り払った。


「これは俺が成し遂げなければいけないことだ。だから先に逃げてくれ。」

「え、私。......分かった。私、逃げるね。でも、帰って来てね。」

「ああ、必ず。」


そうして彼女は俺を置いて去っていった。

言い方がとても悪いが。


(シフトチェンジだ。)


「さて、自分の力で解決してやるよ。見てろ、サポート野郎。」


スキル発動『龍・加速』


リングを囲うように、人がずらりと横たわっていた。

全員寝ているのか。

いや気絶か。


一人、また一人と抱え上げてリング外へ運び始めた。

しかし最大で二人しか持てないので、時間がかかる。


中には知っている顔だっていた。


厄介なのは『吸収するもの』がなりふり構わず攻撃をしていることだ。


「邪魔なんだよ!」


咆哮を上げながら拳を振りかざしてくる。

勢いは計り知れない。


「止めてやるよ!」


スキル発動『龍・衝撃波』


向かってくる拳に対して殴り返す。

轟音が響き、『吸収するもの』はわずかにのけぞりかえる。

うめき声をあげながら俺を睨む。


腕が痛む。

耳鳴りがする。

頭だって痛い。


「ああ!多すぎんだろ!」


一人、また一人と運ぶ。

でも、明らかに追いつかない。

『吸収するもの』の攻撃が当たるたび、容赦なく人が潰れていく


(ごめん。ごめん。)


でも下を向いていられない。

犠牲者を減らすために。


(いや違う。少しでも生存者を増やすために。)


『成長段階第二フェーズへ移行します。』


「成長?こいつ生物なの?」


今までむき出しになっていた筋肉を覆うように肌が形成した。

より滑らかで、なおかつ禍々しい外見になった。


そして右手を壁にかざして、スキルを発動した。


固有スキル発動『吸収』


「は?」


(固有?)


突風の逆、今度は奴に吸い込まれる。


「待ってそんな!」


しかし他の人たちは為す術もなく吸い寄せられていく。

悲鳴を上げる間もなく、数十人が一気に飲み込まれていく。


(やばい俺もこのままじゃ。)


スキルで何とかするしかない。


スキル発動『龍・加速』


「くっ!あ゛あ゛!」


固有スキル発動『フルバースト』


これまで貪り尽くしてきた人やモノが、一斉に吐き出された。


(やばい。)


潰れた肉片と血が、雨のように俺の体を叩く。

体が潰された感覚だ。

目の前が血で染まる


「ああ、ふざ、俺が、ああ!」


全員死んだかもしれない。

もう踏ん張る意味がないかもしれない。


(弱音を吐いたら、逃げていいことになるのか。)


いや違う。

帰るんだ。

血が出て、骨が折れ、精神が砕けようとも。


「立て!残っている人たちを助けろ!魔力、全開放!」


スキル発動『龍・全加速』


空に浮いた気分だった。

右腕のきしむ音が聞こえる。


何人かまだ物陰に引っかかっていた。


「必ず......助ける!」


『吸収するもの』の攻撃をもろともせず。


残っていた2人を抱え闘技場から出した。

限界だった。

その場で俺は膝から崩れ落ちた。


「俺、やったよな。」


天を見上げサポートにつぶやく。


助けた人を集めていたところに、一人立っている男がいた。

ほかの誰も気づいていない。

俺だけが見えたように感じた。


「あとは俺がやる。」


男は静かに言い、闘技場へ向かっていった。


そして一瞬まぶしい光が差し込むと同時に、『吸収するもの』の雄たけびが止まった。


「ユー!大丈夫?」


イグサが駆け寄り、俺の体を抱きかかえてくれた。


「ああ、俺は戦うためじゃない。助けるためにこの力を使ったよ。」

「ん?大丈夫?」


質問の答えには不適切だった。

ただ微笑みを返してくれた。


「大丈夫。ありがとう。」

「うん。」


そして彼女の腕の中で眠りについた。


人に話しかけるのって勇気いりますよね。

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